
新生「トゥームレイダー」のララ役に抜擢されたアリックス・ウィルトン・リーガン氏。彼女はなぜ、収録済みだった期待作「パーフェクトダーク」の急な開発中止に「不意打ち」を受けたのか?買収交渉の失敗や業界を襲う大規模レイオフの裏側、そして最新作の動向から見える過酷な現状の先に、彼女が抱いた恐怖とは?
かつて「マスエフェクト」や「サイバーパンク2077」など数々の大作に出演し、新たに「トゥームレイダー」シリーズの主人公ララ・クロフト役に抜擢されたアリックス・ウィルトン・リーガン氏。彼女は先日、主演を務める予定だったXboxの期待作「パーフェクトダーク」のリブート版が開発中止となった際の衝撃について、複雑な胸中を明かしました。
5年越しの計画、突然の終焉
マイクロソフト傘下のスタジオ「The Initiative」が進めていた「パーフェクトダーク」のリブート計画は、2020年の発表以来、多くのファンが熱い視線を注いできました。2024年の「Xbox Games Showcase」で最新のゲームプレイ映像が公開された際には、その期待感は最高潮に達しました。しかし2025年7月、マイクロソフトは突如として同プロジェクトへの資金援助打ち切りと、スタジオの閉鎖を決定しました。
この背景には、業界全体を揺るがす深刻なコスト削減圧力があります。マイクロソフトは2025年7月、全社で約9,000人規模のレイオフ(全世界の従業員の約4%)を実施しました。その波はXbox部門を直撃し、数億ドル規模のAI投資へのリソース集中という戦略的判断により、Rareの「Everwild」やZeniMax Onlineの新作など、複数の重要プロジェクトがキャンセルという苦渋の決断を迫られることとなりました。
俳優をも驚かせた中止通告
「世間が知ったのと全く同じタイミングで、私も開発中止を知らされました」
リーガン氏によれば、この決定は彼女にとっても完全な不意打ちでした。2023年を通じて音声収録を行い、2024年にはパフォーマンスキャプチャーを実施、さらに2025年に入ってからも追加収録が継続されていました。制作現場には創造的な活気が満ちていたといいます。
驚くべき事実は、中止が決定した時点で物語の数章分にわたる収録が完了していた点にあります。制作現場は順調に稼働し、クライアントであるマイクロソフト側もそれまでのマイルストーンに対して「非常に満足している」と伝えていた最中の出来事でした。失われたのはゲームそのものだけでなく、長年かけて築かれたスタッフ同士の絆、そして一つの「創造的エコシステム」そのものでした。
買収交渉の決裂と断たれた道
「パーフェクトダーク」が完全に消滅する前に、プロジェクトを救うための「希望の光」があったことも明かされています。業界大手のTake-Two Interactiveが、同作の共同開発を担当していたCrystal Dynamicsの親会社、Embracer Groupと接触し、プロジェクトの買収を検討していたのです。
もしこの取引が成立していれば、パブリッシャーがTake-Twoへと移り、ゲームが世に出る道が残されていたかもしれません。しかし、知的財産権(IP)の長期的な所有権を巡る議論が難航し、最終的に交渉は決裂。リーガン氏は「交渉が決裂したと聞いた日、私は完全に希望を失いました」と、当時の落胆を振り返っています。
「統一されたララ・クロフト」への期待と不安
ジョアナ・ダーク役という大きな役を失ったリーガン氏にとって、唯一の心の支えとなったのは、次世代「トゥームレイダー」シリーズへの抜擢でした。彼女は「統一されたララ・クロフト(Unified Lara Croft)」として、過去のすべてのタイムラインを統合する新たなシリーズの顔となることが決定しています。
リサーチ資料によれば、彼女は以下の2作品で主演を務めます。
- 「Tomb Raider: Legacy of Atlantis」(2026年発売予定):1996年の第1作をUnreal Engine 5で完全リイマジニング。現代的な操作性とパズルを導入。
- 「Tomb Raider: Catalyst」(2027年発売予定):北インドを舞台にした完全新作。2008年「Underworld」の数年後を描き、シリーズ最大の広大な世界を冒険。

しかし、業界全体の不安定さを身をもって知った彼女の心には、ある影がつきまとっていました。「同じことが再び起こるのではないか」という拭いきれない恐怖です。
「16年間のキャリアで、このような経験は初めてでした。今でも、ララ役を失ってしまうのではないかと恐れています」
この叫びは、開発コストの高騰と投資回収のリスクが、プロジェクトの存続を常に脅かしている現在のAAA開発現場が抱える構造的課題を象徴しています。
拡大するシリーズの未来
一方で、シリーズ全体を見渡せばAmazon Gamesの主導によりブランドの再構築が強力に進んでいます。Amazon Prime Videoでは、実写ドラマ版「トゥームレイダー」の制作が進行しており、2026年1月より撮影が開始される予定です。
フィービー・ウォーラー=ブリッジが製作総指揮を務め、ララ・クロフト役にはソフィー・ターナー、さらにシガニー・ウィーバーやジェイソン・アイザックスといった豪華キャストが名を連ねています。このドラマ版はゲーム版と世界観を共有する「統一されたストーリーテリング・ユニバース」の一部として設計されています。
業界が抱える構造的課題
リーガン氏が経験した「不意打ちの開発中止」は、現在のAAAゲーム開発がいかに危ういバランスの上で成り立っているかを知らしめました。プロジェクト中止後、主要開発者数名はTake-Twoへ移籍し、新たなスタジオを設立したとも報じられていますが、すべてのスタッフに道が用意されているわけではありません。
アリックス・ウィルトン・リーガン氏の言葉は、不安定な情勢の中で戦い続けるすべてのクリエイターの声を代弁しています。次世代の「トゥームレイダー」が、彼女、そしてすべての開発チームにとっての「安息の地」となり、無事にプレイヤーの手元へ届くことを願わずにはいられません。
情報元:TheGamer

