
マイクロソフトは、以前から噂されていた自社開発によるXboxブランドの携帯型ゲーム機について、現在は開発を一時停止しているようです。代わりに、ASUSと共同開発している「Project Kennan」など、パートナー企業製の携帯機とWindows 11のゲーム最適化にリソースを集中する戦略を取っていると複数の関係者が伝えています。
携帯型PCゲーミング市場の現状
近年、携帯型PCゲーミング市場は、ValveのSteam Deckの成功を皮切りに急速な成長を遂げています。ASUS ROG AllyやLenovo Legion Goといったデバイスも登場し、Windowsベースの携帯型ゲーミングPCが新たな選択肢として確立されつつあります。このような市場環境の中、マイクロソフトは自社開発によるXbox携帯型ゲーム機(内部では「Pembrooke」と呼ばれていた可能性あり)の開発を一時停止することを決定しました。これは、同社が携帯型ゲーミング市場における戦略を大きく転換したことを示唆しています。
Windows Centralの報道によれば 、マイクロソフトは代わりに2つの分野に注力します:
- ASUSとの協業による「Project Kennan」の開発完了と発売
- Windows 11のゲーミング性能最適化(特に携帯機向け)
これはプロジェクトの完全な終了を意味するものではなく、将来的に自社製携帯機の開発が再開される可能性は残されています。この決定は2025年5月に社内で発表されたとのことです。
自社製携帯機「Pembrooke」はなぜ一時棚上げに?
報道によると、マイクロソフトはかつて、2027年頃の発売を視野に入れて、次世代Xbox(Gen-10)と並行して自社製のXboxブランド携帯型ゲーム機「Pembrooke」を開発していました。この携帯機は次世代Xbox環境と完全に統合された専用デバイスになる予定でした。
現在の開発一時停止の主な理由は、限られたリソースの最適配分とSteamOSの競争力への対応です。SteamOSは多くの携帯機でゲーム性能やバッテリー効率においてWindows 11よりも優れた評価を受けており、マイクロソフトはまずWindows 11の携帯機向け性能改善を最優先課題と位置づけることにしました。
ASUS共同開発「Project Kennan」の進捗
一方で、ASUSと共同開発している携帯型ゲーミングデバイス「Project Kennan」は、順調に開発が進行しています。Windows Centralによれば、このデバイスはハードウェア面ではすでに開発がほぼ完了しており、2025年後半の発売が予定されています。
KennanはAMDの新型プロセッサ「Z2 Extreme」を搭載する初期製品の一つになると見られており、Windows 11ベースの携帯型PCゲーミングデバイスとして、Xboxアプリや専用UIとの統合が強化されています。既存のROG AllyやLenovo Legion Goと同様のカテゴリに属しますが、より強力なXbox統合機能を備えることが特徴です。

Windows 11ゲーム性能の大幅強化へ
マイクロソフトによる戦略転換の背景には、Valveが展開するSteamOSとSteam Deckの躍進があります。SteamOSはLinuxベースのOSで、多くのレビューでゲーム性能やバッテリー効率においてWindows 11より優れていると評価されています。
この競争力に対応するため、マイクロソフトはWindows 11の携帯型ゲーミング向け最適化を最優先課題と位置づけました。具体的には以下の領域に注力しています:
- バッテリー消費の最適化
- ゲーム起動時間の短縮
- Xbox Gamebarの改善
- オーバーレイ機能の強化
- 画面サイズに応じたUI自動調整機能
これらの改善は、Project Kennanを含むすべてのWindows 11搭載携帯ゲーム機に恩恵をもたらすことになります。
Steam統合テストの噂 ─ 次世代Xboxへの布石か
興味深いことに、業界のインサイダー「eXtas1s」の報告によれば 、マイクロソフトはMicrosoft StoreとSteamの統合テストを社内で開始しているとされています。この統合により、ユーザーはWindows環境から、そして将来的にはXbox環境からもよりスムーズにSteamを起動できるようになる可能性があります。
eXtas1sは「次世代XboxはコンソールというよりもっとPCに近い存在になる」と述べており、「Steam Developer Beta」というコードネームの下で限られたスタッフのみがアクセスできるテスト環境が存在するとしています 。
この一見矛盾するようなSteamとの関係は、実際には明確に区別できます:
- SteamOS(LinuxベースのOS): Windows 11の競合として対抗すべき存在
- Steam(ゲームプラットフォーム): Xbox/Windows環境に統合し、共存を図る対象
マイクロソフトは「Steamというゲームストアを自社エコシステムに統合しつつ、SteamOSというOSには対抗する」という二面戦略を採用していると考えられます。
次世代Xbox開発は「最終段階」に
Xbox本体の次世代機(「Gen-10」)については、Xbox部門のSarah Bond社長が「これまでで最大の技術的飛躍になる」と述べており、複数の内部情報筋によれば開発は最終段階に入り、2026年後半の発売が予定されています。
今回「棚上げ」となった携帯機も次世代Xboxエコシステムの一部として計画されていたものですが、マイクロソフトは当面はパートナー企業による携帯機に注力する方針です。
また、クラウドゲーミング分野でもマイクロソフトは新たな展開を準備しており、GeForce Nowに匹敵する低遅延を目指したクラウド基盤の社内テストが進行中とされています。過去に中止された「Hobart」と呼ばれるクラウド専用端末の技術が、今後のサービス強化に応用される可能性もあります。
Xbox Showcase 2025は6月8日に開催
マイクロソフトは公式にXbox Games Showcase 2025を6月8日午後10時(日本時間6月9日午前2時)から開催すると発表しています 。このショーケースでは、ファーストパーティスタジオとサードパーティパートナーからの新作タイトル情報が公開される予定で、直後には「The Outer Worlds 2 Direct」も実施されます 。
ショーケースでは次世代Xboxや携帯機戦略についての言及がある可能性も考えられますが、その詳細は明らかになっていません 。配信はYouTube、Twitch、Facebookなど複数のプラットフォームで、40以上の言語でアクセス可能です 。
マイクロソフトのハード戦略、柔軟性とスピードが鍵に
コンテンツ面では、マイクロソフトはXbox Game Passの拡大や主要スタジオの買収により、強いラインナップを構築しています。一方、ハードウェア戦略は競合環境の変化に応じて柔軟に調整されています。
自社製携帯機の一時棚上げという決断も、この柔軟性の表れだと言えるでしょう。Windows 11の性能最適化とASUSとのパートナーシップに集中することで、マイクロソフトは携帯ゲーミング市場での競争力を高めつつ、将来の自社製品への道を保持する戦略的判断を行ったと見ることができます。
なお、本記事で取り上げた内容は、マイクロソフトおよび関係各社から正式に発表されたものではなく、あくまで複数の報道や関係者情報に基づくものです。今後の状況により内容が変更される可能性がありますので、情報の取り扱いにはご注意ください。
情報元:Windows Central