世界的プラットフォームRobloxが、米国で子供の安全を巡る3州からの提訴と刑事捜査に直面する一方、司法長官同盟からは安全対策への協力姿勢を評価されています。この矛盾は、グローバルDAU約8,890万人を記録し、急成長する日本市場にとって何を意味するのか。
Robloxが直面する「称賛」と「非難」という矛盾
世界中の若年層を熱狂させるメタバースプラットフォーム、Roblox。その信頼性が今、大きな岐路に立たされています。米国では、ルイジアナ、ケンタッキー、テキサスの3州が「子供の安全を脅かす」として相次いで提訴し、フロリダ州が刑事捜査にまで踏み切る一方、超党派の司法長官同盟からはオンライン安全対策への協力姿勢を評価されるという、矛盾した状況に直面しています。
相次ぐ提訴と刑事捜査、その深刻な中身とは
2025年8月以降、Robloxに対する風当たりは急激に強まりました。複数の州による提訴に加え、フロリダ州が刑事捜査に踏み切った事実は、その深刻性を示しています。
訴状には極めて厳しい非難が並びます。テキサス州のケン・パクストン司法長官は、「Robloxがピクセル上の小児性愛者と利益を子供の安全より優先している」と断じ、プラットフォームが子供を狙う者たちにとって「格好の遊び場」になっていると糾弾しました。ルイジアナ州のリズ・マリル司法長官は「性犯罪者にとって狩り放題の状態」、ケンタッキー州のラッセル・コールマン司法長官も「児童捕食者の狩り場」と呼び、同社が意図的に基本的な安全対策を怠ってきたと非難しています。
彼らが指摘するのは、Robloxが自称する「世界で最も安全なプラットフォーム」という主張と、規制が及ばず不適切なコンテンツや悪意あるユーザーが横行する実態との乖離です。ゲーム内通貨「Robux」が、子供たちを誘引する新たな手段として悪用されている点には警鐘が鳴らされています。プラットフォーム上で確認されたナチスやKKKを模したアバターや不適切なパーティの画像は、問題の根深さを浮き彫りにしています。
これに対しRoblox側は、一連の訴えに対し、「事実誤認や、いたずらに危機感を煽る扇情的な主張に基づくものだ」と全面的に反論しています。AIと人間の監視員によるモデレーション体制や、チャット内での画像・動画共有の禁止といった対策を強調。個人識別情報（PII）の検出・ブロック能力を強化した「Roblox PII Classifier」のオープンソース化など、具体的な技術的貢献もアピールしていますが、司法当局との溝は埋まっていません。
なぜRobloxは訴えられ、同時に評価されるのか
訴訟が相次ぐ一方で、Robloxは複雑な立場に置かれています。超党派の米国司法長官グループ「司法長官同盟（AGA）」が立ち上げた「若者のオンライン安全のためのパートナーシップ」の初期パートナーに、Robloxが選出されました。AGAは、Robloxの「政策立案者と直接協力し、コミュニティの懸念に対応する用意がある」という姿勢を評価しました。
このパートナーシップは、安全な製品設計基準の策定、児童搾取やハラスメントを抑止するシステムの改善、そして政府・業界・擁護団体間の信頼に基づく連携の構築などを目的としています。Robloxのデビッド・バズッキCEOも、「次世代の保護ツールを共同設計し、迅速に展開できる」と述べ、デジタルエコシステム全体の安全基準向上に期待を示しました。
しかし、ここに皮肉な事実があります。Robloxを提訴したルイジアナ州とケンタッキー州の司法長官は、このAGAの準会員なのです。法廷で「捕食者の狩り場」と糾弾するプラットフォームを、自らが所属する団体が安全対策のパートナーとして評価するという、複雑な構図です。このパートナーシップが進行中の訴訟を直接覆すことはないでしょう。しかし、Robloxにとって、企業の安全対策への取り組みを公に示し、将来的な法的リスクを軽減するための重要な戦略的布石であることは確かです。
この動きを受けて、ルイジアナ州のマリル司法長官はSNSで釘を刺しました。「必要なのはロビー活動ではなく、子供たちのための、より実質的な保護だ」と。この発言からも、手放しで称賛しているわけではないことが窺えます。
日本市場への警鐘：高まる成長と潜在的リスク
視点を日本市場に移すと、Robloxは現在、急成長の真っ只中にあります。グローバル全体では2024年第3四半期にDAU8,890万人を記録し、日本市場もこの成長に大きく貢献しています。国内クリエイター数は過去2年で5倍に増加し、エコシステムは急速に拡大。タカラトミーやカルビー、Hondaなどの大手企業が自社IPを活用したコンテンツ展開を始めるなど、商業利用の可能性も高まっています。
こうした状況下で、Robloxに関する米国での訴訟や刑事捜査は、日本市場にとっても無視できない警鐘です。特に、企業やクリエイターが参入を検討するタイミングで、プラットフォームの安全性や法的リスクに関する情報への需要は急速に高まっています。ブランドイメージを守るためにも、事前のリスク把握と対策は不可欠です。
Robloxの魅力は、誰もが「Roblox Studio」で自由に3D体験を創造・公開できる圧倒的な自由度にあります。しかし、その自由は諸刃の剣です。米国で噴出した未成年者保護の問題は、日本でもすでに顕在化しつつあります。日本のユーザー層も大半が未成年者であり、利用時間の管理、高額課金、メタバース空間での見知らぬ他者とのコミュニケーションといった課題は、保護者や教育関係者の間でも懸念されています。
さらに、企業がRoblox上で展開するコンテンツが、意図せず不適切なユーザー行動やコンテンツと接触する可能性もあり、ブランド毀損のリスクは現実的です。米国での訴訟は、プラットフォーム運営者が負うべき安全配慮義務の重さと、それを怠った場合の甚大な結果を明確に示しています。
このような背景から、Roblox関連のリスクと対策を整理した情報は、企業・クリエイター・保護者・政策関係者にとって極めて価値が高く、需要も確実に存在します。今後の健全な市場形成のためには、単なる技術的対応だけでなく、社会全体で安全なデジタル環境を構築するという強い意志が求められています。
Robloxの未来と、私たちが築くべき安全な環境
Robloxが米国で見せる「称賛と非難」という二つの顔は、グローバルプラットフォームが抱える運営の難しさと社会的責任の重さを象徴しています。刑事捜査にまで発展したという事実は、この問題が看過できないレベルにあることの証左です。急成長を遂げる日本市場は、米国の動向を注視し、そこから教訓を学ぶべきでしょう。
Roblox自身が安全対策へ投資することは当然ですが、それだけでは十分ではありません。日本で事業を展開する企業やコンテンツを提供するクリエイターも、未成年者保護の視点を経営と創造の中核に据えることが不可欠です。それは、不適切な要素を排除する設計思想であるだけでなく、保護者への積極的な啓発活動も意味します。
プラットフォームの健全な成長は、事業者側の努力だけで達成できるものではありません。利用者、保護者、そして社会全体が一体となり、安全なデジタル環境を構築するという強い意志が求められています。この巨大なデジタル空間を、誰もが安心して創造性を発揮できる場所にできるか。その一点に、Roblox、そして私たちの未来がかかっています。
ポチップ
情報元：PCGamer
