
セガが海外で展開したレトロゲーム事業「Sega Forever」の中心人物、ダニー・ラッセル氏が退社を正式発表。日本未展開ながら「ゲームのNetflix」を目指した同事業は2023年9月に終了しました。ファンとの絆を築き、ゲーム保存にも尽力した彼の功績と、突然のプロジェクト終了の背景に何があったのか。セガのIP戦略の行方を探ります。
「Sega Forever」立役者退社とセガの転機
2025年10月、セガが主に海外市場で展開していた公式レトロゲームブランド「Sega Forever」を立ち上げた中心人物、ダニー・ラッセル氏が、自身のLinkedInで昨年(2024年)セガを退社していた事実を公表しました。
2023年8月21日を最後にSNS更新が停止し、同年9月に静かに終了したこのプロジェクト。そのキーパーソンの離脱は、セガが誇る豊かなゲーム遺産の活用戦略と、業界におけるゲーム保存の取り組みに改めて大きな問いを投げかけています。
海外発の〝ゲームのNetflix〟構想
2017年6月、iOSおよびAndroid向けに海外で開始された「Sega Forever」は、単なる過去作の移植プロジェクトではありませんでした。日本では正式展開されませんでしたが、海外市場では広告付きの無料プレイを基本とし、買い切りによって広告を非表示にできるビジネスモデルを採用。メガドライブのタイトルから始まり、将来的にはドリームキャストやアーケードの名作まで網羅する構想を掲げていました。その最終目標は、セガの膨大なライブラリにいつでもアクセスできる〝ゲームのNetflix〟のようなサービスの構築でした。
さらに各タイトルのプレイデータを分析し、どのフランチャイズに復活需要があるかを見極める戦略的な側面も持っていました。任天堂がモバイルアプリによってコンソールゲームへの注目を集めるように、セガもモバイルプラットフォームを通じて自社タイトルへの関心を促し、将来的な開発判断の指標としてデータを活用していたのです。
2018年3月時点で累計4,000万回以上のダウンロードを記録したと発表されるなど、この取り組みはモバイルにおけるレガシーIP活用モデルとして海外で注目を集めました。
ゲーム保存を体現した功労者とファンの絆
この野心的なプロジェクトを立ち上げたのが、ダニー・ラッセル氏です。彼の功績は、単にゲームを配信するだけにとどまりません。
ラッセル氏は「Sonic Dash」や「SEGA Heroes」などモバイルタイトルでのグローバルコミュニティ運営からキャリアをスタートし、最も誇らしい成果として「Sega Forever」というブランドとソーシャルチャンネルをゼロから構築・運営したことを挙げています。
声明の中でラッセル氏は「ファン主導のコンテンツ、回顧録、そしてライアン・ラングレー氏と共同で構築したデジタルアーカイブから発掘した貴重な資産を通じて、セガの豊かな歴史を称えた」と語りました。
彼の指揮のもと、「Sega Forever」は未公開のアートワークや開発資料を共有する場となり、海外ファンとの対話を重視する公式コミュニティを形成。世界中のファンにとって信頼性あるレトロ情報の発信源となり、ゲームという文化遺産を保存・継承する「デジタルアーカイブ化」の理念を体現しました。

また、ラッセル氏は「Super Monkey Ball Banana Mania」の復活にも関与し、アーティストやスピードランナー、長年のファンとの協力を通じて、シリーズの魅力や価値を再び世界に発信しました。
さらに、セガでの最後のプロジェクトの一つとして、ロンドンのSEGAWORLDに設置されていた巨大なソニック像を回収・修復し、現在はセガ・ヨーロッパ(SEGA Europe)の受付に常設展示されています。この像はgamescomやEGXといったイベントにも登場し、彼の情熱を象徴する成果とされています。
突然のサービス終了、その裏にあったもの
しかし、2023年8月21日を最後に「Sega Forever」のSNS更新は突如停止し、9月にはサービス自体も終了しました。関連アプリはストアから非公開となり、約6万人のフォロワーを持つ公式X(旧Twitter)アカウントも沈黙を続けています。その裏では、プロジェクトを率いたラッセル氏の退社という変化が進行していました。
海外メディアTime Extensionの報道によれば、ラッセル氏はSNS停止直後の2023年9月、現在は削除された自身の投稿で、職場環境における困難や支援が得られない状況を示唆していたとされています。その投稿は深刻な問題に直面しながらも助けが得られず苦悩を吐露する内容だったと伝えられており、退社が必ずしも円満なものではなかった可能性が指摘されています。ただし、この投稿は既に削除されており、内容の真偽についてセガからの公式コメントは発表されていません。
キーパーソンを失ったIP戦略の行方
ラッセル氏は退社の声明で、「ゴールデンアックス」「ストリート・オブ・レイジ(ベアナックル)」「クレイジータクシー」「ジェットセットラジオ」「バーチャファイター」など、自身が舞台裏で復活を支援してきたレガシーIPが再び脚光を浴びることへの期待をにじませました。実際に「忍 SHINOBI」の復活を喜びながら、他のIPにも同様の機会が訪れることを願っていると述べています。セガも近年、過去のIPを活用する取り組みを強化し、大型タイトルのリブート計画などを相次いで発表しています。
なお、Time Extensionはセガが「Sega Forever」の復活を検討していると伝えていますが、同プロジェクトが掲げていた〝ゲーム保存〟の理念が維持されるかは不透明です。商業的なリメイクやリマスターと、「Sega Forever」が目指した体系的なアーカイブ化・保存の取り組みは、その性質が異なるためです。
日本では未展開ながら、海外で先進的な取り組みとして注目されたこのプロジェクトを率いたキーパーソンを失った今、セガが自社の膨大な知的財産を今後どのように継承・発信していくのか。ゲーム業界は、セガの次の一手を注視しています。
情報元:TimeExtension


