
2025年米国ブラックフライデー商戦で、新興機「Nex Playground」がXboxの販売台数を上回る衝撃的な結果となりました。PS5首位、Switch 2が2位の中、なぜ無名のデバイスが3位に食い込んだのか。背景には、高機能・高価格化が進む市場が取りこぼした「手頃な価格」と「家族の安心感」を求めるニーズがありました。
2025年の米国ブラックフライデー商戦において、家庭用ゲーム機市場の勢力図を揺るがす象徴的な出来事が起きました。市場調査会社Circana(サーカナ)のシニアディレクター、マット・ピスカテラ氏のデータによると、長年業界を牽引してきたマイクロソフトの「Xbox」シリーズが、比較的無名な新興機「Nex Playground」に週間販売台数で敗れたのです。

Xbox全体を凌駕した「単一商品」の衝撃
ピスカテラ氏のデータによれば、ブラックフライデーを含む週(2025年11月29日終了週)の米国ハードウェア市場シェアは以下の通りです。
| 1位 | PlayStation 5 | 47% |
| 2位 | Nintendo Switch 2 | 24% |
| 3位 | Nex Playground | 14% |
首位はPlayStation 5で、市場の47%(約半数)を占めました。これは大幅な割引施策と豊富な在庫供給が奏功した結果です。2位には、2025年6月発売のNintendo Switch 2が24%でランクインし、次世代機として堅調な需要を維持しています。
業界に衝撃を与えたのは、3位に食い込んだNex Playgroundです。この新興ハードウェアは単独で全体の14%を獲得しました。対照的に、Xbox Series X|Sや従来型Switchなどを合わせた「その他」のシェアは計15%にとどまり、Xbox単体のシェアは実質的にNex Playgroundを下回る4位以下となりました。
特筆すべきは、「プラットフォーム全体」対「単一商品(SKU)」の比較でもNex Playgroundが優位に立った点です。通常、XboxやPS5は複数モデルで販売数が分散しますが、前週(11月22日終了週)の商品別ランキングでは、Nex Playground本体セットが「PlayStation 5 Slim デジタル・エディション 1TB」を上回り2位に浮上しました。これは分散した需要ではなく、明確な「指名買い」が集中したことを裏付けています。
現代版Kinect「Nex Playground」の勝因
業界関係者以外には馴染みの薄い「Nex Playground」ですが、そのコンセプトは明確かつ戦略的です。2023年に登場したAndroidベースのこのコンソールは、コントローラーを使わず、内蔵カメラによるモーショントラッキング(身体動作)で操作します。
かつてマイクロソフトが「Kinect」で、ソニーが「EyeToy」で開拓しようとした体験を、現代技術で再構築したデバイスと言えます。この製品が米国のファミリー層に受け入れられた背景には、3つの要素があります。
第一に、「導入のしやすさ」です。HDMIと電源を接続するだけで設定が完了し、複雑な操作も不要な点は、デジタル機器に不慣れな層や低年齢層にとって大きな魅力です。
第二に、「強力なIPラインナップ」です。『Fruit Ninja』のような直感的なゲームに加え、『バービー』『カンフー・パンダ』『ブルーイ』『セサミストリート』といった世界的タイトルを揃えています。これらを月額サブスクリプションで提供し、継続的な収益モデルを構築している点も注目に値します。
第三に、「安全性の徹底」です。独自の閉じられたシステムを採用し、子供が意図せず高額課金をするリスクを排除しました。この「親の安心感」が口コミを加速させ、効率的なマーケティングを実現しました。
「価格の壁」と業界が見落とした盲点
最新スペックのXboxが枯れた技術のデバイスに敗れた要因は、製品力だけの問題ではありません。GamesIndustry.bizのロブ・ファヘイ氏が指摘するように、「業界の盲点(Blind Spot)」を突いた結果です。
近年のコンソール市場は、高性能化に伴う価格高騰に直面しています。米国市場ではPS5が約500ドル、Nintendo Switch 2も449.99ドル前後が主流となり、ソフト価格も上昇傾向です。世界的なインフレ下において、多くの家庭にとって最新ゲーム機は「気軽なプレゼント」ではなくなってしまいました。
対してNex Playgroundは、定価約250ドル、セール時には200ドルを切る価格を実現しました。かつてWiiが開拓し、その後大手が高性能化競争の中で置き去りにした「安価で、家族全員が楽しめる市場」。Nexはこの空白地帯(ブルーオーシャン)に、的確なタイミングで製品を投入したのです。「カジュアルゲームなら最新チップセットでなくても十分」という技術的成熟も、この戦略を支えています。
結論:スペック競争の限界と新たな好機
一方で、この現象には地域差も見られます。同週の英国市場ではPS5が62%、Switch 2が23%と圧倒的で、Nex Playgroundのシェアは限定的です。これは、米国市場特有の価格への敏感さや、新規参入者がシェアを獲得しやすい流動性を示唆しています。
しかし、2025年のブラックフライデーにおけるNex Playgroundの躍進は、一過性のブームとして片付けるべきではありません。高性能・高価格化が進む市場に対し、「手頃な価格」と「安心感」を求める巨大な潜在需要があることをデータが証明したからです。
大手が再びマス層に向けた施策を打つのか、それともNexのようなスタートアップが拡大を続けるのか。業界は今、スペック競争とは異なる「市場適応力」を試されています。「アフォーダビリティ(購買のしやすさ)」への回答が、今後のシェアを左右する鍵となるでしょう。
