PR

NetEaseが名越スタジオへの資金提供を5月に停止 ─ 70億円不足で存続の危機へ

News

ネットイースは名越スタジオへの資金提供を2026年5月で停止すると発表。新作「Gang of Dragon」完成には追加で70億円が必要とされ、この巨額費用が決定打に。記事では資金打ち切りの経緯や、スタジオが直面するIP買い取りの壁、そして中国資本の戦略転換について解説。名越スタジオの渾身の作はどうなるのでしょうか?

資金停止が示す投資の限界と課題

中国のテクノロジー大手NetEase Inc.(以下、ネットイース)が、名越稔洋氏が率いる「名越スタジオ(Nagoshi Studio Inc.)」への資金提供を2026年5月をもって打ち切る方針を固めました。この決定は、単なる一開発スタジオの契約終了という枠を超え、日本のゲーム業界における「クリエイター独立ブーム」と、それを支えてきた中国資本の関係性が大きな転換点を迎えたことを示唆しています。

Bloombergの報道によれば、スタジオ側にはすでに決定が通知されており、ネットイース広報もこれを認めています。ここでは、今回の決定に至った背景にある「70億円の追加コスト」の意味と、独立系スタジオが直面するビジネスモデルの構造的な課題について詳述します。

70億円不足と構造的ジレンマ

資金提供停止の直接的な引き金となったのは、スタジオの初タイトルとなる「Gang of Dragon」の開発費高騰です。2025年12月11日(米現地時間)、ゲームの祭典「The Game Awards 2025」でティザートレーラーが世界初公開され、業界内外から高い関心を集めていた同作ですが、ネットイースによる精査の結果、完成までには当初予算に加え、少なくとも70億円(約4,440万ドル)の追加資金が必要であることが判明しました。

本作は、実在の「歌舞伎町」を舞台に、世界的俳優のマ・ドンソク氏を起用したノワールアクションです。従来の「龍が如く」とは一線を画し、「殺し」や車両改造を含むハードボイルドな表現を追求。リアリティと没入感を重視したこの野心的な仕様が、結果として開発規模の肥大化を招いた一因とも推測されます。

名越氏はセガ在籍時代、組織のインフラや既存アセットを活かして「龍が如く」シリーズを継続的に世に送り出してきた実績があります。しかし、既存のゲームエンジンやアセット、熟練したチームが揃っていたセガ時代とは異なり、独立後のスタジオでは開発環境の構築から人材の採用、チームビルディングまでをゼロから行う必要がありました。

近年、AAAタイトルの開発費は世界的に高騰しており、数百億円規模になることも珍しくありません。しかし、ゼロベースでの開発体制構築という構造的課題が、当初の想定を超えるコストと開発期間の長期化を招いた可能性があります。ネットイースの判断は、クリエイティブへの敬意よりも、投資対効果(ROI)の厳格な評価を優先した結果と言えます。

再建を阻む「二重のコスト」の壁

現在、名越氏はプロジェクト存続のために新たな出資者を探していますが、交渉は難航していると伝えられています。その最大の要因は、ネットイース側が提示している撤退条件、すなわち「IP資産(アセット)の買い取り」にあると考えられます。

Bloombergの報道によると、ネットイースはスタジオの独立や事業継続自体は容認する姿勢ですが、これまでに同社の資金で制作されたゲーム素材やブランドを継続使用する場合、その対価を支払うよう求めています。これはビジネス慣習として一般的な対応ですが、本件においては極めて高いハードルとなります。

新たなスポンサーにとっては、これから必要となる「70億円以上の追加開発費」に加え、過去数年間にネットイースが投じてきた「巨額の既往開発費(サンクコスト)」を弁済しなければ、プロジェクトを引き継ぐことができません。完成までさらに時間を要する未リリースの作品に対し、これだけの二重のコストを負担できるパブリッシャーは、世界的に見ても極めて限定されます。この契約構造こそが、事実上の「詰み」に近い状況を生み出しています。

中国資本による爆買い投資の終焉

今回の件は、2020年代初頭に加熱した、中国資本による日本の著名クリエイター囲い込み戦略の終焉を象徴しています。

当時、ネットイースとテンセントは競うように日本の人材を獲得し、名越スタジオ以外にも多くのスタジオが設立されました。しかし、パンデミック後の巣ごもり需要の減退や中国国内の規制強化、世界経済の減速を受け、各社は「拡大」から「選択と集中」へと戦略をシフトしています。

ネットイースはすでに、海外展開の先駆けとなった「桜花スタジオ(Ouka Studio)」を2024年後半に閉鎖しています。名越スタジオにはその知名度ゆえに猶予が与えられていましたが、今回の決定により、聖域なきコスト削減の対象であることが明確になりました。中国企業はもはや「著名人の名前」だけでは投資を継続せず、シビアに成果と採算性を求めています。

今後の展望と業界への教訓

5月の資金停止までに解決策が見出せなければ、スタジオは閉鎖や大幅な縮小を余儀なくされるでしょう。名越スタジオの広報担当者は現時点でコメントを控えていますが、残された時間はわずかです。

日本のゲームクリエイターにとって、潤沢な海外資金は魅力的な選択肢でした。しかし、その資金は「無条件の支援」ではなく、あくまで「投資」です。親会社の戦略変更というカントリーリスクや、権利関係の複雑さは、独立時の想定以上に経営の自由度を奪う可能性があります。

今回の事例は、IPを保持しない受託開発でもなく、完全に自社資金で賄うインディーでもない、「海外資本頼みのAAAスタジオ」というビジネスモデルの持続可能性に対し、改めて重い問いを投げかけています。日本のゲーム産業が誇る才能をどのように守り、育てていくべきか、業界全体での再考が求められています。

情報元:Bloomberg

タイトルとURLをコピーしました