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「ショベルナイト」開発元が存続の危機? 新作「Mina」延期でスタジオの行方は

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世界的ヒット作「ショベルナイト」で知られるYacht Club Gamesが、創業以来最大の試練に直面しています。新作「Mina the Hollower」の無期限延期と財務悪化。名門スタジオはなぜこのような事態に陥ったのでしょうか?また、いかにして独立の灯を守ろうとしているのでしょうか。

インディーゲーム業界で成功の象徴とされるYacht Club Gamesが、今その存続をかけた重大な局面を迎えています。2014年に発売されたデビュー作「ショベルナイト(Shovel Knight)」は、クラウドファンディングの成功事例として、またレトロゲームへの敬愛に満ちた完成度で世界的評価を獲得しました。しかし、あれから10年以上が経ち、スタジオはかつてない試練に直面しています。

存続の分岐点は50万本、「傑作」でなければ生き残れない

Bloombergおよび複数の業界関係者の報道によると、約15名の精鋭スタッフを抱えるYacht Club Gamesは、現在きわめて厳しい財務状況に置かれています。新作「Mina the Hollower」の開発期間はすでに約6年に及び、2022年のKickstarterキャンペーンでは約120万ドル(日本円で約1億8000万円)の支援を集めました。しかし発売予定のわずか3週間前、スタジオは同作の無期限延期を発表。この決断が、まさに苦境の深刻さを象徴しています。

創設者でありスタジオヘッドのショーン・ベラスコ氏は、「今はまさに伸るか反るかの時期だ」と打ち明けています。彼の試算によれば、「Mina」が発売後に50万本を売り上げれば経営は安定。20万本でも成功といえますが、10万本にとどまれば先行きは厳しいとのことです。

かつて「ショベルナイト」で累計300万本以上を売り上げた栄光も、今は過去のものとなりました。外部資本に頼らず独立性を守り続けるためには、「Mina the Hollower」の大ヒットが不可欠です。単に発売して黒字化するだけでは不十分であり、50万本という高いハードルを越える「傑作」として世に送り出さなければ、スタジオの未来はない――この危機感こそが、今回の延期の根底にあります。

体験版はあくまで「断片」、真の延期理由

「Mina the Hollower」は、PC(Steam)に加え、Nintendo Switchや今年6月に登場したNintendo Switch 2、PS5、Xbox Series X|Sなど、現行の主要プラットフォームに向け開発されているアクションアドベンチャーゲームです。

ゲームボーイ時代の美学と「ゼルダの伝説 夢をみる島」のようなトップダウン型アクションを融合させた本作では、プレイヤーは主人公の「ミナ」を操作し、島の呪いを解くための冒険に挑みます。すでに体験版も配信され、外からは完成間近に見えていた本作ですが、その内実は綱渡りの状態でした。

延期の決定的な要因となったのは、「開発チームがゲームを最初から最後まで通してプレイできるようになったのが、発売予定日のわずか数週間前だった」という事実です。

いざ通しプレイを行った結果、改善すべき点が山のように浮き彫りになりました。スタジオ存続をかけた「50万本」の壁を越えるには、現状のクオリティでは不十分であると判断せざるを得なかったのです。

開発の遅れには、2020年のコロナ禍によるリモートワークへの移行や、スタジオのリソース分散といった組織的な問題が影響しています。さらに、当初は小規模なプロジェクトだった「Mina」が、開発進行とともにオープンワールド的要素を含む大規模なものへと肥大化したことも要因です。

若きディレクターだったアレック・フォークナー氏のもとで開発は停滞し、ピクセルアーティストのサンディ・ゴードン氏が「終着点が見えなかった」と語るほど現場は混乱していました。事態を打開するため、2024年にベラスコ氏がディレクターとして介入。「基本的にはすべてをやり直さなければならなかった」と語られるほどの大規模な改修が行われました。

体験版として公開されていたのは、あくまで磨き上げられた「断片」に過ぎません。全体を再構築し、一つの作品として完成させるための時間が、どうしても不足していたのです。

飽和する市場:インディーゲームの生存競争

Yacht Club Gamesが直面している問題は、単なる内部トラブルにとどまりません。現在のゲーム業界全体が抱える構造的な競争過多を象徴しています。

PC配信プラットフォーム「Steam」によると、2024年の新規リリースタイトル数は1万8000本を超えました。これは2020年の約2倍にあたります。

いまや「良いゲームを作れば売れる」という単純な時代ではありません。新作の洪水の中で、自社タイトルを目立たせることすら難しいのが現状です。さらに、資金力のある大手スタジオ作品や、継続的アップデートによって長く遊ばれる既存ヒット作ともしのぎを削らねばなりません。

マーケティングディレクターのセリア・シリング氏が語る「企業の強さは、最後にリリースしたゲームの評価で決まる」という言葉は、この厳しい現実を体現しています。

背水の陣での決断と未来への展望

発売延期が発表された10月、スタジオ内は緊張に包まれました。しかし、その決断によって得られた時間は、確実に品質向上につながっています。

ベラスコ氏がメディア向けに公開した最新ビルドでは、グラフィックと操作感が飛躍的に進化し、テストプレイに参加した記者からは「ショベルナイトの正統な後継者にふさわしい」との声も上がりました。

「今回は良い延期だ。問題点はすべて洗い出した。あとは修正の時間が必要なだけだ」と語るベラスコ氏の言葉に、確かな手応えが感じられます。

スタジオは今後、ロサンゼルスのオフィスを閉鎖し、完全リモートワーク体制へ移行して固定費を削減する計画です。また、複数タイトルの並行開発を避け、プロジェクトを一つに集中させる方針も固めています。共同創設者のニック・ウォズニアック氏は「5、6年周期ではなく、数年ごとに安定して作品をリリースできる体制を作りたい」と語り、持続可能な開発環境づくりへの意欲を示しました。

もし「Mina the Hollower」が商業的に失敗すれば、スタジオはさらなる縮小や外部資金の導入を迫られる可能性があります。それは、創業以来守り抜いてきた〝独立〟の理念を一部手放すことを意味します。しかし逆に成功を収めれば、再びインディーゲーム界の旗手として復活を果たせるでしょう。

すべては、小さなネズミの主人公「Mina」の双肩にかかっています。かつて青い鎧の騎士で世界を魅了したYacht Club Gamesが、この逆境を乗り越え、再び私たちに驚きと感動を届けてくれるのか。業界関係者と多くのファンが、その行方を見守っています。

情報元:Bloomberg

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