
Bluepoint閉鎖の深層には、スタジオの能力を超えたライブサービス開発の挫折と、再起の提案を却下し企画のみを他社へ回すソニーの徹底したリスク管理がありました。最高益を更新する巨大企業が、短期的な利益効率のために「リメイクの職人芸」という代替不可能な文化的資産を切り捨てることは正当化されるのでしょうか?
ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は、傘下の開発スタジオであるBluepoint Gamesを閉鎖する方針を固めました。2026年2月19日、Bloombergのジェイソン・シュライアーによるX(旧Twitter)への投稿で第一報が伝えられ、その後Kotakuが入手した内部メモによって詳細が裏付けられました。さらに、現地ジャーナリストらが元従業員から得たリーク情報により、閉鎖に至る複雑な背景が明らかになりつつあります。
買収から5年、閉鎖への全経緯
ソニーとの長きにわたる蜜月
Bluepoint Gamesとソニーの関係は長く、PS3時代の「God of War Collection」「Metal Gear Solid HDコレクション」、PS4時代の「Uncharted: ザ・ネイサン・ドレイク コレクション」「Gravity Rush Remastered」など、外部パートナーとして数多くの作品を手がけてきました。なかでも2020年11月のPS5ローンチに合わせてリリースされた「Demon’s Souls(デモンズソウル)」のリメイクは、発売から約10ヶ月で累計約140万本を売り上げ、その完成度の高さがソニーの買収決断を後押ししたとされます。
ソニーが正式にBluepointを傘下に収めたのは2021年9月30日のこと。その際、Bluepointの代表を務めるマルコ・スラッシュ(Marco Thrush)氏は「オリジナルコンテンツを制作できる環境がようやく整った。これこそが私たちの進化の次のステップだ」と述べていました。
自ら提案したライブサービスの挫折
買収後、Bluepointは「God of War Ragnarök」の共同開発に参加した後、GoWシリーズをベースにしたライブサービスゲームの開発に着手しました。当初、これはソニー側からの強制的な割り当てと見られていましたが、複数の元従業員の証言によれば、Bluepoint自身がRagnarök開発中に自らピッチ(提案)を行い、承認を取り付けたプロジェクトであった可能性が浮上しています。スタジオ内にはGoWの世界観を好むスタッフが多く、当時のPlayStationが推進していたライブサービス方針に呼応する形で、スタジオの規模拡大とオリジナル作品への野心を抱いたことが発端でした。
しかし、リメイクに特化していたスタジオにとって、大規模な運営型ゲームの開発は荷が重すぎました。内部情報によると、度重なる納期の遅延が発生し、スタジオのキャパシティを超えていることが明白になったといいます。「Concord」の失敗(2024年)を受けたSIEの戦略見直しも重なりましたが、それ以前に開発体制の限界が露呈しており、2025年1月にプロジェクトはキャンセルされました。
却下された提案と企画の流出
キャンセル後、Bluepointは生き残りをかけて2025年中に計4つの新規プロジェクトをソニーへ提案しました。その中には、彼らの得意分野であるシングルプレイヤー向けのリメイク作品が2本含まれていたといいます。
しかし、ソニーは「市場での成功が見込めない」としてこれらをすべて却下。さらに残酷なことに、元従業員の証言によれば、却下された企画のうち少なくとも1つは、現在別のスタジオによって開発が進められているとのことです。つまり、ソニーは「企画(リメイク)」には価値を見出しつつも、「Bluepointという組織」にはもはや価値を見出さなかったことになります。2026年2月19日、ついに閉鎖が発表され、Bluepointはソニー傘下として一本もゲームをリリースすることなくその歴史に幕を下ろすことになりました。
CEOメッセージが招いた波紋
SIEスタジオ事業グループCEOのハーマン・ハルスト氏は、全社向け内部メッセージにおいてBluepoint Gamesの閉鎖を通達しました。ハルスト氏はまず、2025年のSIEの成果として「Ghost of Yōtei(ゴースト・オブ・ヨウテイ)」の成功、「Death Stranding 2」の高評価などを称賛しました。
しかしその直後に語られたのは厳しい現実でした。「開発費の高騰、産業の成長鈍化」を理由に「持続可能な形でのゲーム制作が困難になっている」と述べ、構造改革の一環として閉鎖を決断したと説明しています。Bluepointを「非常に才能あるチーム」と称えつつ閉鎖するという内容は、多くのファンから「驚くほど無神経(incredibly tone-deaf)」と批判を受けました。
メモには「影響を受けた一部社員についてはグループ内での配置転換を探る」と記されていましたが、現場の実情は複雑です。リーク情報によると、SIEから再就職のオファーを受けたと証言する元社員がいる一方で、支援はなかったとする声もあり、対応にはばらつきがある模様です。
失われる「アーカイブの守護者」
代替不可能な技術的価値
テキサス州オースティンに拠点を置くBluepointは、単なる下請け開発会社ではありませんでした。オリジナル作品のコードを解析し、その手触りや芸術性を損なわずに最新技術で再構築する「リメイクとリマスターの職人集団」として独自の地位を築いていました。
このスタジオの閉鎖は、ゲーム業界にとって「技術的アーカイブ能力」の喪失を意味します。前述の通り、Bluepointが提案したリメイク企画が他スタジオに回されたとしても、Demon’s Soulsリメイクで示されたような「原作への深い理解と技術的な最適化」が再現できる保証はありません。
GoWリメイク発表との皮肉な対比
皮肉なことに、閉鎖発表のわずか1週間前には「God of War トリロジー リメイク」が発表されています。Bluepointがかつて「God of War コレクション」で名を馳せ、直前まで同シリーズに関わっていたことを考えれば、彼らが提案し、そして取り上げられた企画がこれに関連している可能性も否定できません。最も適任であるはずの職人たちが排除され、企画だけが生き残るという構図は、クリエイティビティに対する経営側の冷徹な姿勢を物語っています。
「Bloodborne」リメイクは絶望的か
多くのファンが待望していた「Bloodborne」のリメイク・リマスターも、事実上の受け皿を失いました。フロム・ソフトウェアの宮崎英高氏が好意的なコメントを寄せていたにもかかわらず、それを実現しうる最も強力なパートナーが消滅したことで、実現はいっそう遠のいたと言わざるを得ません。
最高益下の冷徹な「損切り」
SIEの直近四半期における営業利益は前年同期比19%増を記録し、PlayStation部門は好調です。しかし、この「損切り」には短期的なROI(投資対効果)の論理が働いています。
Bluepointは約70名の小規模スタジオでしたが、閉鎖直前には退職者が相次ぎ、実働人数は50〜60名程度まで減少していたと見られます。彼らが自ら提案したライブサービス作品で納期を守れず、開発余力の限界を露呈したことは、経営側にとって「リスク要因」と映った可能性があります。
しかし、「一度の失敗(しかも不得手な分野への挑戦)」でスタジオごと解体するという判断はあまりに急進的です。CAPCOMやBethesdaがリメイク戦略で成功を収める中、確実な利益を生み出せる「リメイク制作」という本来の強みに回帰させる選択肢もあったはずです。企画だけを他社に移し、チームを解散させる手法は、「持続可能性」の名の下に行われた、人材という資産の放棄に他なりません。
戦略の代償と人材流出
今回の閉鎖は、SIEのライブサービス戦略の混乱と、それに過剰適応しようとしたスタジオの共倒れと言えます。「Concord」の失敗や「The Last of Us Online」の中止など、SIE全体でライブサービスへの急激なシフトとその反動が起きており、Bluepointもその波に飲まれました。
閉鎖に伴い、多くの才能が流出します。すでに閉鎖決定前からスタジオ内の雰囲気は悪化しており、多くのスタッフが自主的に去っていました。LinkedInでは閉鎖発表直後から、アートディレクターやエンジニアなど中核クリエイターが一斉に求職活動を開始しています。彼らが持つ「レガシーコードを現代に蘇らせる知見」はソニーグループから失われ、二度と戻ることはないでしょう。
Marathon炎上とSNS沈黙
Bluepointの閉鎖発表直後、PlayStation公式SNSがBungieの「Marathon」を宣伝し、炎上した件も象徴的です。「Bluepointを潰してMarathonか」という怒りの声は、ライブサービス偏重に対するファンの不信感を代弁しています。Bungieにとっては不運なとばっちりですが、SIE内の連携不足と、ユーザー感情との乖離を露呈する結果となりました。
結論:業界への警鐘
Bluepoint Gamesの閉鎖は、スタジオの野心的な挑戦(ライブサービスへの参入)と、親会社の冷徹なリスク管理が最悪の形で噛み合った悲劇です。
自らの強みを見誤ったスタジオ側の判断ミスはあったにせよ、その更生の機会を奪い、得意分野の企画だけを吸い上げて解散させるというソニーの決定は、あまりにビジネスライクに過ぎると言わざるを得ません。
「リメイクの職人集団」として愛されたスタジオの消失は、ゲーム文化の保存という観点からも、クリエイターを育てる土壌の喪失という意味でも、業界全体にとって痛切な損失として記憶されることになるでしょう。


