
人気RPG「Dragon Age」三部作のリマスターはなぜ実現しなかったのか。元BioWare幹部が、EAに提案を退けられた背景を明かしました。EAの消極的な姿勢や複数エンジンの技術的困難、そして「Mass Effect」との評価の違いなど、複数の要因が重なったことが原因のようです。
人気RPG「Dragon Age(ドラゴンエイジ)」シリーズ。多くのファンが待望する初期三部作のリマスター版について、開発元のBioWareから提案があったものの、販売元のエレクトロニック・アーツ(EA)に事実上、却下されていたことが明らかになりました。BioWareで約24年間エグゼクティブプロデューサーなどを務めたマーク・ダラー氏が、YouTubeチャンネル「MrMattyPlays」のインタビューでその経緯を語っています。
同じくBioWareが手掛けた「Mass Effect(マスエフェクト)」シリーズが、2021年にリマスター版「Mass Effect Legendary Edition(マスエフェクト レジェンダリー・エディション)」として成功を収めたこともあり、ファンの間では「Dragon Age」でも同様の展開を望む声が長年上がっていました。ダラー氏によると、BioWare社内では初期三部作を「Champion’s Trilogy(チャンピオンズ・トリロジー)」と名付け、再構成する構想があったとのことです。しかし、この計画が実現しなかった背景には、複数の根深い問題がありました。
EAの消極的な姿勢が大きな壁に
ダラー氏が指摘する最大の障壁は、EAの企業方針でした。「EAは歴史的にリマスターへ消極的で、そのことは公にも認めています」と語ります。さらに「上場企業が、確実に見込める収益をなぜか拒むようで、非常に奇妙です」と述べ、このEAの姿勢がリマスター化を阻む大きな要因だったと説明します。
ダラー氏によると、EA側の回答は実質的に「既存の予算でやるなら構わない」というものだったそうです。しかし、当時BioWareは複数のプロジェクトを抱えており、追加の予算なしにリマスターを制作するのは非現実的でした。
技術的な困難がもたらす開発上の課題
第二の壁は、技術的な困難さでした。「Mass Effect」の初期三部作がすべてUnreal Engineで開発されていたのに対し、「Dragon Age」シリーズは、「Dragon Age: Origins」と「Dragon Age II」が自社開発のEclipse Engine、そして「Dragon Age: Inquisition」がFrostbite Engineと、異なるエンジンで制作されています。
ダラー氏は「『Mass Effect』がリマスターしやすかったのは、全作がUnreal Engineだったからです。資金さえあれば外部に開発を委託することも可能でした」と説明します。
この技術的なハードルに対し、BioWare側からは具体的な解決案も提示されていました。「Frostbiteツールを活用し、才能ある外部のモディングスタジオを見つけて、『Dragon Age: Origins』のリメイク制作を委託する」という提案もその一つでした。しかし、複数エンジンにまたがる統一されたリマスター版を開発する技術的なハードルは「Mass Effect」よりも格段に高く、外部委託にも内製にも多大なコストとリソースが必要だったのです。
原点が「単発作品」だったことの難しさ
シリーズの成り立ちそのものにも、特有の課題がありました。ダラー氏によると、一作目の「Dragon Age: Origins」は、もともと続編を想定しない単発の作品として構想されていました。
ダラー氏は「『世界中に人狼がいるかもしれない』『オーザマーの地下で内戦が起きているかもしれない』など、続編で回収するつもりのない壮大な設定が散りばめられていました。そのため、いざ続編を作ることになった時、それらの設定を整理し、物語を繋げるのに苦労したのです」と語り、シリーズを続ける上での構造的な難しさがあったことを明かしています。
シリーズの厳しい現状と今後の見通し
こうした要因が重なり、リマスター計画は実現しませんでした。この経緯は、シリーズが現在置かれている厳しい状況を象徴していると言えるでしょう。
過去からの課題と現在の厳しい事業環境が重なり、「ドラゴンエイジ」シリーズの先行き、そしてファンが待ち望むリマスター版の実現は、依然として不透明な状況です。計画を明かしたダラー氏自身も「リマスターはやるべきだと思うが、実現はしないだろう」と悲観的で、ファンの願いが叶う可能性は低いでしょう。
情報元:VGC