
欧州市場データが示す「CoD: Black Ops 7」の苦境──初週販売数は前作比50%減、競合「Battlefield 6」比63%減と記録的な落ち込みを見せています。Game Passの影響だけではないブランド力の低下、品質への不信、そして沈黙を守るActivision。複数の要因が重なり合った「負の連鎖」を分析します。
欧州のゲーム市場における最新の販売データは、FPSジャンルの絶対王者「Call of Duty」シリーズが、発売からわずか数週間で危機的状況に陥っていることを示しています。
業界メディア「The Game Business」が公開したGSD(Games Sales Data)のレポートによると、シリーズ最新作「Call of Duty: Black Ops 7」の欧州における発売初週の販売本数は、2024年発売の前作「Black Ops 6」と比較して50%以上も減少しました。さらに衝撃的なのは、同作の発売初週実績が、2025年10月に発売されたEAの競合タイトル「Battlefield 6」の初週実績を63%も下回っているという事実です。
Game Passは「主犯」ではなく「言い訳」に過ぎない
この歴史的な販売減少の要因として、真っ先に挙げられるのがサブスクリプションサービスの影響です。「Black Ops 7」は発売初日からXbox Game Pass UltimateおよびPC Game Passのライブラリに含まれており、これらのダウンロード数がGSDの販売データに含まれないことは事実です。
しかし、前作「Black Ops 6」も同様に「Day One」でGame Passに含まれていました。同条件であるにもかかわらず、前年比(YoY)で半減という数字は、単なるサービスの普及だけでは説明がつきません。これは、Game Pass会員ですら本作のプレイを避けているか、あるいはそもそもフランチャイズに関心を持つ総人口自体が減少している可能性を示唆しています。Game Passの影響は存在するものの、それは50%減という数字を正当化する主たる理由にはなり得ません。
「品質への不信」と「強力な競合」による負の連鎖
今回の不振の核心は、作品の品質低下と強力な競合の台頭が同時に発生した「負の連鎖(パーフェクトストーム)」にあると分析されます。
まず、作品自体の求心力低下です。「Black Ops 7」はMetacriticでのメディア評価が69点と、AAA級タイトルとしては低調なスタートとなりました。特にキャンペーンモードの大胆すぎる非現実的な展開や、生成AIをゲーム内アートに活用したとの疑惑がファンの不信感を招いています。前作「Black Ops 6」が発売後のプレイヤー維持率(リテンション)で苦戦した経緯もあり、ファンベースには既に「疲れ」や「警戒感」が蔓延していました。
そこに追い打ちをかけたのが、競合環境の激化です。今年はEAの「Battlefield 6」が過去数年で最高の評価を得ているほか、Nexonの新作FPS「Arc Raiders」が市場を席巻しています。市場調査会社Ampere Analysisのデータによれば、2025年9月に「Call of Duty」をプレイしていたユーザーの25%以上が、翌月には「Battlefield 6」を購入しており、明確なブランドスイッチ(乗り換え)が発生しています。「CoDが期待外れで、競合が魅力的」という状況が、ファンの流出を決定的なものにしました。
「記録更新」発表なし、異例の沈黙
Activisionの広報戦略の変化は、こうした事態を裏付けています。例年、新作発売時には「史上最高の初動売上」「記録更新」といった華々しいプレスリリースが恒例でしたが、2025年の「Black Ops 7」に関しては具体的な数値の公表が控えられ、「素晴らしい反響があった」という定型的なコメントにとどまっています。
2023年にMicrosoftが690億ドルでActivision Blizzardを買収し、「Call of Duty」を自社エコシステムの中核と位置付けてから2年。元CoDディレクターのGlen Schofield氏が指摘した「マイクロソフトの企業文化と開発チームの長期的な適合性」への懸念が、開発現場の混乱や製品クオリティの低下として露呈し始めているのかもしれません。
欧州市場トップ10と今後の展望
なお、欧州市場全体が停滞しているわけではありません。2025年11月第3週に発売されたUbisoftのストラテジーゲーム「Anno 117: Pax Romana」は、2019年の傑作「Anno 1800」と比べ初動で約2.5倍の販売数を達成。高品質なコンテンツへの需要が依然として根強いことを証明しています。
GSDによる2025年11月16日週の欧州主要国の販売数トップ10(物理+デジタル合算)は以下の通りです。
| 1. | Call of Duty: Black Ops 7 | Activision |
| 2. | Anno 117: Pax Romana | Ubisoft |
| 3. | EA Sports FC 26 | EA |
| 4. | Battlefield 6 | EA |
| 5. | Pokémon Legends: Z-A | Nintendo |
| 6. | Grand Theft Auto 5 | Rockstar |
| 7. | Hogwarts Legacy | Warner Bros |
| 8. | Ghost of Yotei | Sony |
| 9. | Red Dead Redemption 2 | Rockstar |
| 10. | Kingdom Come: Deliverance 2 | Deep Silver |
「Black Ops 7」はかろうじて首位を維持したものの、その内実は深刻です。毎年のリリースによる「フランチャイズ疲れ」、品質への不信、そして強力な競合への流出。これら複合的な課題に対し、MicrosoftとActivisionがどのようなテコ入れを行うのか、業界の注目が集まっています。


