
SNKの人気格闘ゲーム「餓狼伝説 City of the Wolves」シーズン2発表トレーラーに生成AI使用の疑惑が浮上し炎上中です。背景の不自然さなどが指摘され、公式モデレーターが辞任する事態に。一見気づかないレベルの違和感がなぜこれほど批判されるのか、過熱する反応と背景にある企業姿勢の課題を解説します。
株式会社SNKが展開中の対戦格闘ゲーム「餓狼伝説 City of the Wolves」(以下、CotW)に関して、新たに公開されたシーズン2の発表トレーラーが物議を醸しています。2025年4月の発売以来、格闘ゲーム界に新風を吹き込み好評を博している本作ですが、新シーズン開幕を告げる重要なプロモーション映像に「生成AI(ジェネレーティブAI)」による素材が含まれているとの指摘が相次ぎ、コアなファンベースのみならず業界関係者の間でも大きな波紋が広がっています。
疑惑を招いた3つの痕跡
事の発端となったのは、SNK公式YouTubeチャンネルで公開された「CotW」シーズン2の告知トレーラーです。この映像では、来る2026年1月22日より開幕となるシーズン2のロードマップとして、キム・ジェフン、ナイトメア・ギース、ブルー・マリー、ヴォルフガング・クラウザーといった人気キャラクターに加え、2名の未発表キャラクターが参戦することが示唆されました。
しかし、公開直後から映像内の背景アートやタイポグラフィに見られる「構造的な不自然さ」に対し、コミュニティや専門家から生成AIの使用を疑う声が噴出しました。具体的に指摘されている技術的な特徴は以下の通りです。
- 構造の破綻:背景として映し出される高層ビル群において、窓の配置やパターンがフラクタル的に破綻しています。これは人間が手作業で作画した場合にはまず発生しない種類のエラーであり、AI生成特有の不規則性と考えられます。

- 生成ノイズの存在:一部のキャラクターアートや、画面を装飾する落書き風エフェクトにおいて、筆致の不連続性やフォントの歪みが見受けられます。これらは画像生成AIツールで頻繁に見られるアーチファクト(生成ノイズ)と酷似しています。

- ビジュアルの不統一:全体として、「レンダリングエンジンで作成した3Dモデルに、AIによるペイント処理を加えた」ような質感の差異が見られ、統一的なビジュアル設計がなされていないという指摘があります。

一方で、これらの痕跡はAI生成を疑うに十分な「兆候」ではあるものの、Photoshopの「生成塗りつぶし」機能やアップスケール補正などを使用した場合でも類似の成果物が生成される可能性があります。そのため、見た目だけでAI生成であると断定することは技術的に困難であり、確証度は中程度(40~60%)に留まると評価する向きもあります。
現在までにSNK公式からAI使用を肯定、あるいは否定する声明は出されていません。主要海外ゲームメディアも、本件についてはあくまで「疑惑」として報じており、「AI生成だと断定する確たる証拠はない」という慎重な姿勢を崩していません。
公式モデレーターの抗議辞任
この疑惑は、単なる技術的な指摘に留まらず、コミュニティ運営に深刻な亀裂を生んでいます。象徴的なのは、6年間にわたりSNKのコミュニティを支え、「CotW」の公式Discordサーバーでモデレーターを務めてきたSpicy Sauce氏が、このトレーラー公開を受けて辞任を表明したことです。
一般的にゲームコミュニティのモデレーターは、メーカーの社員ではなく、無償のボランティアとして活動する「最も熱心なファン」によって担われています。企業とユーザーの架け橋となり、現場を支えてきた彼らが「これ以上は擁護できない」と判断した事実は重く、単なるスタッフの離脱以上に「コアファンの信頼が完全に崩壊した」ことを意味します。
同氏はSNSで「支持できない製品を宣伝することはできない」と述べ、自身の倫理的立場と今回のプロモーション手法が相容れないことを明確にしました。別のモデレーターも同様の理由で辞意を表明しており、内部に近い協力者たちが離脱するという事態は、ファンの信頼低下を象徴しています。
過熱する「AI魔女狩り」の側面
今回の騒動には、立場による大きな温度差が存在します。
実際の映像を見ると、演出はダイナミックであり、作品への期待感を煽るプロモーションビデオとしての完成度は決して低くありません。制作現場において、一瞬しか映らない背景を一から描くのは非効率であり、市販の素材集(ストックフォト)を加工して使用するのは極めて一般的な手法です。正直なところ、単なる素材の加工なのか、生成AIなのか、人間の目視だけで完全に判別することは不可能です。
一般消費者の視点に立てば、こうした微細な違和感を徹底的に洗い出し、企業を糾弾する現在のコミュニティの動きは、「AI嫌悪による過剰反応」や「重箱の隅つつき(魔女狩り)」のように映るかもしれません。
しかし、長年SNKを支持してきた熱心なファン層にとっては、理屈を超えた「感情」の問題が横たわっています。彼らにとってSNKの作品は「職人の手描き」の象徴であり、そこに安易なAI素材(海外では「AI Slop」と辛辣に表現されることもあります)の匂いが少しでも漂うことは、ブランドの美学に対する冒涜と受け取られてしまうのです。
この騒動は、真偽が定かではない段階でも、疑念を持たれた時点でブランドが傷つくという、現代のクリエイティブ業界が抱える「透明性の欠如」のリスクを浮き彫りにしています。
潤沢な資金と品質のギャップ
ファンが抱く怒りの根底には、SNKの現在の経営体制に対する期待と現実の乖離があります。SNKは2022年、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が事実上のオーナーである「Electronic Gaming Development Company(EGDC)」によって買収されました。同社はサウジアラビアの公的投資基金(PIF)の子会社であり、SNKは実質的に世界有数の資金力を持つ企業の傘下にあります。
PIFはエレクトロニック・アーツ(EA)など他の大手ゲーム企業への投資も積極的に行っており、一部報道では巨額の買収計画も取り沙汰されています。このように資金不足が開発の障害になることは考えにくい状況です。それにもかかわらず、プロモーション映像という重要なタッチポイントで、コスト削減策とも取れる品質管理の甘さが露呈した(と疑われる)ことに、ファンは強い失望を感じています。YouTubeのコメントには、「サウジの莫大な資金がありながら、本物のアーティストに正当な対価を支払うこともできないのか」といった辛辣な意見が寄せられています。
好評な本編に水を差す疑惑
皮肉なことに、今回発表されたシーズン2のキャラクターラインナップ自体は、ファンから非常に高く評価されています。往年の人気キャラクターの復活は本来であれば歓喜をもって迎えられるニュースであり、ゲーム本編のビジュアル(セルシェーディングを用いた鮮やかなアートスタイル)も、昨年のThe Game Awardsでベスト格闘ゲーム賞を受賞するなど、品質は証明されています。
しかし、プロモーション映像の不手際(あるいは疑惑)が、ゲームそのものの魅力を覆い隠してしまっているのが現状です。一部では、前日にシーズン2のロースター情報がリークされたため、SNKが急遽発表を前倒しする必要に迫られ、結果として急造の素材を使用せざるを得なかったのではないかという推測もなされています。しかし、事情がどうあれ、公式発表における品質への疑念は拭えていません。
SNKに求められる説明責任
SNKとサウジ資本の関係は、これまでも「スポーツウォッシング」への懸念や、クリスティアーノ・ロナウド選手とのコラボDLC発表時に賛否が巻き起こるなど、議論の的となってきました。
今回の騒動は、こうした懸念に新たな燃料を投下しました。コアなゲーマー層からの反発を避けるためにも、SNKには明確な説明責任が求められます。シーズン2の開幕が、ゲーム本来の面白さで評価されるのか、それともプロモーションの失態によってケチがついてしまうのか。SNKの対応に注目が集まっています。

