
Electronic Arts(EA)がサウジアラビアの政府系ファンドPIFらにより、550億ドルで買収され非公開化されることが正式決定。EAは株主から25%のプレミアムを付与された1株210ドルで買収され、上場廃止に伴い長期的な経営戦略の自由度向上が見込まれる一方、巨額の負債を抱えることで経営課題も懸念されている。
買収の概要:史上最大規模の全額現金取引
2025年9月29日、EAはサウジアラビアの公共投資基金(PIF)、米投資会社Silver Lake、Affinity Partnersによるコンソーシアムに550億ドル(約7.7兆円)で買収される計画が正式に発表されました。これによりEAは株式市場から退場し、非公開企業に移行します。
買収価格は1株あたり210ドル(約2万9400円)で、発表前の終値168.32ドル(約2万3600円)に対して約25%のプレミアムが付与されています。資金の一部はJPモルガン・チェースによる約200億ドル(約2.8兆円)規模の融資によって賄われる予定で、取引完了は2026年4~6月の2027会計年度第1四半期を見込んでいます。取引はすでにEA取締役会で承認されており、株主や規制当局の承認待ちとなっています。
経営体制と事業継続
買収後もアンドリュー・ウィルソンCEOは経営を継続し、本社はこれまで通りカリフォルニア州レッドウッドシティに残る方針です。ウィルソン氏は「EAの創造力と情熱が評価されたことを嬉しく思い、プレイヤー体験の革新を追求し続ける」とコメントしています。
EAは2025年度に純収益約75億ドル(約1兆500億円)を計上し、「EA SPORTS FC」、「Apex Legends」、「The Sims」などの人気IPを擁しています。安定した資金環境のもと、長期的な開発投資や新規タイトルの強化を進める構えです。
財務課題と経営リスク
一方、Bloombergの報道によると、今回の買収は約200億ドル(約2.8兆円)の負債を伴うレバレッジド・バイアウト(LBO)であり、巨額の借入返済が今後の経営課題となります。このため、コスト削減や経営効率化は避けられず、一定のリストラやプロジェクト調整も予想されます。
実際、ファンや業界関係者の間では、以前開発中止となった「Black Panther」ゲームに続き、「Iron Man」の開発継続にも不安の声が上がっています。ただしこれらは現段階では憶測の域を出ておらず、公式発表はありません。
プレイヤーやコミュニティの反応
この買収ニュースはSNS上で賛否両論となっており、一部では「投資ファンドによる買収は将来のゲーム開発に暗雲をもたらす」と懸念されています。特にSilver LakeがAI活用に積極的であることから、効率化による人員削減が加速するといった見方もありますが、詳細は今後の動向次第です。
投資家コンソーシアムの概要
コンソーシアムを率いるPIFは、任天堂やCapcom、モバイルゲーム大手Scopelyへの出資を通じてゲーム業界での存在感を拡大中です。Silver Lakeはシリコンバレーを拠点とし、約1,100億ドル(約15.4兆円)の資産を運用するテクノロジー投資会社、Affinity Partnersはジャレッド・クシュナー氏が率いる投資会社で、PIFからの出資を基に成長企業に投資を行っています。
業界への影響と展望
今回の買収はサウジアラビアの経済多角化戦略「Vision 2030」と連動しており、ゲームやeスポーツ分野を重要な成長産業と位置づけています。業界アナリストは、EAが一部IPで成長の停滞も指摘されることから、新体制ではこれらの刷新やモバイル戦略の強化に期待しています。
日本のeスポーツ市場は2024年時点で約130億円規模と見込まれ、EAは国内でも「EA SPORTS FC」を中心に存在感を強めています。今後も日本市場への注力は続くとみられます。
人権問題と文化的懸念
PIFの背後にあるサウジアラビア政府は国際的に人権問題で批判されており、これに対して一部メディアや業界関係者からは懸念の声も上がっています。EAは過去に多様性や包括性を積極的に推進してきた企業であり、新体制下での企業文化やクリエイティブの自由度に注目が集まっています。
ウィルソンCEOは多様性へのコミットメントは変わらないと強調しており、具体的な影響は今後の動向を見守る必要があります。
取引完了までの流れ
最終的な取引完了には株主総会と規制当局の承認が必要で、45日間の「Go-Shop」期間を経て2026年春の完了が見込まれます。EAは次回決算発表(2025年10月28日)で詳細は限定的な情報提供にとどめる方針です。
550億ドルの史上最大規模の全額現金買収は、EAに成長機会をもたらす一方、巨額の負債とそれに伴う経営リスク、さらには国際的な社会課題を伴う複雑な意味合いを持ちます。業界全体に大きな影響を与えるこの取引は、今後も継続的に注視されるでしょう。