
全セガハード互換を謳った「SuperSega(スーパーセガ)」プロジェクトが、ついに開発終了を宣言。開発者アレハンドロ・マルティン氏を巡る詐欺疑惑、技術的矛盾、セガからの法的措置、そして奇妙なインタビューの全貌を詳報。レトロゲーム業界を揺るがせたスキャンダルの結末、そして我々が学ぶべき教訓とは何か?
レトロゲームコミュニティを長らく騒がせてきた「SuperSega(スーパーセガ)」プロジェクトが、ついに終焉を迎えました。
2025年12月12日、開発者のアレハンドロ・マルティン氏は数ヶ月の沈黙を破り、関係メディアへメールを送付。その中で「これが終わりだ。数週間、数ヶ月を経て、SuperSegaは正式に死んだ(THIS IS THE END, after weeks, and months, supersega is officially death)」(原文ママ)と述べ、プロジェクトの完全な終了を宣言しました。
夢の技術と高まる期待
すべての始まりは2024年6月。スペインのコンピュータエンジニア、アレハンドロ・マルティン氏が「全セガハード互換機」の開発を発表したことでした。マスターシステムからメガドライブ、サターン、ドリームキャストまで、すべてのセガ製家庭用ソフトが動作するという壮大な構想です。
当初注目されたのは、再現方法として「FPGA(Field-Programmable Gate Array)」技術を用いるという点でした。FPGAは製造後に回路構成を書き換え可能な集積回路であり、ソフトウェアによるエミュレーションではなく、実際のハードウェア構造を電気的に再現できるとされています。マルティン氏は、高性能な「Virtex Ultrascale+ FPGA」チップの採用により技術的課題を克服したと主張し、極めて高い互換性と低遅延を実現できると訴えました。
「Analogue Pocket」や「MiSTer FPGA」といったデバイスが成功していたこともあり、「SuperSega」は多くのファンにとって夢のような存在に見えました。しかし、技術関係者の間では当初から懐疑的な意見もあがっていました。特に、ドリームキャストのような高性能ハードを単一FPGA上で再現するのは現実的ではないと専門家は指摘していました。
また、2024年10月の時点でマルティン氏は「商標権に関してセガと問題はない」と述べていましたが、後にこれも事実と異なることが判明します。
浮上した疑惑と技術的矛盾
時間の経過とともに、プロジェクトの不透明な実態が明るみに出ました。
最初の警戒信号となったのは、マルティン氏の過去の経歴です。彼は以前、映像機器ブランド「Cinimartin」で8Kビデオカメラのクラウドファンディングを行ったものの、製品を出荷せず倒産していました。この経緯から、「SuperSega」も同様に実現性のない“ベイパーウェア(幻の製品)”ではないかと懸念する声が高まりました。
さらに信頼を揺るがせたのが、公開されたプロトタイプのデモ動画です。不自然な編集(ジャンプカット)が多く、ゲームが実際に動作している証拠としては説得力に欠けていました。公開映像を専門家が解析したところ、FPGAチップとされる部分は巨大なヒートシンクに隠され、HDMIドライバやメモリなどの主要部品も見当たらず、機能するハードウェアとは考えにくい構成だったといいます。
一部からは「映像はオフカメラのPC上で動作するエミュレーターではないか」とする指摘も相次ぎました。マルティン氏は新たな動画を公開して疑念の払拭を試みましたが、多くのレトロゲーマーの不信を晴らすことはできませんでした。
2024年11月には、かつてのブランド「Cinimartin」のロゴ入りTシャツを着たマルティン氏が、自身のランボルギーニ・ガヤルドから降り立つ映像を投稿し、「予約金の支援を続けてほしい」と訴えました。この奇抜なパフォーマンスは逆に、プロジェクト破綻の疑惑を強める結果となりました。
不正請求と資金管理の混乱
支援者にとって、さらに衝撃的な展開が続きました。
予約金として3ユーロ(約470円)を支払っていた200〜300人規模の支援者に対し、製品代金ほぼ全額にあたる約420ユーロ(約6万6千円)が無断で決済されたのです。徴収額は総計でおよそ8万4千ユーロに上ったとされています。
マルティン氏は「『確約(commitment)プラン』に基づく請求であり、スペイン語の利用規約に記載していた」と弁明しましたが、多くの支援者はそのような同意をしていないと反発しました。さらに彼は、製品がまだ完成していないことを認めながらも「動画の品質が低いのは、Analogue社などがアイデアを盗むのを防ぐためだ」と擁護を続けました。
2024年11月末、動作を証明するためのライブデモンストレーションが行われましたが、複数のゲームが起動せず、音声が出ないタイトルも見られるなど結果は芳しくなく、信頼をさらに損ねる結果となりました。
奇妙なインタビューと信用の失墜
疑惑が決定的となったのは、2024年12月に行われた英タレントのイアン・リー氏によるインタビューです。リー氏が「これまでで最も奇妙な対談」と評したこの番組は、プロジェクトの正当性を示す場となるはずでしたが、むしろ混乱を拡大させました。
マルティン氏はインタビュー中、なぜかキッチンでエビとジャガイモのパスタを調理しながら対応しました。リー氏と共同司会のキャサリン・ボイル氏が資金の使途や技術的詳細を追及しても、核心には答えずに終始しました。基板に関しては「チップはファンの下にある」「これは試作段階だ」と説明し、動画の編集については「政治家の演説と同じで編集は必要だ」と開き直りました。
スペイン語が堪能なボイル氏が母語で確認しても内容は変わらず、彼女は「英語でも理解不能だったが、スペイン語でも同じだった」と述べています。こうしたやりとりが公開されたことで、支援者の不信感は決定的となりました。
法的介入と方向転換の失敗
決定的な打撃となったのが、セガからの正式な法的措置です。
マルティン氏は当初「セガとは友好的に協議中」と述べていましたが、実際には2024年12月、セガがスペインの知的財産保護会社を通じて「スーパーセガ」名称の使用停止、プロトタイプ破棄、サイト閉鎖などを求める通知を送付していたことが、Time Extension誌の取材で明らかになりました。
これを受け、マルティン氏はプロジェクトの方針を転換します。高コストで複雑なFPGA方式を諦め、製造コストを抑えたエミュレーションベースの安価版「SuperSega・mini(またはフェニックス、セガドス)」としてアジアの製造パートナーに生産を打診しました。しかし、この最後の望みも絶たれることになります。
最後の報告:製造パートナーからの拒絶
2025年12月12日、マルティン氏はアジアの提携企業から届いたという「製造拒否」の通知内容を公開しました。彼はこれを「頭を殴られたような衝撃」と表現しましたが、パートナー企業が挙げた拒絶理由は極めて具体的かつ致命的な技術的欠陥でした。
1. 光学ドライブの不在
セガサターンやドリームキャストのソフトを動かすためのCDドライブ(光学ドライブ)は既に生産が終了しており、調達が困難であると指摘されました。USB接続のドライブで代用する案もありましたが、データの読み込みに約20分を要するため、「ユーザー体験として許容できない」と判断されました。
2. 違法性の高い代替案の拒否
パートナー企業は、カートリッジスロットの代わりにゲームデータを本体にプリインストール(内蔵)する手法を提案しましたが、マルティン氏は「実物のカートリッジが使えなければ意味がない」としてこれを拒否しました。しかし、正規ライセンスのないゲーム内蔵は明白な違法行為であり、まともな企業が引き受けるはずもありません。
3. 互換性の限界
単一のゲームカートリッジであれば読み込める可能性があるものの、複数のゲームが収録されたコンピレーション・カートリッジには対応できないことが判明しました。また、単一のソフトウェアシステムですべてのカートリッジとの完全な互換性を保証することは不可能であると結論づけられました。
パートナー企業のエンジニアチームは、最終的に「プロジェクトの技術的複雑さが我々の能力を超えている」とし、他社を当たるよう通告しました。マルティン氏自身も、「これまでの騒動を見て、彼らは自社の名前に泥を塗りたくないと考えたのだろう」と分析しています。
「SuperSegaは死にました」
マルティン氏は最後の動画声明で、自身の窮状を赤裸々に語りました。
「借金を返済し、子供の頃からの夢だったこのプロジェクトに資金を充てるため、ランボルギーニさえも売却した」と述べ、私財を投じていたことを強調しました。しかし、製造パートナーに見放された今、大量生産の道は完全に閉ざされました。
彼は「手作業で数台を作る動画を公開するかもしれない」と未練をのぞかせつつも、金型や部品にかかる莫大なコストを理由に、事業としての継続は不可能であることを認めました。そして、支援者や視聴者に向け、「SuperSegaは死にました」という言葉で別れを告げました。
業界への教訓
「SuperSega」騒動は、クラウドファンディングという資金調達モデルの危うさを改めて示しました。
画期的なアイデアや熱意あるプレゼンの裏に、技術的裏付けを欠く計画や見通しの甘さが潜んでいる場合があります。今回の件では、過去の実績や資金の透明性を軽視したことが、支援者と開発者の間の信頼崩壊へとつながりました。
特にハードウェア開発のように難航しやすい分野では、開発者の経歴・実現可能性・法的整合性を冷静に見極めることが重要です。不透明な資金運用や曖昧な説明、知的財産権を軽視する姿勢は、警戒すべきサインといえます。
夢を追うレトロゲームファンにとって、この事件は「都合のよすぎる話には注意せよ」という教訓を残しました。前例のない技術を掲げたプロジェクトほど、第三者の検証や透明な進捗報告が不可欠です。そして支援者自身も、資金を投入する前に開発者の情報を丹念に確認する姿勢が求められます。
情報元:TimeExtension


