
コジマプロダクションの注目作「OD」の開発において、Eidos Montrealとの提携解消、AI規制の影響、そして名優ウド・キア氏の訃報という3つの大きな試練が明らかになりました。開発体制の変更やストライキ後の新ルール、そして故人のデジタル出演に関する倫理的な課題は、本作の未来に一体どのような影響を与えるのでしょうか?
コジマプロダクションが開発を進めるXbox Game Studios販売の期待作「OD」。その開発過程において、「Deus Ex」シリーズなどで知られるカナダの大手デベロッパーEidos Montrealが、2023年に約1年間にわたり携わっていた事実が海外メディア「Insider Gaming」によって報じられました。
しかし、その協力関係は「日本へ移籍し、Eidos Montrealとの契約を解消した上で開発継続を」とするコジマプロダクション側の要請を機に終わりを迎えたとされています。
Eidos離脱と業界の構造的危機
報道によると、Eidos Montrealは「P21」というコードネームで呼ばれた「OD」プロジェクトに、2023年の約1年間、約20名の精鋭スタッフを投入していました。
協力関係終了の直接的な契機は、コジマプロダクションによる「日本への移籍要請」でした。これは、小島監督が演出面で徹底的なこだわりを持つ本作において、コアチームの物理的な同一空間での作業(クオリティコントロール)を重要視した結果ではないかと指摘されています。
しかし、この離脱劇の背景には、より深刻な構造的問題も見え隠れします。複数の業界アナリストの分析によると、Eidos Montrealの親会社であるEmbracer Groupは経営危機による長期的な構造改革の最中にあり、Eidos自体も2023年から2024年にかけて大規模なレイオフ(一時解雇)に見舞われています。
現在、Eidosは独自のIP制作よりも、Xbox Game Studios(「Fable」リブートなど)のサポート業務にシフトせざるを得ない状況にあります。「OD」からの離脱は、単なる開発方針の不一致だけでなく、旧態依然とした開発体制の崩壊や、パブリッシャーの不安定性といった業界全体の苦境を象徴する一面も持っています。
「OD」コンセプトとリークの経緯
「OD」の正式発表は2023年のThe Game Awardsでしたが、プロジェクト自体はそれ以前から動いていました。2022年11月には「Overdose」という仮称でゲームプレイ映像が流出しており、そこには「デス・ストランディング」のマーガレット・クアリー氏が出演していたことが確認されています。
小島監督は本作について「ゲームと映画の融合」「この作品は愛するか憎むか、どちらかに分かれる」と語っており、2025年9月に公開されたティザー映像「Knock」では、クラウド技術を応用した没入感の高いホラー表現が話題となりました。しかし、その革新的な試みは、新たな時代の「壁」に直面することになります。
AI規制「ガードレール」の影響
2024年から2025年7月にかけて行われたSAG-AFTRA(全米映画俳優組合)によるビデオゲームストライキは、「OD」の制作スケジュールに大きな影響を与え、撮影は2026年まで延期される見通しです。
このストライキの結果、2025年7月に批准されたSAG-AFTRAの新契約には画期的な「AIガードレール」が盛り込まれました。これは俳優のデジタル複製(AIによる生成)や二次利用に関して、厳格なコンプライアンスを求めるものです。
- デジタル複製:俳優の書面による事前同意が必須化。
- 報酬基準:AI生成作業に対しても人間と同等の報酬を保証。
- 撤回権:将来の争議期間中に同意を取り消す権利の保証。
「OD」のような実写映画的手法を用いる作品にとって、これらの規定は制作コストの増加や権利処理の複雑化を意味しますが、同時に出演者の権利を守るための不可欠な法的基盤が整ったことも意味しています。
故ウド・キア氏とデジタル倫理
制作の遅延が続く中、2025年11月23日、本作に出演予定だったドイツ出身の名優ウド・キア氏(81歳)が亡くなりました。小島監督はSNSで、「ウドは時代のアイコンであり、多大な影響力を持つ俳優だった」と追悼し、撮影延期中も頻繁に連絡を取り合っていたことを明かしました。
キア氏の急逝は、制作チームに「故人のデジタル複製」という倫理的・技術的な試練を突きつけます。未収録部分をAI技術で補完する可能性も考えられますが、前述の新契約における「AIガードレール」の下では、遺族への適切な補償と明確な同意プロセスが不可欠となります。かつてのように技術的に可能だからといって無制限に再現することは許されず、制作側は「故人の尊厳」と「作品の完成」の間で、新時代の倫理に基づいた判断を迫られることになります。
展望:次世代エンタメへの挑戦
Eidos Montrealとの初期開発協力とその解消、日本への開発集約、SAG-AFTRAストライキによる法的環境の変化、そして出演俳優の訃報。
「OD」はこれら三つの課題とも言える難局を経て、現在も制作が続けられています。
小島監督は本作について「本当の評価は10年後、20年後に来る」と語っています。これは単なるエンターテインメント作品としてだけでなく、AI時代の制作倫理や、クラウド技術を用いた新しいメディアの形を定義する「先駆的な作品」になることを見据えているからかもしれません。
情報元:Insider-gaming


