
約30年間にわたり「スーパーマリオ」の声を務めたチャールズ・マーティネー氏。任天堂を知らないままオーディションに挑み、即興で役を射止めた驚きの経緯とは。ステレオタイプを避け、世界中に愛されるマリオ像をどう築いたのか。彼が語る演技哲学と次世代への思いに迫ります。
世界で最も有名なゲームアイコンであり、任天堂の顔として愛される「スーパーマリオ」。その声を約30年にわたって担当し、キャラクターに命を吹き込んだチャールズ・マーティネー氏が、海外メディアのインタビューに応じました。そこで語られたのは、マリオ役を射止めた驚きの経緯と、演技に込めた深い信念です。
2023年、マーティネー氏がマリオ役の声優を退き、新たに「マリオ・アンバサダー」に就任することが発表されました。最新作『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』からはケビン・アフガニ氏が後任を務めていますが、マーティネー氏が長年にわたり築いてきた功績は、今もゲーム業界の歴史に大きな意味を持ち続けています。
任天堂を知らずに飛び込んだオーディション
業界関係者が一様に驚くのは、マーティネー氏がオーディションを受けた当時、任天堂という会社についてまったく知識がなかったという事実です。
「正直なところ、当時の私は任天堂の名前すら聞いたことがなく、マリオがどんなキャラクターかも知りませんでした」とマーティネー氏は回想しています。
彼はそのとき、いわば「アポなし」でオーディション会場に駆け込んだと語ります。事前の準備も予備知識もないまま、スタッフから「とにかく話し始めてください。話が尽きたら終わりです」とだけ言われ、マイクの前に立ちました。
綿密な事前調査や設定づくりが当たり前の現代のエンターテインメント業界において、これは非常に異例の出来事でした。しかし、この「何も知らなかった」という無垢さこそが、固定観念に縛られない新しいマリオ像を生み出す原動力になったのです。
主な参加作品(マリオシリーズ中心)
| スーパーマリオ | マリオ、ルイージなど | スーパーマリオ64(1996、初担当)、スーパーマリオサンシャイン、New スーパーマリオブラザーズ シリーズ、3Dワールド |
| マリオカート | マリオ、ルイージ、ワリオ、ワルイージほか | マリオカート64、ダブルダッシュ、DS、8、Wii、Tour(全13作品) |
| マリオパーティ | マリオ、ルイージ、ワリオほか | 全16作品(1998〜2021) |
| スマッシュブラザーズ | マリオ、ルイージ、ワリオなど | 大乱闘スマッシュブラザーズ(全6作品、1999〜2018) |
| ルイージマンション | ルイージ、マリオ | 全6作品(2001〜2024) |
| マリオ&ルイージRPG | マリオ、ルイージ | 全7作品(2003〜2018) |
| その他 | 各種マリオ変身形態、ドンキーコングなど | ワリオランド、ヨッシーアイランドDS、マリオ&ソニックAT東京 |
ステレオタイプを排した「優しさ」の戦略
当時、「イタリア人の配管工」という設定に対して一般的に求められていたのは、荒々しく、どこか威圧的なトーンでした。しかし、マーティネー氏はそのステレオタイプをあえて否定する道を選びます。
「マフィアのような、粗暴で子どもが怖がるようなイタリア人にはしたくなかったのです」
彼が拠り所としたのは、「コメディの原則は、常に親切であること」という自身の哲学でした。ターゲット層に子どもが含まれるかもわからない中で、彼は直感的に「もっと陽気で、楽しく、明るいキャラクター」を演じることを決めたのです。
ビデオゲームの知識がなかった彼は、即興でパスタやピザの話を楽しげに語り続けました。意識したのは、楽観的で愛情深く、敬意にあふれた人物像。その姿を心に描き、録音を重ねる中で、マリオというキャラクター像を少しずつ確立していきました。
「マリオの本質は、プレイヤーにポジティブな影響を与えることにあります」
この直感は見事に的中します。1996年の「スーパーマリオ64」で本格的に声が吹き込まれて以降、日本版を含む世界中のプレイヤーに向けて、「スーパーマリオ64」以降の100作品超にわたり、彼の「Wahoo!(ワフー!)」や「Let’s-a go!(レッツ・ア・ゴー!)」といったセリフは、単なる音声表現を超え、任天堂が掲げる「楽しさ」と「安心感」を象徴する存在となりました。
もし彼がステレオタイプ通りの「荒っぽい配管工」を演じていたなら、マリオがこれほど世界中の家族に受け入れられ、任天堂の理念である「笑顔を届ける娯楽」の象徴になれたかはわかりません。マーティネー氏の選択は、キャラクターづくりにおける「トーン&マナー」の重要性を改めて示しているのです。
マリオに込めた「ヒーロー」としての哲学
マーティネー氏は、マリオというキャラクターに独自の哲学的視点を持っています。
「マリオはヒーローですが、それは私たち一人ひとりの中にもある姿なのです」と彼は語ります。
「人は誰もが無垢な状態で人生を始め、さまざまな困難や課題に直面しながら、歩む過程で新しい知恵や強さを身につけていきます。そしてある時、自分こそが自分の物語のヒーローであることに気づく。それが、私がマリオを通じて常に感じてきたことです」
こうした視点こそ、マリオが単なるゲームの登場人物を超え、プレイヤー自身の成長と重なる「人生の伴走者」として、世代を越えて愛され続ける理由なのかもしれません。
世代をつなぐ「共通言語」としてのマリオ
マリオ・アンバサダーとして世界各地を巡る中で、マーティネー氏はマリオという存在が持つ「絆の力」を実感しているといいます。
「かつて親や祖父母と一緒にマリオで遊んでいた子どもたちが、今は自分の子どもと一緒にプレイしている。そんな話を聞くたびに、言葉にできない喜びを感じます」
マリオは今や、世代を超えて共有される「共通言語」となりました。その象徴が、2023年公開の映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』へのカメオ出演です。マリオとルイージの父親を演じた彼が放った「That’s my boys!(さすが俺の息子たちだ!)」というセリフは、長年マリオを支えてきた彼から、新しい時代へと受け継がれる「祝福の言葉」としてファンの心に響きました。
結論:喜びを創造するということ
70歳を迎えた今も「気持ちは25歳」と笑顔を見せるマーティネー氏。そのキャリアは、単なる声の出演という枠を超え、世界に「Joy(喜び)」を届けるという使命に貫かれてきました。
「感謝の気持ちを宇宙に発信すれば、それはエネルギーとなり、さらなる喜びとなって返ってくる」
任天堂を知らなかった一人の俳優が、直感と優しさで作り上げた「声」。それは、ビデオゲームが技術の進歩だけでなく、人間の温かさや感情のつながりによって発展してきたことを教えてくれます。
マリオの声優というバトンは渡されましたが、マーティネー氏が吹き込んだ「楽観的で優しい魂」は、これからも任天堂作品のDNAとして息づき続けるでしょう。
情報元:GamingBible

