
英国で、セガが廃棄したとされる任天堂開発キットを巡り、警察が介入する異例の事態が発生。正規に購入した再販業者の自宅が家宅捜索され、貴重な機材が押収されました。この一件は、企業の資産管理、個人の所有権、そして失われゆくゲームの歴史をどう守るかという重要な問題を提起しています。
発見から警察介入まで
英国の複数の海外メディアによると、大手ゲーム企業セガが、オフィス移転時に誤って廃棄したとされる任天堂製開発キットを巡り、警察を動員して回収に乗り出したと報じられています。
発端となったのは、英国のあるゲーム再販業者が、廃品集積所でセガ・ヨーロッパが廃棄したとみられる多数の開発キットを発見し、約1万ポンド(約180万円)で購入したことでした。そのコレクションには、歴代任天堂ハードの開発キットに加え、「ソニック」シリーズや「ファンタシースターZERO」といった未発売版やプロトタイプも含まれていました。これらは学術的・文化的に極めて価値の高い資料と見なされています。
矛盾した警察対応と裁判の行方
しかし、入手から3か月後の7月14日、事態は一変します。再販業者はマネーロンダリングの疑いで逮捕され、自宅は約10名の捜査官によって家宅捜索を受けました。その結果、開発キット一式はすべて押収されています。
釈放後、警察は業者に対し、「機材は合法的に入手された」と認めつつも、「所有権を放棄せよ」と記された免責同意書への署名を迫りました。業者がこの矛盾した要求を拒否すると、警察は一転して「そもそも所有権はなかった」と主張するなど、その説明は一貫していません。
この一件は現在、司法審査の段階にあり、企業の意向を背景に国家権力がどこまで個人の権利に介入するのか、その妥当性も問われています。
ゲーム保存コミュニティの危機感
この事件は単なる権利争いにとどまらず、ゲームの歴史保存に努めてきたコミュニティに深刻な衝撃を与えています。
ビデオゲーム保存博物館(VGPM)は、本件を「保存における災害」だと強く非難。企業が一度廃棄した機材を強権的に回収できる前例が生まれれば、コレクターや、ゲームの歴史資料の保存を専門とするアーキビストたちの活動全体を萎縮させかねないと警鐘を鳴らしています。その危機感は、支援者向けの投票結果にも表れており、約9割が法的闘争への資金援助に賛成したことからも、コミュニティがいかにこの事態を深刻に捉えているかがうかがえます。
事件が示す3つの課題
この一件は、現代のゲーム業界が抱える複数の重要な課題を浮き彫りにしています。
- 1. 廃棄物の所有権は誰にあるのか
企業が一度「廃棄」した物品に対し、後から所有権を主張することは許されるのか。企業の資産管理責任がどこまで及ぶのかという、根本的な問題が問われています。
- 2. 公権力介入の妥当性
民間企業の要請に基づき、警察が個人の所有物を差し押さえた今回の措置は、法的・倫理的に妥当なのでしょうか。公権力の行使範囲もまた、大きな論点です。
- 3. 開発資料は「資産」か「文化遺産」か
プロトタイプなどの開発資料は、失われればゲーム史に埋められない空白を生みます。これらを単なる「企業資産」と見るのか、それとも社会全体の「文化遺産」として保護すべきか、その根本的な扱いが問われています。
今後の展望と日本への教訓
企業の貴重な開発資料が失われる問題は、日本も例外ではありません。今回の英国の事例は、日本のゲーム保存活動にとっても示唆に富むものであり、企業が資料を廃棄する際に事前に保存団体へ寄贈するなど、業界全体のガイドラインを整備する必要性を示しています。
押収された開発キットの行方は、警察の管理下で依然として不透明なままです。セガは本件について沈黙を続けています。今後の司法判断が、企業の権利、個人の所有権、そして文化遺産保護という三者の均衡を大きく左右することは間違いないでしょう。
情報元:TimeExtension