
Housemarqueの最新作「Saros」。前作「Returnal」から進化した「盾」による攻撃的な戦闘システムや、象徴的な「手」のモチーフに込められた意味を開発陣が解説。イタリア未来派を取り入れた独創的な世界観や、主人公アルジュンの物語とシステムがいかに融合しているか。美術と設計が高度に統合された本作の魅力とは?
「Returnal」を継承する新機軸SF
2021年に発売され、アーケードスタイルの爽快感と重厚なSFストーリーを融合させて高い評価を得た「Returnal(リターナル)」。その開発スタジオであるHousemarque(ハウスマーク)が放つ最新作が、PlayStation®5専用ソフト「Saros(サロス)」です。本作は前作の設計を土台としつつ、視覚表現とゲームプレイの両面で明確な進化を遂げています。
クリエイティブ・ディレクターのグレゴリー・ルードン氏は、本作を「『Returnal』の直接的な続編ではなく、その経験と教訓を活かした進化形である」と位置づけています。100名を超えるクリエイターが共通のビジョンのもとに結集し、美術・物語・設計の三要素が高度に統合された、新たなゲーム体験の提示を目指しました。
「手」の意匠が象徴するもの
本作の舞台である神秘的な惑星「カルコサ」を探索するプレイヤーは、随所に配置された「手」のモチーフに目を奪われることでしょう。アートディレクターのシモーネ・シルヴェストリ氏は、当初からこれほど多くの「手」を登場させる計画ではなかったと明かしています。しかし、制作チームとの対話を重ねるなかで、本作の核心的なテーマである「強欲(グリード)」を象徴するモチーフとして、これ以上適したものはないと確信するに至りました。
シルヴェストリ氏によれば、本作のテーマは「力を求めて手を伸ばすこと、そして決して得られないものへの底なしの渇望」にあります。カルコサの石造建築に刻まれた彫刻の多くは、整然とした構図から始まりながら次第に形を失い、最終的には無数の手が空へ向かって無秩序に伸びる様子を描いています。

これは、かつての文明が追い求めた「歪んだ啓蒙」の結末を視覚化したものです。「日食を受け入れることで啓蒙を得ようとした先住民たちは、自らの肉体を犠牲にしながら変容を遂げましたが、その結果生まれたのは賢者ではなく怪物であった」とシルヴェストリ氏は語り、美術設定が物語の背景を深く補完していることを示しています。
イタリア未来派が描く「暴力的な美」
本作の世界観を構築するにあたり、アートチームは従来のSFの枠組みにとらわれない独自の参照点を採用しました。当初は礼拝建築のモデルとして「新古典主義」が検討されましたが、その様式は穏やかで調和的すぎたため、カルコサの主題である「暴力的な美」を表現するには不十分であると判断されました。
そこで開発陣は、速度や力強さを肯定する前衛芸術「イタリア未来派」の建築家アントニオ・サント・エリア(Antonio Sant’Elia)やフォルトゥナート・デペーロらの作品に着目。さらに、空想的で厳格な巨大建築を提唱したフランスの建築家エティエンヌ=ルイ・ブーレ(Étienne-Louis Boullée)の概念を融合させました。ここにアイスランドの景観が持つ荒涼とした質感を加えることで、垂直性を強調した鋭利なラインを持つ独自の建築言語が確立されたのです。
この視覚的な鋭さは、単なる装飾ではなくゲームプレイにも直結しています。シルヴェストリ氏は、「プレイヤーが高速で移動する際、垂直に伸びるラインの間を駆け抜けることが、視覚的な心地よさと爽快感を生んでいる」と述べています。
回避から攻撃へ「盾」が導く弾幕バレエ
アソシエイト・デザイン・ディレクターのマッティ・ハクリ氏は、前作「Returnal」を「回避主体の障害物競走のようなゲームだった」と振り返ります。前作では敵の弾丸を避けるために後退を余儀なくされる場面が多く見られましたが、本作では新システム「盾(シールド)」の導入により、戦闘の性質が根本から変化しました。
ハクリ氏は、この変更によって「戦闘のダイナミクスが一変し、障害物競走がプレイグラウンド(遊び場)へと進化した感覚がある」と述べています。プレイヤーは盾を用いて敵の攻撃を吸収・無効化し、自ら隙を作り出して突破口を切り拓くことが可能です。
具体的には、弾幕の間を縫ってダッシュし、青いエネルギー弾を盾で吸収、さらに赤い弾を敵に跳ね返すといった一連のアクションが展開されます。Housemarqueはこの流麗な戦闘を「弾幕バレエ」と提唱。ハクリ氏は「本作を単なるシューターではなくリズムゲームとして捉えたとき、体験は一変する。リズムを掴むことこそが、本作を習熟する上での本質である」と付け加えています。

主人公が体現する「攻め」の物語
攻撃的なゲーム設計は、主人公アルジュン・デヴラジ(演:ラフール・コーリー)のキャラクター造形とも密接に連動しています。前作の主人公セレーネがトラウマを抱えながら脱出を試みる「科学者」だったのに対し、今作のアルジュンは、行方不明の調査隊を捜索するためにカルコサへと派遣された「兵士」です。
ルードン氏は、両者の動機の違いを「セレーネが脱出を目指していたのに対し、アルジュンはある目的地を見据えて突き進んでいる」と説明しています。この性質の違いが、敵の攻撃を恐れず突き進む「パワーファンタジー」としてのゲーム性に説得力を与えています。アルジュンが障害物を殴り倒しながら進むアクションも、彼の兵士としての流儀を反映したものであり、メカニクスとキャラクター性が意図的に統一されています。

アートと設計が結実する「Saros」
「Saros」は、ロバート・W・チェンバースの怪奇小説集「黄衣の王」(1895年)から着想を得つつ、独自の宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)を描き出した作品です。前作で培われた堅牢なゲーム構造を継承しながら、美術的ビジョン、物語、刷新された戦闘システムが高い次元で統合されています。
「美術・物語・設計という三つの規律が同一の目的を共有していることこそ、優れたゲームの証である」というシルヴェストリ氏の言葉は、本作の制作哲学を端的に象徴しています。プレイヤーは失われた都市カルコサで、自らの手で何を掴み取ることになるのか。その答えは、ぜひ実際のプレイでお確かめください。
本作はPlayStation®5専用ソフトとして、2026年4月30日より好評発売中です。
情報元・画像:Housemarque公式サイト・Gamesradar・Polygon

