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「Expedition 33」AI虚偽申告でIndie Game Awards失格

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「Clair Obscur: Expedition 33」が生成AI利用の虚偽申告によりIndie Game Awardsで失格処分。TGAでの最多受賞の裏で、なぜ本作だけが厳格に処分されたのか。Larian社の事例との比較やAIに潜む盗用リスク、開発の「極意」と「誠実さ」の両立について詳しく解説します。

 2025年12月、ゲーム業界に衝撃が走りました。インディーゲームの優れた功績を称える祭典「Indie Game Awards」において、最高賞の「Game of the Year」および「Debut Game」の二冠に輝いた「Clair Obscur: Expedition 33(以下、Expedition 33)」が、生成AI(人工知能)の使用を理由に失格となったのです。

 フランスの新進気鋭スタジオ、Sandfall Interactiveが手掛けた本作は、先行して開催された世界最大級の祭典「The Game Awards 2025(通称TGA)」で歴史的な最多受賞を果たしたばかりの期待作でした。TGAはAAA(大規模・高予算)作品を含む世界的ゲーム表彰式であり、一方のIndie Game Awardsは小規模・独立系スタジオによる創造性と精神を評価する場として位置づけられています。

 TGAでの受賞は有効である一方、今回Indie Game Awardsで下された失格処分は、開発プロセスにおける「虚偽の申告」という、クリエイターとしての誠実さと開発の透明性が問われる深刻な事態へと発展しています。本作が誇っていた圧倒的な完成度の根底を揺るがす、極めて重い決断となりました。

問われた「虚偽申告」の代償

 事件の全容が明らかになったのは2025年12月18日。授賞式の収録が完了した直後、主催者であるSix One Indieは「Expedition 33」の全受賞を剥奪し、同作を失格とする異例の決定を下しました。

 Indie Game Awardsでは、応募プロセスにおいて生成AIの使用に対して極めて厳格な禁止規定を設けています。Sandfall Interactiveは当初、この規約に完全に同意し、「AIを使用していない」との虚偽の申告を行ってエントリーしていました。しかし、授賞式当日の調査において、実際には開発の着想やリファレンス(参照資料)の作成段階でAIを使用していたことが判明。最終的にスタジオ側もこれを認めたため、失格処分が下されました。

 この決定により、Game of the Yearは次点であった「Blue Prince」へ、Debut Game賞は「Sorry We’re Closed」へとそれぞれ繰り上げ授与されることになりました。主催側は声明の中で、「Indie Game Awardsは皆様の支援と信頼、そして開発者の誠実さによってのみ成長できる祭典である」と述べ、ルールの遵守を強く訴えました。今回の騒動の本質は、AI利用の是非以上に、「規約に反して虚偽の報告を行い、主催者とコミュニティを欺いた」という不誠実な対応にあります。

Larian Studiosとの比較で見える境界線

 この失格処分が特に議論を呼んでいるのは、ほぼ同時期に発生したLarian Studios(「Baldur’s Gate 3」開発元)を巡る論争と、ファンの反応が対照的だったためです。

 LarianのCEOであるスヴェン・ヴィンケ氏は、次回作の開発においてアイデア出しや資料作成の補助に生成AIを活用していることを自ら公表しました。製品に直接AI生成物が含まれるわけではないとの説明でしたが、ファンからは猛烈な批判(バックラッシュ)を招きました。長年、コミュニティとの強い信頼関係を築いてきた同社だけに、その失望は大きく、業界に衝撃を与えました。

 一方で、今回のSandfall Interactiveは、過去に限定的なAI利用を認めていた時期がありながら、当時は大きな批判を浴びることなくTGAでの栄冠を手にしています。SNSやReddit上では、「正直に公表して非難されたLarian」と、「虚偽の申告で賞を狙ったSandfall」の不条理な格差を指摘する声が相次ぎました。著名ジャーナリストのジーン・パーク氏もこの現象に注目しており、開発者の「正直さ」がコミュニティの許容度を左右する決定的な鍵であることを示唆しています。

生成AIが抱える「盗用」のリスク

 論争の根底には、生成AIが抱える構造的な倫理問題があります。最大の懸念は、AIの学習データの多くが、著作権者の許可を得ていない既存の創作物をベースにした「盗用」に基づいている可能性です。

 従来の開発において、他者の作品をリファレンスにすることは正当な創作活動の一環でした。しかし、生成AIをリファレンスとして用いる場合、そのAIが「誰の作品を、どのような権利関係で学習したのか」を追跡することが困難です。開発者が「単なる参照用だ」と主張しても、その参照元が第三者の権利を侵害している可能性を否定できないのです。

 たとえ最終的なゲーム画面にAI生成物が残らなくとも、制作プロセスの効率化という形で不透明なデータから利益を得ること自体が、人間の創造性を軽視する行為であるとの批判は根強く、法整備が追いつかない現状が業界の混乱に拍車をかけています。

開発の極意「引き算」と透明性の両立

 今回の疑惑がこれほど大きな波紋を呼んだのは、本作が掲げていた開発哲学があまりに純粋なものだったからに他なりません。多くのファンを魅了した高品質なゲーム体験は、AIによる自動生成ではなく、皮肉にも徹底した「手作業による削ぎ落とし」から生まれていました。

 「Expedition 33」は技術面では非常に優れた評価を得ており、同スタジオが提唱する「開発の最終段階で要素を徹底的に削ぎ落とし、残った部分を極限まで磨き上げる」という「引き算の美学」は、近年のコンテンツ肥大化に悩む開発現場に一石を投じました。実際に、この手法は期待作「Phantom Blade Zero」のディレクター、Soulframe Liang氏にも影響を与え、「9か月間を削除と磨き上げに費やす」という助言が賞賛されました。

 しかし、どれほど優れた開発哲学や磨き抜かれたクオリティを持っていたとしても、制作プロセスの透明性が欠如していれば、その作品の価値は正当に評価されません。手仕事の極致を支持していたファンにとって、AI利用の隠蔽は、職人魂そのものへの裏切りと映ったのです。技術の効率化を求める一方で、いかにクリエイターとしての倫理性を保つかが、現代の開発者に突きつけられた至上命題となっています。

誠実さが定義する「持続可能な開発」の未来

 「Expedition 33」がIndie Game Awardsで失格となった一件は、ゲーム業界全体が共通のガイドラインを確立すべき転換点に立っていることを示しています。

 現在はイベントやプラットフォームごとにAI利用の基準がバラバラであり、その曖昧さが開発者の混乱とユーザーの不信感を招いています。今後は、AIの利用範囲を正直に公表する文化の醸成と、業界全体での明確な開示ルールの策定が急務となるでしょう。

 今回の騒動は、AIという強力な新技術と向き合うゲーム業界にとって、「結果が良ければプロセスは問われない」という時代の終焉を象徴する出来事となりました。誠実さこそが、次世代のゲーム開発における最も重要な「クオリティ」になるはずです。

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情報元:TheGamer

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