
ソニーの中国開発者支援策「China Hero Project」に応募が殺到。世界的ヒット作「黒神話:悟空」を機に転換期を迎えた中国コンソールゲーム市場の今を読み解きます。なぜ彼らは世界を目指すのか?その背景にある文化や規制、ソニーの戦略から新時代の潮流を探ります。
ソニーが後押しする中国ゲーム市場の熱気
ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)による中国ゲーム開発者支援プロジェクト「China Hero Project」の第3期に、100作を超える応募が殺到しました。これは、世界的ヒット作「黒神話:悟空(Black Myth: Wukong)」の成功を背景に、中国のコンソールゲーム市場が大きな転換期を迎えていることの表れです。
7月末に上海で開かれたイベントで、プロジェクトディレクターの包波(バオ・ボ)氏は「第3期だけで100作以上の応募があった。開発者たちの情熱と才能に驚かされた」と語りました。この盛況ぶりは、単なる市場拡大に留まらず、中国の開発者たちがグローバル市場への挑戦に強い意欲を抱いていることを示しています。
「China Hero Project」とは?
「China Hero Project」は、SIEが中国の有望なゲーム開発チームを発掘し、技術、資金、プロモーションからグローバル市場への進出までを支援する長期的な取り組みです。
採択されたチームには、Unreal EngineやUnityを活用した技術ワークショップ、品質保証(QA)、マーケティング支援といった包括的なサポートが提供されます。さらに、大手AAAスタジオのベテランによる指導(メンタリング)や、投資家・パブリッシャーへの紹介機会も設けられています。こうした手厚く柔軟な支援体制が、中国のインディー開発者から高く評価されています。
「Wukong」の成功が市場の追い風に
今回の応募が急増した背景には、中国神話を題材にしたアクションRPG「黒神話:悟空」の大きな成功があります。高品質なグラフィックと没入感のある物語が評価され、同作は発売初週に1000万本以上のセールスを記録。中国の伝統文化と世界水準のゲームデザインの融合が、グローバルな成功へと繋がりました。
この成功は、中国の開発者たちに「PlayStationなら世界市場に挑戦できる」という確信を抱かせました。ソニーはPlayStation 5を軸に戦略的な投資を続けており、中国発の高品質なタイトルを世界に届ける強力なプラットフォームとしての地位を確立しつつあります。
市場成長の背景にある「規制」と「文化」
これまでモバイルゲームが主流だった中国のゲーム市場ですが、近年はコンソールゲームの規制緩和や若年層の購買力向上を受け、急速な成長を見せています。
しかしその背景には、さらに深い要因があります。一つは、政府による厳しいゲーム規制(通称「版号ショック」)です。これにより国内でのリリースが困難になった多くの開発者が、海外市場に活路を見出すようになりました。もう一つは、ウェブ小説や歴史を題材とした創作が盛んな中国独自の文化です。これが、物語性の高いゲームへの強い需要を生み出しています。
「China Hero Project」は、こうした開発者たちの海外進出を後押しするだけでなく、単なるビジネス支援に留まらない文化的な交流の基盤を築く役割も担っています。
これまでの実績と今後の展望
「China Hero Project」はこれまで19タイトルを採択し、「フィスト 紅蓮城の闇」や「ANNO: Mutationem」など、国内外で高く評価された作品を多数送り出してきました。
現在、第3期で9〜10作の選定が進む一方、2025年8月には第4期の募集が正式に開始されました。第3期の盛況を受け、第4期では企業規模を問わず、より多くの開発チームに門戸を広げます。ジャンルやスタイルに制限はなく、多様な発想を持つタイトルのエントリーを募る方針です。
バオ・ボ氏は、「中国のコンソールゲーム開発者が進化し続ける今こそ、世界市場に挑戦する絶好の機会。ソニーは技術面やプロモーション面で全面的にサポートし、多くの優れた作品を世界に届けたい」と意気込みを語ります。
第4期の選定・発表は2026年初頭に行われる予定です。ソニーは今後、AIやクラウドゲーミング技術を活用した支援も検討しており、中国の開発者が世界で活躍する基盤を整えることで、PlayStationブランドのさらなる強化を目指します。
まとめ
「China Hero Project」第3期に応募が殺到している事実は、中国ゲーム開発の熱気とポテンシャルの高さを物語っています。「黒神話:悟空」の成功を追い風に、中国の開発者たちは本格的に世界を目指し始めました。ソニーが彼らを強力に支援することは、PlayStationが中国と世界のゲーム業界の未来を切り開く上で、重要な鍵となるでしょう。今後予定されている第4期においても、中国から新たな注目作が生まれることへの期待が高まります。
情報元:Clawsomegamer