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「Senua’s Saga: Hellblade II」 ─ 圧倒的映像美と精神の深淵を巡る〝体験〟

Review

これはゲームか、芸術か。「Senua’s Saga: Hellblade II」が提供するのは、心を揺さぶる〝体験〟です。UIを排した革新的な設計、幻聴、フォトリアルな映像が、プレイヤーを主人公の精神世界へと深く引き込みます。万人向けではないからこそ心に刻まれる、その物語の核心に迫ります。

はじめに

2024年5月21日、アクションアドベンチャーゲーム「Senua’s Saga: Hellblade II」が発売されました。精神疾患というテーマに真摯に向き合い世界的に評価された前作の続編として、その映像技術と物語表現のさらなる進化に大きな期待が寄せられていた一作です。

この記事では、前作を未プレイの筆者がXbox Game Passで実際にクリアした率直な感想をお届けします。重厚な物語や芸術的な表現を求める方、また本作の購入を検討している方にとって、一つの参考となれば幸いです。

万人向けではないが特別な体験

「Senua’s Saga: Hellblade II」は、従来のアクションアドベンチャーとは一線を画す、他に類を見ない〝体験〟を提供します。芸術性の高いビジュアルとサウンド、そして精神の深淵に正面から向き合う挑戦的な試みは、ゲームというメディアの新たな可能性を感じさせます。

クリアまでのプレイ時間は、収集要素を含めて約11時間(メインストーリーだけなら7~8時間)と短めです。しかし、それを補って余りあるほど濃密で、記憶に強く刻まれる作品と言えるでしょう。

前作未プレイでも楽しめる?

本作は前作の続編ですが、物語は独立しているため、初めての方でも問題なく楽しめます。

ただし、主人公セヌアの人物像や苦悩の背景を知っていると、物語への没入感は格段に深まります。実際に前作をプレイしていなかった筆者は、序盤は独特の世界観に戸惑ったものの、次第にその魅力に惹きつけられました。

もし時間に余裕があれば、先に前作をプレイすることで、本作の物語とテーマをより深く味わえるでしょう。両作品を続けてプレイすれば、主人公セヌアの成長をよりしっかりと感じ取れるはずです。

没入感を最優先したストーリーとシステム

物語の舞台は9世紀のアイスランド。故郷を襲ったヴァイキングを追って、主人公セヌアはこの地に足を踏み入れます。物語は、奴隷商人に囚われたセヌアが、嵐による船の難破を乗り越えて脱出するという壮絶な場面から幕を開け、その過酷さが本作全体のトーンを決定づけています。

特に注目すべきは、当初敵対していた奴隷商人トールゲストルが、やがて仲間となる展開です。この関係性の変化こそ、本作の核心的なテーマである「理解と共感によって暴力の連鎖を断ち切る」ことを象徴しています。セヌアが示す共感の力は、憎悪に支配された人々をも変化させるほどの力を持っているのです。

旅の過程で、セヌアが対峙する巨人や神話上の存在が、単なる「怪物」ではないことも明らかになります。彼らもまた、それぞれに痛みや悲劇を抱えており、セヌアはその苦しみに深く共鳴していきます。本作は、「傷ついた者は、他者を傷つける」という現実を描きながらも、その痛みを暴力の言い訳とせず、人には常に選択の自由があるという力強いメッセージを投げかけます。

しかし、セヌアがその宿命に抗いながら進む道は、決して平穏なものではありません。地獄を切り開くかのような彼女の旅は、プレイヤーにも苦難の追体験を強いる側面があります。

特徴①:UIを排した「幻聴」システム

本作の最大の特徴は、主人公セヌアが絶えず耳にする「幻聴」が、そのままゲームシステムとして機能している点です。彼女の頭の中に響く声は、時に助言を与え、プレイヤーを導くガイドやヒントの役割を果たします。

さらに、体力ゲージやミニマップといった一般的な画面表示(UI)は一切ありません。この大胆な設計により、プレイヤーはセヌア自身の状態(負傷すれば動きが鈍るなど)や聞こえてくる声、視覚的な演出だけを頼りに、状況を判断しながら物語を進めていきます。

探索要素が意図的に限定され、基本的に一本道で進行するのも特徴です。これは、移動中の会話などを通して物語に集中させる「シネマティックアドベンチャー」としての、開発陣の明確な意図が反映されたデザインと言えるでしょう。

特徴②:緊張感が走る1対1の戦闘

本作で最も〝ゲームらしい〟要素が、この戦闘システムです。操作は強弱の攻撃・回避・パリィ(攻撃の受け流し)が中心とシンプルですが、常に緊張感あふれるバトルが展開されます。

戦闘は基本的に1対1の決闘形式で、敵の攻撃パターンを的確に見極めることが重要になります。特に、パリィを成功させて溜まる「フォーカス」ゲージを発動すれば、スローモーションで一方的に攻撃でき、一定の爽快感が得られます。

ただし、物語が進むと敵の攻撃は複雑になり、より精密な操作が求められます。アクションゲームに不慣れな方は、苦戦する場面もあるかもしれません。(実際、筆者は早々に行き詰まり、後述するオート戦闘機能の恩恵にあずかりました。)

その一方で、アクセシビリティへの配慮もなされており、戦闘を自動化できる「オート戦闘」機能が用意されています。これにより、アクションの得意不得意にかかわらず、誰もが物語を最後まで見届けられるように設計されています。

特徴③:主人公の視点を追体験するパズル

本作のもう一つのゲーム要素が、主人公セヌアの視点を追体験させるパズルです。主に「特定の視点から地形を重ねてシンボルを見つける」「周囲の環境を操作して道を開く」といった数種類が用意されています。

これらはセヌアが体験する幻覚をゲームに落とし込んだもので、謎解き自体は複雑ではありませんが、彼女の精神状態を理解する上で重要な役割を果たします。しかし、その内容は単調になりがちで、繰り返し解く場面では作業のように感じられることもありました。(実際、筆者も単調さから何度か眠気に襲われました。)

メインストーリー以外にも、道中には顔の形をした岩などの収集要素が点在しています。一本道のゲームプレイにおける、ささやかな寄り道要素となっています。

実写レベルの映像美と革新的な音響

最新のゲームエンジン「Unreal Engine 5」で描かれる本作のビジュアルは、現世代ゲームの中でも最高峰レベルです。舞台となるアイスランドの雄大で過酷な自然、光と影が交差する洞窟、人々の生活の痕跡が残る村落。そのすべてが、実写さながらのリアリティで表現されています。

例えば、床に臓物が散らばる小屋や、悪霊が潜む黒焦げの洞窟といった描写は強烈で、本作の過酷な世界観をプレイヤーに印象付けます。

中でも、主人公セヌアを演じるメリナ・ユーゲンス(Melina Juergens)氏の表情描写は圧巻です。恐怖、葛藤、決意といった内面の感情が、眉のわずかな動きや瞳の揺らぎから繊細に伝わり、プレイヤーを物語に強く引き込みます。また、これらの美しい映像を自由に撮影できる「フォトモード」も搭載されています。

サウンド面では、印象的なBGMを意図的に抑える一方で、環境音や効果音が非常にリアルに作られています。火山の轟音や巨人の咆哮は、聴覚から強い臨場感を生み出します。

特に重要なのが、立体音響を実現する「バイノーラル録音」という技術です。これにより、セヌアの頭の中で響く声が、まるで自分の周囲から聞こえるように感じられます。

PS5版の発売と今後のアップデート

2025年8月12日、PlayStation 5向けにSenua’s Saga: Hellblade IIの「Enhanced版」が発売されることが決定しました。このバージョンには、様々な新機能が追加されています。

この「Enhanced版」で実装される新要素は、既存のXbox Series X|S版およびPC(Steam/Windows)版のプレイヤーにも、PS5版の発売と同時に無料アップデートとして提供されます。

主な追加・強化点は以下の通りです。

  • パフォーマンス向上: 最大60fpsのフレームレートに対応し、Steam Deckに正式対応します。
  • 新ゲームモード「Dark Rot」の追加: リプレイ価値が向上します。
  • 強化されたフォトモード: モーションタブなどの新機能が追加されます。
  • 開発者コメンタリー: 4時間以上に及ぶ開発者コメンタリーが収録されます。
  • PS5版独自の機能: DualSenseコントローラーのハプティックフィードバックとアダプティブトリガーに完全対応し、戦闘の衝撃や武器の重みをリアルに表現します。

このアップデートにより、PlayStation 5、PS5 Pro、Xbox Series X|S、そしてPC(Steam)といった、すべてのプラットフォームで本作の決定版と言える体験が可能になります。

ゲームの枠を超えた芸術的〝体験〟

「Senua’s Saga: Hellblade II」は、芸術的な映像美、革新的なサウンドデザイン、そして精神の深淵を描くテーマ性で、従来のゲームの概念を超越した特別な作品です。

本作は単なる娯楽ではなく、主人公セヌアの苦悩と成長を追体験する濃密な「体験」を提供します。その道のりは時に辛く、困難かもしれませんが、それこそが本作の真価であり、プレイヤーの心に深く刻まれる理由でもあります。技術的革新と探求心により、本作は今後のゲーム開発に新たな道筋を示す作品として、業界内外で注目され続けるでしょう。

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