
「鉄拳」シリーズのプロデューサーとして知られる原田勝弘氏が、バンダイナムコエンターテインメント退社後、SNKグループと共に新スタジオ「VS Studio SNK」を設立しました。代表取締役CEOに就任した原田氏が掲げる理念や、新体制での開発の展望について、最新の公式情報を交えて詳しくお伝えします。
新スタジオ設立の概要
「鉄拳」シリーズのプロデューサーとして長年にわたり同作を牽引してきた原田勝弘氏が、2026年5月1日付で新たなゲーム開発スタジオ「株式会社VS Studio SNK」を設立しました。スタジオの拠点は東京都品川区上大崎に置かれ、代表取締役CEOには原田氏が就任しています。
株式会社SNKは同スタジオに出資し、連結子会社とすることを決定しました。今後は両社でゲームソフト開発において連携し、相互の開発体制を一層強化していく方針です。
原田氏は2025年12月、31年以上在籍したバンダイナムコエンターテインメントを退社しました。その去就に注目が集まる中での新スタジオ設立となります。なお、既に開設されている公式サイトについては、2026年6月に本格的な公開が予定されています。
「VS」という名称に込められた意味
スタジオ名である「VS Studio」の「VS(ブイエス)」には、複数の意義が込められています。原田氏は公式発表において、以下のキーワードを通じてその解釈を明らかにしました。
- Video game Soft(VS開発部): 原田氏のキャリアの起点となった開発部門への敬意。
- Versus(バーサス): 伝統に挑み、切磋琢磨し続ける精神。
- Visionary Standard(革新的な基準): 未来を見据えた、新たな業界標準の確立。
- Volition Shift(意志の転換): 開発者としての姿勢と開発環境の刷新。
- Vanguard Spirit(先駆者精神): 常に最先端の領域に挑戦する姿勢。
また、スタジオの理念として「伝統に挑み、極限を創る(Beyond tradition, crafted to perfection)」というフレーズを掲げています。
原田氏は、技術、感性、そして世界最高水準の知見を結集して極限を追求すると述べています。自由で開かれた環境から生まれる新しい発想を通じて、「心に刻まれる遊び」を創出することを目指しています。
退社から新スタジオ参画に至る経緯
原田氏は2025年末の退社に際して、クリエイターとしての活動期間を再考するに至った背景を明かしています。報道によれば、長年の友人や先輩クリエイターの引退、あるいは逝去といった親しい関係者との別れを経験したことが、自身の「残された時間」を意識する契機になったと語られています。
原田氏はバンダイナムコエンターテインメントにおいてゼネラルマネージャーを務め、31年以上にわたりアーケード、家庭用、VRなど幅広いプラットフォームで開発・プロデュースを指揮してきました。『鉄拳』シリーズのほか、『塊魂アンコール』『Ace Combat: Assault Horizon』『CODE VEIN』といったタイトルにも携わっており、ジャンルを問わず多角的な開発実績を有しています。
一方、株式会社SNKにとっても今回の提携は大きな戦略的意義を持ちます。SNKの開発者である小田泰之氏は、「以前から、もし共に仕事をすることがあれば、という仮定の話をする間柄でしたが、今回それが実現しました」とコメントしており、かねてより原田氏との協働を望んでいたことを明らかにしました。
スタジオの体制
VS Studioでは現在、新たなチームメンバーの募集を積極的に進めています。現時点で参画が公表されているのは、チーフ・クリエイティブ・オフィサー(CCO)に就任した米盛祐一氏です。
米盛氏はバンダイナムコエンターテインメントにおいて、『鉄拳タッグトーナメント』シリーズなど複数のタイトルでディレクターを歴任しており、原田氏とは長年にわたり強固な協力関係を築いています。
原田氏は、「開発者が最高の実力を発揮できる環境とは何か」という長年の問いに対する一つの回答がVS Studioであると述べています。同スタジオは、高い志を持つ技術者やクリエイターと共に、世界中のユーザーへ至高のゲーム体験を提供することを目標に掲げています。
原田氏が手がける可能性のあるタイトルとは
現時点において、VS Studioの第一弾プロジェクトに関する具体的な内容は公表されていません。しかし、過去のインタビューや業界の動向から、その方向性を推測することが可能です。
アクション・対戦(PvP)路線の継続
原田氏はメディアの取材に対し、今後制作するタイトルが「アクション」や「対戦型PvP(プレイヤー対プレイヤー)」の要素から大きく外れることはないと述べています。このことから、同氏が得意とする格闘ゲームや対戦アクションが、引き続き開発の中心になるものと考えられます。
SNK保有IPへの関与
原田氏は、SNKが保有する知的財産(IP)への関与についても含みを持たせています。取材に対し「個人的に挑戦したい意欲はある」としながらも、「SNKの資産である以上、現段階での言及は控える」と慎重な姿勢を示しました。また、「現在の開発には4〜5年を要するのが通例」とも述べており、プロジェクトの全容公開までには相応の時間を要する見通しです。
SNKのIPには、『THE KING OF FIGHTERS』『餓狼伝説』『サムライスピリッツ』などの著名なタイトルが多数存在します。原田氏のノウハウがこれらのシリーズにどう活かされるかが、今後の注目点となります。
新規IP創出の可能性
一方で、完全新規IPへの挑戦という選択肢も排除されません。スタジオ名に冠された「Volition Shift(意志の転換)」という言葉は、既存の枠組みを超えた新たな試みへの意欲とも解釈できます。
既にSNKは、別ラインにおいて『龍虎の拳』や『サムライスピリッツ』の新作を国内スタジオで進行させているほか、株式会社アリカとのコラボレーションも継続しています。こうした現状を踏まえると、VS StudioはSNK IPを活用した新機軸のタイトル、あるいは独立した完全新作を担う可能性があります。
SNKの現状と提携の背景
株式会社SNKは2022年、サウジアラビアのEGDC(MiSK財団傘下)による買収を経て、業界内でも屈指の資金調達力を有するに至りました。しかし、近年のゲーム業界では、NetEase等の大手資本によるスタジオ閉鎖や投資縮小の事例が相次いでおり、資本側の経営判断によって開発ラインが急激な影響を受ける可能性については、依然として慎重な視線が注がれています。
特に注目されるのは、親会社の意向がゲーム内容にどの程度反映されるかという「クリエイティブの自律性」です。前作『餓狼伝説 City of the Wolves』におけるAI生成アートの採用や、クリスティアーノ・ロナウド氏の起用といった事例は、IPの伝統的な世界観と資本主導のプロモーション戦略との折り合いという、新たな課題を浮き彫りにしました。
原田氏が率いるVS Studio SNKが、こうした外部資本特有の投資継続性や、内容への介入リスクに対し、どのような独立性を維持できるかは極めて重要な焦点です。同氏の「開発者が最高の実力を発揮できる環境」という理念が、親会社の戦略的意向とどのように調和、あるいは距離を保っていくのか、その運営の舵取りが今後のスタジオの成否を分ける鍵となります。
まとめ
原田勝弘氏による株式会社VS Studio SNKの設立は、格闘ゲーム分野で長年の実績を持つクリエイターが、有力IPを保有するSNKと提携するという点において、極めて注目度の高い動向です。
同スタジオは設立から日が浅く、現在はチーム編成の途上にある段階です。原田氏はアクションおよび対人対戦(PvP)分野への継続的な関与を示唆していますが、具体的な計画については現時点では未定とされています。
「伝統に挑み、極限を創る」という理念がどのような形で結実するか、その全容が明らかになるまでには相応の時間を要する見通しです。公式サイトの本格的な公開が予定されている2026年6月以降、順次発表されるであろう続報が注視されます。


