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「ウィッチャー」新3部作の「6年完結」は実現可能か? CDPRの勝算とリスクを分析

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CD Projekt Redは、ウィッチャー新3部作を第1作発売から6年以内に完結させる計画を再確認しました。Unreal Engine 5への移行と並行開発体制が鍵となる一方、過去の度重なる延期や現代のAAA開発の複雑さを踏まえ、この野心的なロードマップの実現可能性と課題を検証します。

現代のAAAゲーム開発において、大規模なオープンワールドRPGを3年未満の間隔で連続リリースすることは「至難の業」とされています。しかし、ポーランドのCD Projekt Red(以下、CDPR)は、まさにその難題に挑もうとしています。

2025年12月初旬に行われた2025年第3四半期(7-9月期)決算説明会にて、CDPR経営陣は主力IP「ウィッチャー」の新たな3部作(コードネーム:Polarisなど)を、第1作目の発売から6年以内に完結させる計画を改めて表明しました。第1作「The Witcher 4」の発売時期は未定(2027年以降が濃厚)ですが、計画通りに進めば、2033年頃までに3本の超大作が市場へ投入されることになります。

開発の長期化が進む業界内では、このスケジュールに対し懐疑的な見方も少なくありません。本稿では、決算資料と経営陣の発言を基に、この「6年完結計画」の勝算とリスクを客観的に分析します。

「6年完結」を支える論理

CDPRがこの高速なリリースサイクルを実現可能だと考える最大の根拠は、技術基盤の刷新です。同社は長年使用してきた自社製エンジン「REDengine」から、Epic Gamesの「Unreal Engine 5(UE5)」へ移行しました。

共同CEOのミハウ・ノヴァコフスキ氏は投資家に対し、「UE5への移行が開発期間の短縮に寄与する」と説明しています。第1作(Witcher 4)の開発でシステム、アセット、ワールド構築のパイプラインを確立すれば、続く第2作、第3作はその土台の上で効率的に開発できるという算段です。

「第1作目には時間を要するが、基盤ができれば以降の移行はスムーズになる」とノヴァコフスキ氏は述べています。これはBioWareが「Mass Effect」3部作を約5年間で完結させた事例に近く、技術的な連続性を保つことで「車輪の再発明」を防ぐ戦略です。

開発チームは既に約4年間にわたりUE5を使用しています(決算説明会での「約5年」発言は、後にIR部門が「約4年」と訂正)。技術デモ等を通じて習熟度には自信を深めており、エンジンのメンテナンスという負担から解放され、コンテンツ制作に集中できる環境は、開発加速の大きな要因となり得ます。

並行開発体制と財務的な裏付け

計画の実現性を支えるもう一つの柱は、組織構造の変革と強固な財務基盤です。CDPRは現在、北米(ボストン、バンクーバー)とポーランド(ワルシャワ)の3拠点で、複数のAAAタイトルを並行開発する体制を敷いています。

決算資料によると、ボストン拠点では「サイバーパンク」次回作(コードネーム:Orion)を開発中であり、チームは80名超、その9割以上がシニア級の人材です。今後2年で同拠点を倍増させ、将来的には北米とワルシャワの人員比率を同程度にする戦略を掲げています。一方、ワルシャワでは「ウィッチャー4」が本格的な生産フェーズにあります。リソースを明確に分けることで、1つのプロジェクト遅延が全体へ波及するリスクを低減しています。

また、2025年第3四半期決算は、売上高が前年同期比53%増、純利益は前年の約2.5倍(1億9,300万ズロチ)と好調を記録しました。発売5周年を控えた「サイバーパンク2077」は累計3,500万本を突破。特に「Nintendo Switch 2」向けの物理版販売が好調で、この潤沢なキャッシュフローが、並行開発のための人件費や設備投資を支えています。

設備面では、ワルシャワキャンパスに2つのステージを備えた新パフォーマンスキャプチャースタジオを建設中です。2プロジェクトの並行作業を効率化するこの投資は、CDPRが「6年完結」を本気で実現しようとしている証左と言えます。

過去の遅延と開発規模の拡大

しかし、計画がいかに緻密でも、過去の実績と現代の開発事情を鑑みると懸念は残ります。

CDPRには「延期の歴史」があります。「ウィッチャー3」は3度、「サイバーパンク2077」は4度の延期を経てリリースされました。リリース間隔も拡大傾向にあり、前作から「サイバーパンク」までは5年、「ウィッチャー4」(2027年想定)までは最低7年の空白が空きます。

拡大傾向にあるサイクルを「3年」へ短縮できるかは未知数です。現代のオープンワールドゲームは複雑化の一途を辿っており、単にエンジンを変えるだけで期間半減と品質維持を両立できるかは不透明です。

また、「ウィッチャー4」の発売日が未定(2026年発売は否定済み)なのも不確実要素です。仮に2027年発売でも、そこから3年刻みのリリースには一切のトラブルが許されません。ノヴァコフスキ氏は「順調」としつつも、具体的な時期への言及は避けています。

技術移行に伴う未知のリスク

最大の挑戦の一つは、数十年ぶりとなる外部エンジンへの移行です。CDPRは「The Witcher 1」以降、長らく自社エンジンを使用してきました。

ノヴァコフスキ氏はUE5の成果に満足を示していますが、CDPR特有の巨大で複雑なオープンワールドへの最適化は現在進行形であり、第1作目で予期せぬ技術的障壁が生じない保証はありません。

さらに、「ウィッチャー1」リメイクを担当するFool’s Theoryについて、現在100名以上の規模を持つ同スタジオの大半が、本来のプロジェクトではなく「ウィッチャー4」のサポートに回っていることが判明しました。このリソース配分の変更は、「ウィッチャー4」のUE5移行に想定以上の人的リソースが割かれている可能性を示唆しています。

市場環境と競合の動向

CDPRの計画は、業界全体の動向とも乖離しています。近年、主要スタジオの開発サイクルは長期化しており、短期間での3部作完結は過去15年間ほぼ例がありません。BethesdaやRockstarなどの大手も、主力作の間隔は5年以上空くのが現状です。

これには技術的複雑さや品質要求の高まり、チーム肥大化による管理難易度の上昇といった背景があります。トレンドに逆行するこの計画の実現には、技術的利点だけでなく、組織マネジメントの革新も不可欠でしょう。

結集するRPG開発のベテランたち

この困難なミッションを遂行する上で、CDPRは積極的な人材補強によって開発力の底上げを図っています。

最新の動向として、世界的な成功を収めたRPG「バルダーズ・ゲート3」の開発元であるLarian Studiosから、シニア開発者のFelix Pedulla氏がCDPRに移籍したことが判明しました。Pedulla氏はLarianで6年間にわたりシネマティック制作に従事した実績を持ち、CDPRでは新たなシニアシネマティックデザイナーとして、「ダイスをポーランドの鋼に持ち替えて」制作に取り組むと意気込みを語っています。これは事実上、次回作である「The Witcher 4」への参加を示唆するものです。

先月にも「キングダムカム・デリバランス2」の主要開発スタッフがCDPRへ合流したことが確認されており、業界屈指のRPG開発経験を持つベテランたちが、Polarisプロジェクトに続々と集結しています。技術的な基盤であるUE5に加え、それを使いこなす熟練したクリエイターの融合が進んでいることは、プロジェクトの品質と進行速度を担保する上で重要な好材料と言えるでしょう。

結論:技術への賭けと実行力が試される

CDPRの計画は、UE5による生産性向上と基盤流用を前提とした論理的なものです。3拠点体制や設備投資、潤沢な財務基盤、そして世界中から集まるトップクリエイターの存在もそれを後押しします。

しかし、開発が計画通り進むことは稀です。新エンジンでの予期せぬトラブルや、業界全体の長期化トレンドを考慮すれば、慎重な見方も正当性があります。

全ては試金石となる「ウィッチャー4」の完成度と、そこで構築されるパイプラインの効率にかかっています。これを成し遂げれば、CDPRは開発力において真の復活を遂げたと言えるでしょう。業界とファンは、期待と不安が入り混じる中で、次の正式発表を注視しています。

情報元:Eurogamer

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