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「アサクリ ミラージュ」無料DLCに波紋 ― サウジ提携に揺れるUbisoft

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Ubisoftが発表したアサシンクリード ミラージュの無料DLC。舞台となるサウジアラビアのアル・ウラーを巡り、政府系投資ファンド(PIF)との提携疑惑が報じられています。内部文書からUbisoft社内からの懸念の声が上がる中、ゲーム業界における企業の社会的責任が問われています。

無料DLC発表と異例の舞台設定

2025年8月23日、Ubisoftは「アサシン クリード ミラージュ」の無料DLCを年内に配信すると発表しました。追加されるのは、9世紀のサウジアラビア・アル・ウラーを舞台とした新たな物語と任務です。

このDLCには「本編バグダッドとは独立した新都市エリア」が含まれており、2015年の『シンジケート』以来となる一都市構成の「ミラージュ」では例を見ない規模となります。しかも無償配布という点で、プレイヤーにとっては嬉しいサプライズでした。

Ubisoftの公式ポストで告知された内容は次の通りです。

  • 物語の新チャプターと追加ミッション
  • 独立エリア「アル・ウラー」の探索
  • ゲームプレイ全般の改善

ファンにとっては待望の追加要素。シリーズの節目を飾る展開と呼べるでしょう。

サウジとの関係と資金提供疑惑

しかし華やかな発表の裏側で、サウジアラビア政府系ファンド「PIF(パブリック・インベストメント・ファンド)」による資金提供疑惑が浮上しました。

PIFはムハンマド・ビン・サルマン皇太子が議長を務める国家ファンドであり、経済多角化を掲げる「ビジョン2030」を担っています。近年は世界のゲームスタジオに数十億ドル規模の投資を行い、石油依存国家としてのイメージからの脱却を狙ってきました。これらの投資は経済政策にとどまらず、国際的ブランドイメージ改善の戦略的一環とも位置づけられています。

疑惑の発端は2025年1月、フランス経済紙レゼコーが「PIFがDLC制作資金の一部を拠出した可能性」を報じたことにあります。Ubisoftは「噂にはコメントしない」と繰り返すのみで、肯定も否定もしていません。

さらに注目を集めたのは発表の経緯でした。正式告知に先立ち、CEOのイヴ・ギルモー氏はサウジ・リヤド開催の「New Global Sport Conference」に登壇し、先行発表を行ったのです。この会議は政府資金による「eスポーツワールドカップ」と連携したイベントで、ギルモー氏は次のように語りました。

「我々はユネスコ世界遺産に登録されているアル・ウラーと協力している。まだあまり知られていない場所だが、ミラージュをプレイするプレイヤーに無料で提供するコンテンツを作成しており、プレイヤーはそのサイトを訪れることができるようになる」

その後、同じ8月23日の米国東部時間早朝(午前4時)に、全世界向けのSNS告知が行われました。多国籍企業としても異例の時間帯での配信であり、リヤドでの先行発表に歩調を合わせたものであったと考えられます。

社内文書が示す懸念

資金提供疑惑に続き、9月にはGameFileが入手した内部Q&A文書も波紋を広げました。Ubisoft社員の一人がワシントン・ポスト記者ジャマル・カショギ氏殺害事件に触れ、「サウジとの関係は企業ブランドに傷を与えるのでは」と経営陣に問いただしたのです。

経営陣は「ギルモー訪問はマクロン大統領を含む外交団の一部であり、伝統的な外交の一環だった」と説明。さらに「PIFの資金は皇太子個人のものではなく、異なる価値観を持つ相手との対話は価値観の放棄を意味しない」と弁明しました。

しかしPIFが皇太子の強い管理下にあるのは国際的に広く認識されています。この論理的な切り分けは社内外から説得力に欠けると受け止められました。

Ubisoftは批判に対し「創造的コントロールは失われていない」と繰り返し強調。「地域や国際的機関の協力により歴史的な舞台設定を正確に再現した」と答えています。

つまり資金源への言及は避けつつも、「アサシン クリード」シリーズの柱である歴史的再現性を最優先する姿勢を示した形です。

舞台アル・ウラーの魅力

今回の舞台アル・ウラーは、ユネスコ世界遺産に登録された歴史地区です。紀元前5000年から人類が居住し続け、複数の文明が興亡を繰り返した「文明の十字路」。ナバテア人の岩窟建築群はペトラ遺跡を思わせる壮大さを誇ります。

起伏ある地形はパルクール探索に理想的で、崖を飛び移り古代墓廟を巡るプレイは「アサシン クリード」の真骨頂。その臨場感は〝歴史を旅するゲーム〟というシリーズの魅力を改めて体現するでしょう。主人公バシムがバグダッドから遠く離れたこの地を訪れることで、9世紀の交易や文化交流の豊かさも物語に新たな深みを加えるはずです。

ゲーム業界と企業責任

今回のDLCを巡る論争は、ゲーム業界全体に関わる課題を浮き彫りにしました。無料DLCという歓迎される施策と、人権問題が指摘される国家からの投資疑惑。プレイヤーへの利益と企業の社会的責任という相反する課題をいかに両立させるのかが問われています。

これはUbisoft一社だけの問題ではなく、グローバル市場で成長を続けるゲーム企業が避けて通れないテーマです。外部投資は成長の機会である一方、資金提供元の背景によっては企業理念との衝突リスクをはらみます。

「ビジネスチャンスと企業倫理は両立可能なのか?」──今回の「アサシン クリード ミラージュ」DLCを巡る論争は、その根本的な問いを突きつけています。

情報元:PCGamerGameFile

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