
タランティーノ監督が「キル・ビル」未公開脚本を「フォートナイト」で映像化。UE5技術でユマ・サーマンが20年ぶりにThe Bride役を再演。2025年11月30日(米国時間)公開の「失われたチャプター:ユキの復讐」の制作背景、技術詳細、映画とゲームの融合がもたらす産業的意義を徹底解説。
2025年11月30日(米国時間)、映画産業とゲーム産業の境界が消えつつある現状を象徴する、歴史的なコラボレーションが発表されました。徹底したフィルム至上主義者として知られる巨匠クエンティン・タランティーノ監督と、エピック・ゲームズのメタバースプラットフォーム「フォートナイト」との提携です。監督のキャリア初となるアニメーション短編映画「The Lost Chapter: Yuki’s Revenge(失われたチャプター:ユキの復讐)」が、フォートナイト上で世界初公開されました。
本作は、2003年の公開から20年以上経つ今もカルト的な人気を誇る「キル・ビル Vol.1」の、正当なミッシングリンクです。また、最新のゲームエンジンを活用した映画制作の民主化と、IPのトランスメディア展開における新たな可能性を示唆するプロジェクトでもあります。
UE5で実現した「キル・ビル」幻の復讐劇
タランティーノ監督は、自身の映画館で35mmフィルム上映に固執するなど、物理メディアへの深い愛着で知られています。だが、デジタルの最前線である「フォートナイト」に自身のキャラクターを投入したのは、明確な技術的必然性があったためです。
今回のアニメーションは、エピック・ゲームズのリアルタイム3D制作ツール「Unreal Engine 5(UE5)」を使用して制作されました。物語は、「キル・ビル Vol.1」に登場したGOGO夕張(栗山千明)の双子の姉妹、ユキ(声:ミユ・ロバーツ)に焦点を当てています。ユキは、映画のクライマックスである「青葉屋」での決戦の夜、軽い風邪のため早退しており、その場に居合わせませんでした。妹の死を知った彼女は、復讐のためユマ・サーマン演じる「ザ・ブライド」に戦いを挑みます。サーマンは本作で声の出演も担当し、20年ぶりに象徴的な役柄を再演しました。
このエピソードは、映画の第一稿脚本には存在していたものの、第二稿以降で削除されました。タランティーノ監督はプレミア上映のイベントで、当時の実写撮影において、青葉屋での大乱闘シーンに加え、さらに大規模なアクションセットピースであるユキとの戦闘を撮影することは、予算的・時間的に無謀な挑戦であり、またあまりにクレイジーで暴力的、アクション過多というペーシング上の懸念もあり、泣く泣くカットしたと明かしました。
しかし、20年の時を経て、UE5によるバーチャルプロダクション技術が、物理的に不可能だったはずのシーンの具現化を可能にしました。大規模なセット建設やロケーション手配が不要なデジタル空間での制作は、監督の作家性を損なうことなく、コストとリソースの制約を打ち破ったのです。
デジタルが引き出す「演技の本質」
本作のもう一つの革新は、主演ユマ・サーマンの復帰と制作プロセスです。サーマンは今回、実写セットや衣装を一切使用せず、モーションキャプチャスーツとヘッドマウントカメラを装着して演技に臨みました。
UE5のリアルタイムレンダリング技術により、演者の微細な表情や動きは即座にデジタルキャラクターへ反映されます。制作チームは様々なポーズや表情をリアルタイムでテストし、声優の顔データと演技を統合。これにより、アニメーションでありながら実写に迫る演技のニュアンスを再現しました。
サーマンはこの体験について、「頭にカメラをつけるのは新鮮だったがすぐに忘れて、シーンの瞬間を生きることに集中できた」と述べています。「環境がないからこそ、純粋に演技そのものに没入できた」という彼女の言葉は、デジタル技術が逆説的に演技の本質を抽出するツールとなり得ることを示唆しています。
必然だった「有機的」な協業
本プロジェクトは、エピック・ゲームズからタランティーノ監督へのアプローチが発端でした。当初、監督は単なるキャラクターのライセンス契約や、ゲーム内イベントの監修程度だと想定していました。しかし、エピック側が求めたのは「8〜12分程度の、象徴的なキャラクターを巻き込んだ物語」という具体的な企画でした。最終的に完成した「Yuki’s Revenge」は約8〜10分の短編作品となりました。
これに対し、タランティーノ監督は「もしエピックが適当な何かを作ってくれと言ってきたなら、今回のプロジェクトは成立しなかった」とコメントしています。彼の手元には、20年間眠っていた「語られるべき物語」が存在し、この物語がプラットフォーム側のニーズと合致したことで、商業的な枠を超えた有機的な作品が誕生したのです。
監督は実際に脚本を送ってみたところ、「新しい素材を作る船は既に出港したと思っていたが間違っていた」と喜びを滲ませました。20年以上もの間、想像の中にしか存在しなかったユキが、ついに具現化されたことへの驚きと喜びを表明したのです。
進化するメディアとしての「フォートナイト」
完成した「Yuki’s Revenge」には、プラットフォーム「フォートナイト」特有の調整が施されています。タランティーノ作品の特徴である激しい流血表現や過激なセリフは、幅広い年齢層が利用するゲーム環境に合わせて意図的に排除されています。また、背景には「ピーリー」や「スカルトルーパー」などのフォートナイトオリジナルキャラクターが観客として登場し、ポップコーンを片手に戦いを観戦するなど、メタバースならではの遊び心も盛り込まれています。
エピック・ゲームズは現在、フォートナイトを単なるバトルロイヤルゲームから、音楽ライブや映画上映などを包含するエンターテインメント・プラットフォームへと進化させています。今回のコラボレーションは、フォートナイトが映画史の失われた1ページさえも内包できる、新たなメディアへと成長したことを証明しています。
映像とゲームが融合する未来
「The Lost Chapter: Yuki’s Revenge」は、日本時間2025年12月1日(月)午前4時(米国東部時間11月30日午後2時)よりフォートナイト内で公開されます。視聴希望者は、開始30分前からロビーに参加することで席を確保できます。
タランティーノ監督は現在、「キル・ビル」の前日譚の構想も示唆しています。アナログ至上主義の巨匠がデジタル技術を受け入れ、ゲームエンジンを活用してIPを拡張した事実は、映像業界における制作手法の多様化と、ゲームプラットフォームが持つメディアとしての影響力が無視できない段階にあることを印象付けます。
