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スクエニ、欧米で大規模人員削減 ─ 2027年までにQA業務70%をAI化へ

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スクウェア・エニックスが欧米拠点で大規模な人員削減を発表。年間30億円以上のコスト削減を目指す組織再編の一環で、開発体制の日本集約を進めます。同時に、2027年末までにQA業務70%を生成AIで自動化する計画も明らかに。構造改革の背景と今後の戦略について解説します。

欧米拠点で大規模な人員削減を実施

株式会社スクウェア・エニックスは、米国および欧州のパブリッシング部門で大規模な人員削減を含む組織再構築を実施することを発表しました。これは、同社の中期経営計画「Square Enix Reboots and Awakens」(2025年3月期~2027年3月期を対象)に基づく施策で、より効率的で俊敏な事業体制の構築を目指すものです。

複数の海外メディアの報道によると、今回の人員削減は、IT、マーケティング、パブリッシング、販売、品質保証(QA)、事業計画など、西側事業のほぼ全ての部門に及びます。桐生隆司社長は木曜日に実施された社内会議で「海外パブリッシング組織の抜本的な構造改革」を実施すると説明しました。この再編により、同社は年間30億円以上のコスト削減を見込んでいます。

英国・ロンドンのオフィスだけでも約140人近くの従業員が解雇リスクの対象となっていると報じられており、その影響の大きさがうかがえます。英国の雇用法に基づき、実際の解雇が確定する前には協議期間が設けられます。一方、米国の対象従業員には週末までに解雇が通知される予定です。

これが欧米拠点での2年連続の人員削減となる点も注目されます。社内会議で桐生社長は、昨年の海外組織再編が期待した成果を上げられなかったことを認めたと報じられており、同社が直面する海外事業の課題の深刻さを示しています。

スクウェア・エニックスは公式声明で、「当社のリーダーシップによる慎重な検討と分析を経て下された極めて困難な決断であり、グループの長期的成長を最適な形で位置づけるためのものです」と述べています。

開発機能の日本集約と組織のスリム化

今回の組織再編では、開発機能の日本への集約も重要な柱となっています。同社は、「グループ全体の視点から開発能力を強化し、IPが生み出す価値を最大化するためのリソース配分を最適化する」ことを目的に、海外開発スタジオを閉鎖し、開発機能を日本に統合する方針を決定しました。この方針は、同社が近年、「ヒットマン」シリーズ開発元のIO Interactiveの独立を認め、「トゥームレイダー」シリーズなどを手掛けたスタジオ群をEmbracer Groupに売却してきた流れを加速させるものです。

組織構造についても大規模な見直しが行われます。同社は、「過度に階層化され分断された組織構造」の改革として、グローバルパブリッシング部門を11部署から4つの中核部門へ統合・合理化する計画です。

QA業務の70%をAI化、2027年を目標に推進

人員削減発表と同時期に、ゲーム開発プロセスにおける人工知能(AI)の活用を大幅に推進する計画も公表されました。

特に注目されるのは、品質保証(QA)およびデバッグ業務に関する計画です。スクウェア・エニックスは、東京大学の松尾・岩澤研究室と共同研究チームを発足させ、2027年末までにQA業務の70%を生成AIで自動化することを目指しています。この共同研究チームには、東京大学の研究者とスクウェア・エニックスのエンジニア10名以上が参加し、AIテクノロジーを通じてゲーム開発プロセスの効率向上を目的としています。

この取り組みは、開発プロセスの効率を向上させるための「基盤安定性の追加的創出」の一環と位置づけられています。ただし、ゲーム開発におけるテスト自動化ツールはすでに存在するものの、約2年という期間でQA作業の70%を生成AIで代替しようとする試みは、業界で議論の対象となっています。

※QA(Quality Assurance:品質保証)とは: ゲーム開発において製品の品質をテストし、バグや不具合を発見・修正するプロセスを指します。

この方針は、QA担当者の将来的な雇用に対する懸念を生じさせる一方、AIによるテストの品質が人間のテスターのレベルに達するのかという課題も浮上しています。他社の事例として、Electronic Arts(EA)が開発ツールにAIを導入した際、コーディングの問題やAIの「幻覚」現象により修正作業が発生したことが報告されています。スクウェア・エニックスが、こうした既知の課題をどのように克服していくのかが注目されます。

マルチプラットフォーム戦略は継続・強化

一方で、スクウェア・エニックスは開発体制を日本に集約するものの、より多くのゲームを同時に複数のプラットフォームで提供する「マルチプラットフォーム戦略」は継続・強化する方針です。かつてPlayStationでの時限独占が多かった「ファイナルファンタジー」シリーズなども、今後はXboxやNintendo Switchを含む幅広いプラットフォームでの展開が予定されています。

実際に、「ファイナルファンタジー16」のXbox Series X|S版は2025年6月9日に発売されており、Xbox Play Anywhereに対応してプレイヤーはXbox版を購入すればコンソールとWindows PCの両方でプレイできるようになっています。

さらに、「ファイナルファンタジーVII リメイク インターグレード」は2026年1月22日にNintendo Switch 2、Xbox Series X|S、Windows版の発売が決定しています。続編の「ファイナルファンタジーVII リバース」も将来的に両プラットフォームに展開され、リメイク三部作の最終作もマルチプラットフォームタイトルとなることが確認されています。

今後の展望と課題

今回の組織再編とAI導入は、スクウェア・エニックスが今後の成長に向けて踏み出した重要な施策です。コスト削減と開発効率の向上という明確な目標を掲げる一方で、従業員削減、AI移行による品質管理の課題、そして地域の多様性喪失リスクなど、乗り越えるべき課題も山積しています。昨年の改革が期待した成果を上げられなかったという事実は、今回の包括的かつ効果的な実行の必要性を示しています。

この改革が、同社のゲームの質と企業価値をどのように向上させるのか、そして人間の創造性とAI技術がどのように共存していくのか、ゲーム業界全体がその動向を注視しています。

情報元:VGC

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