
元Rockstar共同創設者ダン・ハウザー氏が、「GTA5」幻のDLC中止の真相を告白。中止は「RDR2」開発優先の戦略的決断でした。さらに、「GTA」がアメリカを描く理由、「RDR2」の謎の真相、待望の「RDR3」への想いも解説。傑作を生む創造哲学と、妥協の本質に迫ります。
「RDR2」のために消えた「GTA5」DLC
世界的ヒット作「グランド・セフト・オートV(GTA5)」で開発されていた、トレバー主役の幻のDLC。なぜそれはファンの元に届かなかったのか。長年の謎に、Rockstar Gamesの元共同創設者であり、GTAシリーズと「レッド・デッド・リデンプション2(RDR2)」の中心人物でもあるダン・ハウザー氏が初めて口を開いた。
ハウザー氏は1998年に兄のサム・ハウザー氏とともにRockstar Gamesを設立した人物です。イギリス出身の彼は、Take-Two Interactive傘下でRockstarを世界的なブランドへと育て上げ、「GTA III」以降の全ナンバリングタイトルや「RDR」シリーズで脚本とプロデュースを統括するという、まさに中心的な役割を担ってきました。2020年に同社を退社し、現在は新スタジオAbsurd Venturesを率いています。
彼がLex Fridmanのポッドキャストで語ったところによると、「GTA5」のトレバーDLCは「開発の半分ほどまで進んでいたが、完成には至らなかった」とのこと。その裏には、スタジオ全体が「RDR2」という、さらに壮大なプロジェクトの開発に集中するという経営的な判断があったといいます。
「もしあのDLCをリリースしていたら、『RDR2』を完成させることはできなかったでしょう。開発には常に妥協が伴うのです」
限られた制作リソースを一つのプロジェクトに集約する“戦略的妥協”によって、「RDR2」という歴史的傑作が誕生したのです。この証言は、以前トレバー役のスティーブン・オッグ氏が語っていた内容を裏づけるものとなり、長年の憶測に終止符を打ちました。
なぜ「GTA」はアメリカを離れないのか?
この「RDR2」を優先するという決断は、単なるリソース配分の問題ではありませんでした。それは、Rockstarが二大看板である「GTA」と「RDR」に対し、それぞれ異なる創作哲学を持っていることの表れでもあったのです。ハウザー氏の言葉から、両シリーズの設計思想の違いが見えてきます。
インタビューではまず、GTAシリーズがなぜ常にアメリカを舞台にしているのかという長年の疑問にも触れられました。ハウザー氏はその理由を「銃、そして実物よりも大きなキャラクターの必要性」と表現しています。
「『GTA』というIPにはアメリカ的な要素が深く根付いています。外部の土地で同じように機能させるのは難しく、このゲームは〝部外者の視点で見るアメリカ〟そのものがテーマなのです」
銃社会やポップカルチャーに象徴されるアメリカの風土が、「GTA」の根幹をなす風刺的な世界観を支える不可欠な土台になっているのです。ロンドンを舞台にした初期拡張版を除けば、シリーズが一貫して米国を描き続けてきた理由がここにあります。
この「アメリカを映す鏡」という創作哲学は、時にクリエイター自身の経験を色濃く反映します。ハウザー氏はその具体例として、シリーズの中でも特にダークで重厚な物語として知られる「グランド・セフト・オートIV」を挙げました。
当時ニューヨークに住んでいた彼は、私生活での苦悩や、アメリカに留まるかどうかの迷いを抱えていたといいます。彼はこう振り返ります。
「私は独身で惨めでした。最近『GTA IV』を少し見返したのですが、本当にダークで、『ああ、だからか』と思いました」
さらに、当時は社会問題にまで発展した「ホットコーヒー問題」の渦中にありました。これは、「グランド・セフト・オート:サンアンドレアス」の製品データ内に隠されていた未実装の性的ミニゲームが外部から発見されたことに端を発するもので、訴訟や公聴会にまで発展し、会社自体が閉鎖されるかもしれないという極度のプレッシャーに晒されていたのです。こうした公私にわたる不安感が、主人公ニコ・ベリックの孤独や、リバティーシティの物悲しい雰囲気に直接的に流れ込んだと彼は分析しています。
明かされる「RDR」の未来への想い
一方で、「レッド・デッド・リデンプション」シリーズについては、その独特な世界観構築の哲学が語られました。
プレイヤーの間で長年議論されてきた「ギャビンを探している男」の物語は、あえて「明確な結末を用意しなかった」といいます。これは、ゲームの世界がプレイヤーの知らないところでも動き続けているかのような、生きた世界の感覚を生み出すための手法です。
また、超自然的な存在「影の男(The Strange Man)」については、「プレイヤーの影やカルマ、あるいは悪魔の象徴」としてデザインされたキャラクターだと語りました。これらの“謎”は単なる演出ではなく、プレイヤー自身の倫理観や解釈を投影することで、物語への没入を深めるための仕掛けだったといえます。
さらに、ハウザー氏は「RDR3」の可能性にも言及し、Rockstarが将来的に絶対に続編を制作するだろうとしながらも、自身が関与できないことに寂しさをにじませました。
「個人的には『RDR』はまとまりのある二部作です。誰かが続きを作ると聞けば、少し悲しい気持ちになるかもしれません」
ハウザー氏が語る「成功」の本当の意味
「GTA6」には関与していないと語るハウザー氏ですが、その期待の大きさから初期の売上はきわめて好調になると予想しています。しかし、彼が語る本当の「成功」とは、単なる販売本数ではありません。
「資金を回収し、次の作品を作る機会を確保すること。それが本当の〝成功〟だと思います」
この言葉は、Rockstar Gamesが持つ創作哲学の核心そのものです。一つの傑作を絶対的な品質で世に送り出すために、別の有望な可能性を断ち切る覚悟。ハウザー氏が語る“妥協”とは、創造性を諦めることではなく、むしろ最高の作品を生み出すための研ぎ澄まされた選択なのです。
その言葉は、傑作の裏に常に存在する選択と哲学、そして偉大なクリエイターの揺るぎない情熱を強く感じさせるものです。
情報元:RockstarINTEL・PCGamer

