
話題のインディゲーム「8番出口」を今更ながら購入し、前知識ゼロの状態でプレイ。わずか470円で味わえる、不気味な空間と無限ループの恐怖。その魅力は、極限まで無駄を削ぎ落としたゲームデザインにある。日本の地下鉄を模した空間で異変を探し、脱出を目指す本作は、シンプルながらも奥深い体験を楽しめます。
事前知識ゼロからスタート
話題のウォーキングシミュレーター「8番出口」は、2023年11月29日にSteamで配信開始後、Nintendo Switch、Meta Quest、PlayStation 4/PlayStation 5、そして2025年1月9日にはXbox版と、様々なプラットフォームで展開されています。筆者も470円という手頃な価格に惹かれ、本作を購入しました。
ゲームを開始すると、チュートリアルや説明は一切なく、プレイヤーは白いタイルに囲まれた地下通路に放り出されます。日本の地下鉄を彷彿させる空間は、どこか不気味でリアル。操作は方向キーでの移動と、移動速度を上げるボタンのみというシンプルな構成。
ルールが分からないまま進んでいくと、不気味な「おじさん」と何度もすれ違います。試しに後を追ってみたら、立ち止まってスマホを操作するだけで特に何も起こりません。どうやら「おじさん」とのコミュニケーションはなさそうです。

同じ通路を何度も往復するうちに、壁のポスターが変わっていたり、ドアを叩く音が聞こえたり、換気口から黒い液体が垂れてきたりと、環境が少しだけ変化しています。そこで初めて「これは間違い探しのゲームなのだ」と気づきました。異変を発見し、来た道を戻ると、出口の番号が増えています。ルールはシンプル。異変があれば引き返し、異変がなければそのまま進むことで、出口の番号を増えていき、「8番出口」にたどり着けばクリアとなるわけです。

何度か0番出口に戻されたけれど、無事に「8番出口」からの脱出に成功。エンディングはシンプルで、スタッフロールが流れたが、あまりに早く終わってしまい拍子抜けしました。プレイ時間は1時間もかからず、470円という価格を考慮しても、正直なところボリューム不足は否めない。しかし、このシンプルすぎるゲーム性こそが、「8番出口」の魅力であり、ヒットした理由の一つでした。

「8番出口」の特徴とリミナルスペースの魅力
「8番出口」の最大の特徴は、実際の地下鉄駅を忠実に再現したかのような、リアルな空間表現です。白いタイル張りの壁、点字ブロック、広告ポスター、防犯カメラなど、細部に至るまで丁寧に作り込まれています。このどこか不気味で奇妙な感覚を覚える空間は、近年「リミナルスペース」と呼ばれるようになりました。「リミナル」とは「境界の」という意味で、廊下や通路、駅、出入り口といった中間的な空間を指します。人工的でありながら不穏で不気味な感覚を与えるリミナルスペースは、SNSなどを通じて広く知られるようになりました。「8番出口」はこのリミナルスペースの持つ独特の雰囲気を巧みにゲームに取り入れているのです。
ゲームのルールを整理すると、異変を見つけたら引き返し、異変がなければそのまま進み、最終的に8番出口から脱出することが目的です。ゲーム内には数十種類の異変が用意されており、一目で分かるものから、注意深く観察しなければ気づかないものまで様々です。初回クリアまでのプレイ時間は約1時間、全ての異変を発見するには2時間程度とされています。このコンパクトなゲーム性には、開発者の明確な意図が込められていると考えられます。

開発者KOTAKE氏と開発秘話
「8番出口」を開発したのは、KOTAKE氏という日本人であり個人の開発者です。年齢は非公開。2018年から2022年までゲーム会社で3Dアーティストとして勤務し、「8番出口」の成功を機にKOTAKE CREATEとして独立しました。シンプルな操作性に焦点を当てた開発スタイルを持ち、Unreal Engine 5を用いて開発を行っています。
「8番出口」は、開発中の別タイトルの長期化を機に、短期間で制作可能な作品として企画されました。開発期間は約9ヶ月。地下通路の不気味さ、ループゲームへの関心、そして「I’m on Observation Duty」という監視カメラで異常を見つけるゲームから得たインスピレーションが、開発の原点となっています。特に、間違い探しとホラーの組み合わせに着目したことに大きな影響を受けたようです。
シンプルが生み出す無限の可能性
KOTAKE氏が開発した「8番出口」の意図は、単なる面クリア型のゲームを作るのではなく、低価格で多くの人にプレイしてもらい、話題性を喚起し、ユーザー自身による新しい遊び方を創造してもらうことにあったと考えられます。ステージ数や変化のバリエーションを増やせば、ボリュームやリプレイ性を高められたかもしれませんが、現在のシンプルなゲームの設計の方が、開発者が本当に表現したいものを実現し、それに共感した人たちに購入され、予想をはるかに超える成功を収めることができました。
「8番出口」のヒットにより、SteamやPS5などのプラットフォームでは類似の「8番出口ライク」なゲームが多数登場し、その影響力の大きさが伺えます。
「8番出口」は、シンプルでコンパクトなゲームデザインが持つ可能性を示す好例と言えるでしょう。プレイヤーが自ら遊び方を作り出すという創造性を引き出し、実況動画やRTA(リアルタイムアタック)での競争、SNSへの動画投稿といったコミュニティの形成を促進する力を持つこのゲームは、インディーゲーム開発において、必ずしも大規模なコンテンツが成功の鍵ではないことを示しています。
現在すでに「8番出口」の続編である「8番のりば」が、2024年5月31日にリリースされています。「8番のりば」では、舞台を電車内に移し、異変を探して対処するという内容になっており、「8番出口」とは異なる緊張感と面白さが味わえるとのことです。筆者も近いうちに「8番のりば」に乗車し、新たな異質な空間体験を楽しみたいと考えています。
情報元:8番出口(Wikipedia)