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ソニーとテンセントが「Horizon」模倣問題で和解 ─ 「Light of Motiram」は中止に

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ゲーム業界の巨頭、ソニーとテンセントが新作「Light of Motiram」を巡る裁判で和解に達しました。ソニーの人気作「Horizon」に酷似していると物議を醸していた本作ですが、今回の合意により主要ストアから完全に削除され、事実上の販売中止となりました。なぜここまで似てしまったのか、そしてソニーが強硬な姿勢を崩さなかった理由とは?

ゲーム業界大手のソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)と中国のテンセント(騰訊)は、新作ゲーム「Light of Motiram(ライト・オブ・モティラム)」を巡る法的紛争を終結させました。2025年12月18日に提出された裁判文書により、両社が和解に至ったことが判明。これを受け、同作はSteamやEpic Gamesストアなどの主要プラットフォームから削除され、現在は入手不可能な状態となっています。

酷似騒動の幕開けと提訴の経緯

事の発端は、2024年11月にテンセント傘下のスタジオが発表した「Light of Motiram」でした。本作は発表直後から、ソニーの看板タイトル「Horizon(ホライゾン)」シリーズに酷似していると指摘され、ネット上で大きな話題となりました。

「文明崩壊後の自然豊かな未来」という設定や「動物型の機械生命体」、「赤毛の女性主人公」といった要素が、ソニーが長年築き上げてきた「Horizon」の世界観と重なっていたためです。これに対しソニーは2025年7月、著作権および商標権の侵害を理由にテンセントを提訴。「独創性のない模倣品にすぎない」と厳しく批判しました。

さらに裁判を通じて、テンセントが2024年に「Horizon」のスマホ版共同開発を提案し、ソニーに拒絶されていた事実も判明しました。提案を断られた直後に「そっくりなゲーム」の制作を強行したという経緯が、ソニー側の反発を強める決定的な要因となりました。

ジャンルの定石か、悪質な模倣か

テンセントは裁判において、「文明崩壊後の世界やロボット恐竜といった要素は、このジャンルにおける一般的な定型表現であり、ソニーが独占できるものではない」と主張しました。

これに対しソニーは、テンセントの主張を「法的責任を逃れるための不当な言い分だ」と一蹴。具体的な類似点として、以下の項目を挙げました。

比較する要素ソニーの「Horizon」シリーズテンセントの「Light of Motiram」
主人公赤毛の女性戦士「アーロイ」アーロイにそっくりな赤毛の女性
機械の怪物恐竜や動物を模した精密な機械ほぼ同じデザインの機械の怪物
世界の設定文明が滅び、自然に覆われた未来同じ雰囲気のアポカリプス環境
持ち物周囲をスキャンする耳のデバイス耳に装着する、機能も形も似た装置

電撃和解とストアからの消滅

2025年12月初旬、事態は急展開を迎えました。ソニーの申し立てが一部認められたことを受け、テンセントは判決を待たずに宣伝や公開テストの中止に合意。その後、間もなく両社は正式な和解に至りました。

今回の和解は「再提訴を禁じる却下(dismissed with prejudice)」という形式で行われ、本件に関する法的紛争は完全に終結しました。和解条件の詳細は非公開ですが、一方が勝敗を決するのではなく双方が合意する形での決着となり、訴訟費用も各自が負担することで一致しています。

和解と同時に、主要ストアから「Light of Motiram」の製品ページが削除され、事実上の販売中止となりました。

徹底抗戦の裏にあるブランド戦略

ソニーが一切の妥協を排して徹底抗戦した背景には、単なる感情的な反発ではなく、緻密な「IP・トランスメディア戦略」が存在します。同社は現在、「Horizon」ブランドをゲーム以外の領域へも拡大する重要な局面にあり、ブランドの価値を死守する必要がありました。

「Horizon Steel Frontiers」との直接競合
最大の要因は、韓国NCSoftと共同開発中のMMORPG「Horizon Steel Frontiers」の存在です。テンセントの「Light of Motiram」は、PCとモバイルの両展開を目指しており、ソニーが狙うオンライン市場と完全に重複していました。

映像化・マルチメディア展開への影響
ソニーは現在、PlayStation作品の映像化を推進しており、2027年の公開を目指した「Horizon」の実写映画プロジェクトも進行中です。世界観が酷似した他社作品が市場に蔓延すれば、ブランドの純度が薄まり、将来的なライセンス収益の減少や消費者の混同を招きかねません。

多角的な新規プロジェクトの保護
他にも複数の関連プロジェクトが進行しており、ブランドの信頼性を維持することは同社の将来にとって極めて重要です。模倣品を排除し、公式ブランドの独自性を担保することは、今後の成長戦略の根幹に関わる課題でした。

テンセントの「誤算」と中国開発シーンの変容

テンセントにとって、本作は「ポスト原神」の地位を狙う最重要プロジェクトの一つでした。

裁判資料からは、同社が以前ソニーに提案した「Horizon」の共同開発案を拒絶されていた事実が明らかになっています。業界内では「提携を断られた技術力を、独自の『Horizon風タイトル』へと転用した」との見方が有力です。これはかつての中国メーカーによる常套手段でしたが、グローバルな法務網を網羅する現在のソニーのような企業に対しては、もはや通用しない旧来の戦略といえます。

近年、中国ゲーム界では「黒神話:悟空」のように、高い独創性と技術力で世界を席巻する作品が次々と誕生しています。その最中にあって、最大手のテンセントが「模倣訴訟」によりストア削除へ追い込まれたことは、他の中国メーカーにとっても「独自IPを育てるべき」という強力な教訓となりました。

IP保護の新基準と両社の今後

今回の訴訟決着は、両社の関係が完全に断絶したことを意味するものではありません。和解声明に添えられた「将来的な協力関係を楽しみにしている」という言葉は、単なる外交辞令を超えた実利的な意味を持っています。

その背景には、両社の間に存在する以下のような強固なビジネス上の繋がりがあります。

  • Epic Gamesを通じた連携: テンセントはEpic Gamesの株式の約40%を保有し、ソニーもまた同社に出資しています。両社はゲーム開発の基盤となる「Unreal Engine」のエコシステムを支える共同オーナー的な立場にあります。
  • FromSoftwareへの共同出資: 両社は共にFromSoftwareの株式を保有するビジネスパートナーでもあります。

このように、多くの分野で利益を共有しているからこそ、特定タイトルにおける紛争が、中国市場での配信協力といった広範な協力関係を損なう事態は避けなければなりませんでした。今回の早期和解は、そうした大局的な損害を回避するための現実的な判断であったといえます。

テンセントの広報責任者が「和解を歓迎し、今後はソニーとの協力を楽しみにしている」とコメントしたことは、まさにこうした背景を象徴しています。特定のタイトルでは争ったものの、他の巨大なビジネス領域では、今後もパートナーシップを維持していく道を選んだのです。

今回の事案は、ゲーム業界における「作品への敬意」や「独創性」の重要性を改めて浮き彫りにしました。ソニーが自社ブランド保護のために示した毅然とした態度は、今後、安易な模倣品に対する強力な抑止力となるでしょう。

情報元:TheVerge

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