
ソニーがゲーム攻略を支援する「AIゴーストプレイヤー」特許を出願。プレイヤーが進行不能になった際、AIが操作を代行したり、解法を実演したりする画期的なシステムです。既存のプレイ映像から学習する本技術は、PS5「ゲームヘルプ」をどう進化させ、私たちのゲーム体験や業界の未来にどのような変化をもたらすのでしょうか?
ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が2024年9月に出願したAIゲーム支援技術の特許が、2025年12月に世界知的所有権機関(WIPO)より公開されました。「AI生成ゴーストプレイヤー(AI-Generated Ghost Player)」と呼ばれるこの技術は、プレイヤーがゲーム進行に行き詰まった際、AIが操作を代行したり、攻略手順を実演したりして支援するシステムです。
「ゴーストプレイヤー」の概要と機能
本特許の中核となるのは、プレイヤーキャラクターに重なる形で現れる「AIゴースト」です。パズルや戦闘で行き詰まった際に呼び出すことで、状況に応じた支援を受けられます。
特許資料では、主に以下の2つの機能が挙げられています。
- ガイドモード(Guide Mode):
AIキャラクターがパズルの解き方や敵の倒し方を実演します。たとえば「アンチャーテッド」のようなアクションゲームにおいて、ジャンプすべき足場やボタン入力のタイミングを、AI版の主人公が目の前で示します。従来のヒント映像とは異なり、実際のプレイ画面上でリアルタイムに解法を確認できるのが特徴です。
- コンプリートモード(Complete Mode):
AIがプレイヤーに代わって特定の区間をクリアします。高難易度のボス戦や複雑なパズルなど、自力での突破が難しい場面を任せることで、物語を先に進められます。
さらに、これらの機能は「ストーリー」「コンバット(戦闘)」「探索」「フルゲーム」といったモードごとの切り替えが可能であると示されています。状況によっては、AIゴーストがキャラクターと会話しながら、口頭でアドバイスを送る機能も想定されています。
機械学習による動的なソリューション生成
技術面で特に注目されるのは、この「AIゴースト」があらかじめプログラムされた決まった動きをするのではなく、実際のゲームプレイ映像を学習して動くという点です。
これまでのゲームに登場する案内役(NPC)などは、開発者が手作業で作ったルール通りにしか動きませんでした。しかし、この技術では、世界中のプレイヤーによる膨大なデータをAIが分析し、その場面に最適な攻略ルートや手順を自動的に導き出します。いわば、上手なプレイヤーの動きをAIが学び、それを再現して教えてくれるのです。
これは、現在PlayStation 5に搭載されている「ゲームヘルプ」機能の進化形とも言えます。現在の機能はヒント動画や画像を表示するだけですが、それでも「攻略サイトをスマホで調べる手間が省ける」として、多くのユーザーから評価されています。今回のAIゴーストはこの利便性をさらに発展させ、プレイヤーが困っている状況に合わせて、より直接的で具体的なサポートを行ってくれるものです。
アクセシビリティ向上と他社のAI動向
こうした支援システムが開発される背景には、ゲームの内容が年々複雑になり、途中で挫折してしまう人が増えているという課題があります。
特許の資料にも、「ゲーム技術は進歩したが、複雑化によってタスクを完了できず、プレイを諦めてしまう人がいる」といった旨が記載されています。外部の攻略サイトを調べるためにゲームを中断することなく、物語の世界に没頭したまま手助けを得られるようにすることが、この技術の狙いです。
同様の動きはライバル企業にも見られます。マイクロソフトは「Copilot for Gaming(ゲーム用コパイロット)」を発表し、これを「AIの相棒」と位置づけました。たとえば「Minecraft」で素材の使い方を質問したり、ゲームの準備や振り返りを手伝ってもらったりと、特に初心者向けのコーチ役として活用しようとしています。
また最近では、映像の見え方を調整する機能や、ボタン配置の変更、あるいは「Death Stranding 2」のように難しいボス戦をスキップできる機能など、誰でも快適に遊べるようにする「アクセシビリティ(遊びやすさ)」への配慮が標準的になりつつあります。ソニーの特許も、こうした「誰もが最後までゲームを楽しめるようにする」という業界の流れを、AIの力でさらに推し進める試みと言えるでしょう。
開発現場におけるAI活用の現状と議論
一方で、ゲーム開発およびプレイ体験へのAI導入は、業界内で賛否両論を呼んでいます。
Unityの2024年レポートによれば、同社ツールを利用するスタジオの62%が開発にAIを導入しており、特にアニメーション分野での活用が進んでいます。同年のGDC調査でも業界関係者の約3分の1が利用を報告、東京ゲームショウの調査では日本企業の半数以上が導入済みとされています。Epic Gamesのティム・スウィーニーCEOも「将来のほぼすべての制作にAIが関与する」と述べており、この流れは確実なものとなりつつあります。
しかし、プレイヤー体験の観点からは懸念の声も上がっています。「ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク」などのタイトルでは、パズル開始直後にNPCが解法を話してしまう仕様が「過剰な親切」として批判されました。プレイヤー自身が試行錯誤する楽しみ(エージェンシー)を奪いかねないためです。
さらに、技術的な課題も残されています。複雑な戦闘や高度なパズルにおいて、現在のAIが人間レベルの適切な判断を下せるのかは未知数です。開発者が丁寧に作り込んだチュートリアルに対し、AI任せの動的な生成は予期せぬ挙動や品質低下を招き、かえってプレイヤーを混乱させるのではないかという懐疑的な見方も根強く残っています。
特許が示唆する未来のゲーム体験
今回明らかになった特許は、あくまで技術的なアイデアの段階にすぎません。将来のPlayStation製品に必ず導入される保証はなく、ほかの多くの特許と同様に、実際には製品化されないまま終わる可能性もあります。
しかし確かなのは、ソニーが「プレイヤーが途中で挫折してしまうのを防ぎ、ゲームを長く楽しんでもらう」ための解決策を模索しているという事実です。その手段として、AIがより積極的にプレイに関与する方法を真剣に検討していることがうかがえます。
これまでの「ヒント動画を表示するだけ」の機能から、「代わりに操作してくれる」機能へ。AIは単なる道具から「一緒に遊ぶパートナー」へと進化しようとしています。そうした未来において、便利さと引き換えに「自分でクリアしたという達成感」が損なわれないよう、いかにバランスを取るかが開発側の重要な課題となるでしょう。
情報元:VGC・BoingBoing・Wipo

