
マイクロソフトはXboxを長年率いたフィル・スペンサー氏の引退とサラ・ボンド氏の退社を発表。後任のアーシャ・シャルマ新CEOは「Xboxの帰還」を掲げ、コンソール重視とAI活用の均衡を目指す方針を表明しました。この歴史的転換はゲーム業界に何をもたらすのでしょうか?
マイクロソフト・ゲーミングの歴史的な体制刷新
米国マイクロソフトは、同社のゲーム事業部門「Microsoft Gaming(Xbox)」を長年にわたり牽引してきたフィル・スペンサーCEOが引退することを発表しました。同氏は38年以上にわたりマイクロソフトに在籍し、そのうち12年間、Xbox事業のトップとして指揮を執ってきました。
また、この体制変更に伴い、Xboxプレジデントを務めていたサラ・ボンド氏も同社を去ることが明らかになりました。後任のCEOには、マイクロソフトのCoreAI製品担当プレジデントを務めてきたアーシャ・シャルマ氏が就任します。この一連の人事は、Xboxおよびマイクロソフトのゲーム戦略における極めて大きな転換点となります。
サティア・ナデラCEOは全従業員向けのメモで、「昨年(2025年)、フィルから引退の決断を伝えられ、それ以来、後継者計画について話し合ってきた」と述べ、スペンサー氏の功績を称えました。スペンサー氏は今夏まで顧問として留まり、スムーズな移行を支援する予定です。
新CEO アーシャ・シャルマ氏の経歴
後任のアーシャ・シャルマ氏は、ゲーム業界生え抜きのキャリアではありませんが、消費者向けプラットフォームの構築と運営において豊富な経験を有しています。
シャルマ氏は2013年にマイクロソフトを離職後、Meta(旧Facebook)でメッセージングアプリ部門の製品・エンジニアリング担当副社長、Instacart(インスタカート)で最高執行責任者(COO)を歴任しました。2024年にマイクロソフトに復帰した後は、同社のAIプラットフォーム戦略を主導してきた人物です。
ナデラCEOはシャルマ氏について、「プラットフォームの構築と成長、ビジネスモデルの長期的価値への適合において深い経験を持っており、次の成長フェーズにおいて不可欠な人材だ」と評価しています。ゲーマーとしてのカリスマ性で知られたスペンサー氏とは異なる、実務型のアプローチで巨大化したゲーム部門の舵取りを行うことになります。
シャルマ新CEOが掲げる3つの公約
就任にあたり、シャルマ氏は従業員に向けた最初のメモで、今後のXboxの方向性として「素晴らしいゲーム(Great games)」、「Xboxの帰還(The return of Xbox)」、「遊びの未来(Future of play)」という3つの公約を掲げました。
特に注目すべきは「Xboxの帰還」という言葉です。シャルマ氏は「コンソールから始まるXboxへのコミットメントを新たにし、私たちのルーツを称える」と明言しました。さらに「Xboxを築き上げた当時の反逆者精神(renegade spirit)を取り戻したい」と述べ、ブランドの原点回帰を示唆しています。一方で、PC・モバイル・クラウドへの展開も継続する方針であり、マルチデバイス展開とコンソールの強化を矛盾しない戦略として位置づけています。
また、AI(人工知能)の活用についても言及しましたが、その姿勢は慎重かつ倫理的です。「収益化やAIはこの未来に影響を与えるだろう」と認めつつも、「魂のないAI生成物(soulless AI slop)でエコシステムを溢れさせるようなことはしない」と断言しました。「ゲームは常に人間によって作られた芸術である」という信念を強調し、クリエイターへの敬意を示しています。
マット・ブーティ氏の昇進
「素晴らしいゲーム」へのコミットメントを体現する人事として、これまでゲームコンテンツおよびスタジオ担当プレジデントを務めていたマット・ブーティ氏が、エグゼクティブ・バイス・プレジデント(EVP)兼チーフ・コンテンツ・オフィサーに昇格しました。
ブーティ氏は社内メモで、「フィルのリーダーシップから多くを学んだ。私たちのすべてのゲームは彼の基礎的な支援の恩恵を受けている」と感謝を述べました。また、シャルマ氏との連携についても、「彼女はプレイヤーと開発者のニーズに基づいた選択を望んでいる」と期待を寄せています。同メモでは「スタジオに関する組織変更は現時点で一切行われていない」とも明記されており、既存の開発パイプラインの安定性を強調しました。
フィル・スペンサー氏の退任の背景
フィル・スペンサー氏は1988年にインターンとして入社し、2001年にXbox部門へ異動しました。2014年のトップ就任後は、Xbox Series X/Sの立ち上げや、サブスクリプションサービス「Xbox Game Pass」の普及を主導しました。
彼の在任中、マイクロソフトはMojang(Minecraft)、ZeniMax Media(Bethesda)、そしてActivision Blizzardといった超大型買収を成功させ、ファーストパーティのラインナップを劇的に強化しました。スペンサー氏は従業員へのメモで、「Xboxは単なるビジネス以上のものであり、プレイヤー、クリエイター、チームによる活気あるコミュニティだ」と、自身のキャリアを振り返っています。
サラ・ボンド氏の退社
今回の体制刷新において、スペンサー氏と並ぶ中心人物であったサラ・ボンド氏の退社も、業界に大きな驚きを与えています。2023年にXboxプレジデントに就任した彼女は、ハードウェアの立ち上げだけでなく、クラウドゲーミングの拡大やプラットフォーム戦略の再構築において決定的な役割を果たしました。
スペンサー氏は彼女について、「Xboxの決定的な時期に尽力し、Game Passの拡大や歴史的な瞬間を導いてくれた」と高く評価しています。具体的な退任理由については「新たなチャプターを始めるため」と述べるに留めていますが、次世代ハードウェアや新たな統合プラットフォームの基盤を築いた彼女の離脱は、Xboxにとって一つの時代の終わりを象徴しています。
今後の展望:ハードウェア回帰とAI活用の両立
新CEOのシャルマ氏は、「過去25年間投資してくれたコアなファン、そして開発者たちに再びコミットする」と宣言しました。今後の焦点は、彼女が掲げる「コンソールへの再注力」が、近年のマイクロソフトが進めてきた「Xbox Everywhere(どこでもXbox)」戦略とどのように融合していくかにあります。
また、AI分野のエキスパートであるシャルマ氏が、「魂のないAI」を否定しつつ、いかにして技術革新をゲーム体験に昇華させるかも注目されます。巨大な買収劇を経て肥大化した組織の統合と、AI時代の新たなエンターテインメントの形をどう示すのか。
2026年、Xboxは誕生から25周年という大きな節目を迎えます。この記念すべき年に断行されたリーダーシップの刷新は、Xboxが過去のレガシーを継承しつつ、次の四半世紀に向けた「大きな変革」へ踏み出した証と言えるでしょう。 スペンサー氏というカリスマを失ったXboxは、実務とテクノロジーに長けた新リーダーのもと、かつてない変革の航海へと漕ぎ出します。
情報元:TheVerge

