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「明末:ウツロノハネ」パッチ1.5が引き起こした物語改変と論争の背景

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なぜ「明末:ウツロノハネ」のパッチ1.5は国際的な論争を引き起こしたのか。歴史上のボスが死なない仕様変更により、プレイヤーから「検閲だ」と批判が殺到し、ユーザーはMODで対抗。その背景にある中国の複雑なナショナリズム問題の本質に迫ります。

「明末:ウツロノハネ」とは?

「明末:ウツロノハネ」(原題: Wuchang: Fallen Feathers)は、明王朝末期を舞台にしたアクションRPGで、高難度の戦闘と深い物語が特徴の「ソウルライク」ジャンルの作品です。ソウルライクとは、困難な敵に何度も挑戦し、死や喪失と向き合うテーマを持つゲームジャンルのことを指します。

この作品では、プレイヤーは海賊の白無常を操作し、羽化病に侵された土地を舞台に、明王朝末期の歴史的ファンタジー世界を冒険します。ゲームは愛する者を失った悲しみや死への受容といった重厚なテーマを扱い、特に復活した歴史的人物が怪物と化したボスたちを倒すことで、彼らの苦しみを解放するという物語構造を持っていました。

しかし、2025年8月中旬に配信されたアップデート「パッチ1.5」が、ゲームの物語体験を根本的に変更し、国際的な論争を引き起こすこととなりました。

パッチ1.5がもたらした物語の変化

パッチ1.5は当初、ゲームのパフォーマンス問題を解消するアップデートとして期待されていました。実際、無敵時間の改善、回復アニメーションの高速化、各種バグ修正など、多くの技術的改善が含まれていました。

しかし、パッチノートに

一部のNPCおよびAIのアニメーション、数値、レベル設計を調整しました。一部のNPCに対話を追加し、いくつかのプロットを完成させました

と簡潔に記載された変更の実態は、ゲームの核心部分に関わる大幅な改変でした。

最も重要な変更は、明王朝の歴史的人物をモデルにした複数のボスやNPCが、戦闘で倒されても死亡せず「疲弊」状態になる仕様に変更されたことです。これらのキャラクターには新たな対話が追加され、従来の悲劇的な最期に代わって、より軽やかな会話を行うようになりました。

具体的な例として、歴史的武将である趙雲がかつては「凡夢が薄れ、我が物語は終わる。今理解した、すべては然るべきように」という死に際の言葉を残していましたが、パッチ後は「まだこの道を行くのか?良い!それこそが試練の目的だったのだ!」と笑いながら話すキャラクターに変貌しています。

ソウルライクジャンルへの影響

ソウルライクゲームの魅力は、高難度の戦闘と、死や喪失を受け入れる哲学的なテーマが融合している点にあります。「明末:ウツロノハネ」では、愛する者を失った悲しみによって怪物と化したボスたちを倒すことで、彼らの苦しみを終わらせるという意味深い体験が提供されていました。

しかし、ボスが死ななくなったことで、この根本的なテーマ性が損なわれる結果となりました。プレイヤーの勝利が死者への安息をもたらすのではなく、単なる「試練」として軽く扱われるようになったため、物語全体の一貫性と感情的インパクトが大幅に削がれたとの批判が相次いでいます。

さらに、第4章においては敵対していた敵キャラクターの半数が非敵対的になり、攻撃することも不可能になったため、ゲーム難易度の大幅な低下も招いています。

プレイヤーの対応:MODによる原状回復

開発元が沈黙を続ける中、PC版のプレイヤーコミュニティは独自に対応策を模索しました。MOD制作者DarkmoonBlade氏は、「Rollback Censorship Patch」というMODを公開し、ゲームファイルをパッチ1.5以前の状態に戻すことを可能にしました。

このMODは公開から短期間で500回以上ダウンロードされており、プレイヤーが元の物語体験を求める強い意志を示しています。ただし、MODを適用することでパッチ1.5で改善されたパフォーマンスやバグ修正の恩恵が失われるという代償があります。

論争の背景:中国の歴史認識

なぜ開発元は大きな反発を招く変更を行ったのでしょうか。その背景には、中国における歴史認識の複雑さが関係していると考えられています。

明王朝は漢民族による最後の統一王朝であり、その後に満州族が支配する清王朝に取って代わられました。現代中国では漢民族が人口の大多数を占めており、一部では清朝を「外民族による支配」として否定的に捉える歴史観が存在します。

Reddit上での中国語話者による議論によると、一部のプレイヤーは「明末:ウツロノハネ」が明王朝のみを描き、清王朝の存在を「語られることなく」完全に除外していることに不満を示していたとされます。これらのプレイヤーは、主人公が漢民族として満州族に抵抗する物語を期待していたようです。

ただし、この変更が中国政府の直接的な指示によるものか、開発元がファンからの批判や報告を恐れた自主的な判断によるものかは明確ではありません。現時点では、後者の可能性が高いとする専門家の見解が多く報告されています。

異なる視点:中国内での反対意見

重要な点として、中国語話者のプレイヤー全員がこの変更を支持しているわけではないことも明記すべきです。Steam上には中国語で書かれた批判的なレビューも多数存在し、「かつて魅力的だった歴史的物語は粉砕され、キャラクターの個性は認識できないほど崩壊した」という意見や、「本物のプレイヤーと組織的荒らしの区別がつかないのか」という開発元への批判も見受けられます。

これは、この問題が単純な文化的対立ではなく、ゲーム開発における表現の自由と外部圧力への対応という、より普遍的な課題であることを示しています。

ゲーム業界への教訓

「明末:ウツロノハネ」の騒動は、グローバルなゲーム開発における重要な教訓を示しています。文化的にデリケートなテーマを扱う際には、事前のリスク評価とステークホルダーとの透明な対話が不可欠です。

外部からの圧力に対して安易に妥協することは、既存のプレイヤーコミュニティの信頼を失い、作品の芸術的価値を損なうリスクを伴います。一方で、文化的配慮を完全に無視することも適切ではありません。

この事件は、創作者が自身のビジョンを維持しながら、多様な文化的背景を持つグローバルオーディエンスとどのように向き合うべきかという、現代のゲーム業界が直面する複雑な課題を浮き彫りにしています。

※本記事は2025年8月18日時点の公開情報に基づいて作成されています。ゲーム業界の状況は急速に変化するため、開発元からの公式声明や新たな展開については、公式チャンネルで最新情報をご確認ください。

情報元:VGCWindowScentralTheGamer

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