
期待作「Ghost of Yōtei」の開発元Sucker Punchが、従業員を解雇した件について、スタジオ責任者が公式にその背景を説明。政治評論家チャーリー・カーク氏の暗殺に関するある従業員のSNS投稿が発端となり、その波紋は他社にも拡大。さらには米議会がプラットフォームの責任を問う事態にまで発展しています。
Sucker Punchが示した厳格な姿勢
PlayStation 5向け期待作「Ghost of Yōtei」の発売を目前に、開発元のSucker Punch Productionsで異例の事態が起きました。保守派の若者世代に絶大な影響力を持つ一方で、その扇動的な言動からリベラル派の激しい批判の的ともなっていた活動家、チャーリー・カーク氏が殺害された事件に関連し、同社のベテランアーティストがSNS投稿を理由に解雇されたのです。この迅速な対応は、ゲーム業界が直面するSNSのリスク管理の重要性を改めて浮き彫りにしました。
これまで沈黙を守ってきたスタジオ責任者が、GameFileの独占インタビューで公式見解を発表。Sucker Punchの共同創設者ブライアン・フレミング氏が、解雇に至った背景を説明しました。この一件は一企業の問題に留まらず、ゲーム業界全体の社会的責任を問う議論へと発展しています。
SNS投稿から解雇までの経緯
2025年9月10日、カーク氏が講演中に殺害された事件が発端でした。Sucker Punchに約10年在籍したベテランアーティストのドリュー・ハリソン氏は、事件直後にBlueskyで「犯人の名前がマリオだといいな。そうすればルイージは兄が味方だとわかるから」と投稿しました。
この内容は、2024年12月にユナイテッドヘルスケア社CEOを殺害した容疑者の名が「ルイージ・ニコラス・マンジョーネ」であったことを踏まえたブラックジョークと見られています。しかし、現実の殺人事件を軽視する意図があると受け止められ、特にカーク氏の支持層である保守的なコミュニティから激しい反発を招きました。
投稿は瞬く間に拡散し、親会社のソニー・インタラクティブ・エンタテインメントに抗議が殺到。事態を重く見た会社側の判断により、ハリソン氏は投稿から24時間以内に解雇されました。ソニーの広報は「ドリュー・ハリソンはもはやSucker Punchの従業員ではありません」と公式に事実を認めています。一方、ハリソン氏は解雇後、表現の自由が侵害されたと反論しています。
スタジオ責任者が語る解雇理由
これまで詳細な説明を控えていたSucker Punchですが、フレミング氏はインタビューで解雇の事実を認めた上で、スタジオの方針を次のように強調しました。
「人の殺害を祝福したり軽んじたりする行為は、我々にとって決定的な違反行為(deal-breaker)です。この点においてスタジオの意見は一致しており、そうした行為を断固として非難します」
また、ハリソン氏の10年間の貢献について問われた際には、同席したソニーの担当者が「この件に関するこれ以上のコメントはありません」と回答を制しており、企業としてリスク管理を徹底する慎重な姿勢がうかがえます。
業界に広がる波紋とSNSリスク
今回の一連の問題の背景には、アメリカ社会で深刻化する「カルチャーウォー(文化戦争)」と呼ばれる、価値観を巡る保守派とリベラル派の激しい対立があります。ゲーム業界はしばしばその最前線となり、従業員の個人的な発言が政治的な攻撃の的になりやすい土壌が生まれていました。
カーク氏の暗殺事件を機に、ゲーム業界ではSNSを巡る問題が相次いでいます。Bethesdaは、「インディ・ジョーンズ/大いなる円環」のクリップ(「ファシストなんて気にしない」との台詞を含む)を投稿したことがカーク氏支持者を揶揄していると批判され、削除に追い込まれました。また、「Ready or Not」のコミュニティマネージャーは、Discordで「価値あるものは何も失われなかった」とコメントしたことで解雇されています。Microsoftも、一部従業員の発言について調査中であるとの声明を発表しました。
これらの事例は、企業が従業員のSNS利用に対し、厳格な管理を迫られている現状を象徴しています。
政治の介入とプラットフォームへの監視
この問題は政治の領域にも波及し、米下院監視委員会がDiscord、Steam、TwitchなどのCEOに対し、任意の証言を要請する事態となりました。カーク氏暗殺に関連するオンライン上の過激化が調査目的ですが、まだ強制力のない初期段階です。それでも、この動きはSucker Punchを始めとするゲーム業界全体に、新たなプレッシャーを与えています。
問われるゲーム業界の社会的責任
今回のSucker Punchの一件は、デジタル時代のゲーム業界が抱える新たな課題を象徴しています。個人のSNS投稿が企業や業界全体に与える影響は増大しており、社会の政治的な分断が深まる中で、表現の自由と企業の社会的責任の両立という難しい課題が突き付けられています。
今後、業界全体でSNSガイドラインの策定や危機管理体制の見直しが求められるでしょう。「Ghost of Yōtei」のファンからはボイコットを懸念する声も上がっており、ゲームの売上や評価への影響も注視されます。もはや単なるエンターテインメント産業に留まらず、社会的なインフラとして、ゲーム業界はその責任を果たしながら創造性を守る道を模索していく必要があります。


情報元:KOTAKU