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格ゲーの祭典「Evo」がサウジ資本傘下に、コミュニティに広がる懸念

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世界最大級の格闘ゲーム大会Evoがサウジ政府系企業に買収され、eスポーツ界での「スポーツウォッシング」への懸念が高まっています。人権問題、特にLGBTQ+の権利をめぐるコミュニティの声や、選手・関係者の反応、Evoが築いた文化の未来を詳述します。

サウジ資本によるEvo買収の詳細

世界で最も権威ある格闘ゲーム大会「Evolution Championship Series(Evo)」が大きな転換点を迎えています。Evoの共同オーナーであるeスポーツタレントエージェンシー「RTS」が、サウジアラビアの政府系ファンドが出資する企業「Qiddiya」に完全買収され、コミュニティに議論を呼びました。

Qiddiyaの最高戦略責任者Muhannad Aldawood氏はLinkedIn上で、「QiddiyaがRTSの完全な所有権を取得したことを発表でき、大変嬉しく思います。これはeスポーツ事業を強化し、ゲームエコシステムで新たな機会を切り開く戦略的な一歩です」と述べ、1996年から続くEvoの可能性を引き出し、継続的な成長を促進する意気込みを示しました。

この買収の背景には、ソニー・インタラクティブエンタテインメントによるEvo株の売却があります。ソニーは4年間にわたりEvoの共同オーナーを務めていましたが、その持分をインドを拠点とするeスポーツグループ「NODWIN Gaming」に売却しました。今回のQiddiyaによるRTS買収により、EvoはNODWIN GamingとQiddiya傘下のRTSによる共同所有体制となり、サウジアラビア資本が格闘ゲームコミュニティの中核に深く関与する形となりました。この動きは、Evo Japanを含む国際的な大会運営にも影響を与える可能性があり、日本のコミュニティでも注目されています。

サウジ投資への「スポーツウォッシング」

スポーツウォッシングとは、国家のネガティブなイメージを払拭するためにスポーツやエンターテインメントを利用する戦略を指します。サウジアラビアのEvo買収は、このスポーツウォッシングの一環と広く見なされており、格闘ゲームコミュニティから懸念の声が上がっています。特に、サウジアラビアにおける人権問題、LGBTQ+コミュニティへの抑圧的な姿勢が議論の中心です。

サウジアラビアの政府系ファンドは、ゴルフのPGAツアーとの合併、WWEとの提携、サッカー選手クリスティアーノ・ロナウドとの巨額契約など、スポーツ界での影響力を拡大しています。ゲーム業界でも、NianticやSNK Corporationの買収、複数の大手企業への出資が報じられており、eスポーツ分野では2022年のESL FACEIT買収、2023年のHero Esportsの株式取得、2024年のEsports World Cup(EWC)開催など、積極的な投資を行っています。

しかし、EWCのプロモーションドキュメンタリーでは、LGBTQ+に関する選手の発言やプライドジャージの映像がサウジアラビア国内で削除される検閲問題が発生。Team Liquidは、「ゲイ男性としての体験を語った共同CEOのSteve Arhancet氏の発言やプライドジャージの映像が削除されたことを知り、失望しています」と声明を発表しました。この事件は、Evo買収に対するコミュニティの不安をさらに高めています。特に日本では、Evo Japanが多様なコミュニティを尊重してきた歴史があるだけに、サウジ資本の影響が大会の包括性にどう影響するかが懸念されています。

格闘ゲームコミュニティの懸念と反応

プロプレイヤーや関係者からは、複雑な反応が寄せられています。ストリートファイター6のプロプレイヤーChrisCCH氏は、過去にサウジ主催の大会への参加を辞退した経験を踏まえ、Xで「驚くべきことではないが、不幸なニュースだ。LGBTQ+メンバーのコミュニティにとって悲しく、シーンが資金提供者の気まぐれに依存する状況を懸念している」と投稿しました。

コメンテーターでコンテンツクリエイターのSajam氏は、「このニュースは、コミュニティの自立性を考えるきっかけになる。格闘ゲームファンに属する部分が縮小しているように感じる」と述べ、コミュニティ主導の新たな取り組みの必要性を示唆しました。

一方、EvoゼネラルマネージャーのRichard Thiher氏は、「私の仕事はコミュニティを一つにし、包括性と繋がりを大切にすることです。Evoの未来がこれを尊重することが、私にとって重要です」と、大会の理念を守る姿勢を強調しました。

対照的に、8度のEvoチャンピオンであるDominique “SonicFox” McLean選手は積極的な姿勢を示し、「私は消されない。グランドファイナルでトランスジェンダーの権利を示す旗を振り、これまで以上に声を上げていく」とXで宣言。他の選手にも同様の行動を呼びかけ、日本のファンからも支持の声が上がっています。

代替大会への注目とコミュニティの選択

買収発表を受け、一部のファンはEvoへの失望から、代替の格闘ゲーム大会に期待を寄せています。特にアメリカの「CEO(Community Effort Orlando)」が注目され、Xでは「CEOが真のEvoになりそうだ」(Roycebracket氏)や「Alex Jebailey CEO 2026に栄光あれ、数多くの参加者と共に」(LandedIt氏)といった声が上がっています。これらは、コミュニティがEvoに代わる新たな選択肢を求めていることを示しています。

日本でも、Evo Japanの開催地や地域コミュニティの草の根イベントが注目される可能性があります。しかし、ソーシャルメディア上の不満が参加者数や視聴者数の減少に直結するかどうかは未知数であり、業界関係者はその動向を注視しています。

Evoの未来とコミュニティの選択

現時点で、サウジアラビアはEvoの少数株主にとどまり、所有権変更が大会運営に与える具体的な影響は不透明です。しかし、ラスベガスや東京に加え、サウジアラビアでの開催が実現する可能性も否定できません。10月にはフランスのニースでEvoヨーロッパが開催予定であり、国際展開は進んでいます。

格闘ゲームコミュニティは、アーケード時代からの草の根の繋がりを基盤に発展し、企業主導のブランディングとは異なる独自の文化を育んできました。1996年以来、Evoは単なる大会を超え、包括性や多様性を象徴する存在です。サウジ資本の参入により、この価値観がどう扱われるのか、Evo Japanを含めたコミュニティ全体がその行方を見守っています。

情報元:EurogamerVGCKOTAKU

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