
ワーナー・ブラザースゲームズは近年、大規模な財務損失とプロジェクトの失敗に直面し、苦境に立たされています。「バットマン」や「ゲーム・オブ・スローンズ」など強力なIPを擁しながらも、そのポテンシャルを十分に活かせていません。同社の再建に向けては、リーダーシップの刷新、新たな成長戦略の策定、そして各スタジオの強みを最大限に引き出す開発体制の構築が急務となっています。
ワーナー・ブラザースゲームズは、2023年に3億ドルの損失を計上し、経営危機に直面しています。2024年1月には、ビデオゲーム部門の責任者デビッド・ハッダッド氏が退任を表明し、新たなリーダーシップの下で事業再建が進められることになりました。
深刻な財務状況と組織的課題
2023年、ワーナー・ブラザースゲームズは大作タイトルの不振により、段階的な減損を余儀なくされました。2023年5月には「スーサイド・スクワッド:キル・ザ・ジャスティス・リーグ」の失敗により2億ドル規模の損失を計上。その後、「ハリー・ポッター:クィディッチ・チャンピオンズ」と「マルチヴァーサス」の不振により、さらに1億ドルの減損を追加しました。
このような経営不振の背景には、ハッダッド氏の経営スタイルと組織的な課題がありました。ハーバード・ビジネス・スクール出身のハッダッド氏は、ゲーム業界での実務経験が少なく、製品開発に関する意思決定の遅さが指摘されていました。さらに、AT&Tによる買収やディスカバリーとの合併など、度重なる組織再編により、ゲーム開発への注力が散漫になっていたとされています。
リーダーシップの転換と新たな事業戦略
ワーナー・ブラザース・ディスカバリーの最高経営責任者デビッド・ザスラフ氏は、ゲーム事業が「潜在能力を大幅に下回っている」と認識しています。新たな戦略として、ディズニーのビジネスモデルを参考に、一部のフランチャイズの外部ライセンス供与を検討。これにより、開発リスクを軽減しながら、各スタジオの強みを活かした開発に集中できると期待されています。
個別スタジオの現状と課題
モノリス・プロダクションズ
2014年の「Middle-earth: Shadow of Mordor」で成功を収めた同スタジオは、その後新規IPの開発を試みましたが、経営陣の意向で既存フランチャイズへの転換を余儀なくされました。現在開発中の「ワンダーウーマン」は既に1億ドル以上のコストが発生しており、技術的な問題とリーダーシップの交代により、開発の遅延が続いています。
WB Games モントリオール
「Batman: Arkham Origins」の開発元として知られる同スタジオは、近年複数のプロジェクト提案が頓挫しています。コミック「コンスタンティン」を基にしたゲームの企画や、「フラッシュ」の開発も検討されましたが、いずれも実現に至りませんでした。過去2年間でリーダーシップの多くが離脱し、現在は「ゲーム・オブ・スローンズ」の新作開発を模索しています。
アバランチ・ソフトウェア
「ホグワーツ・レガシー」で3,400万本以上の売上を記録し、2023年最大のヒット作となりました。しかし、後続作の「クィディッチ・チャンピオンズ」は期待外れの結果となり、IPの持続的な収益化の難しさを露呈しました。現在は「ホグワーツ・レガシー」の追加コンテンツと続編の開発を進めています。
ロックステディ・スタジオ
「バットマン:アーカム」シリーズで高い評価を得た同スタジオは、マルチプレイヤー作品「スーサイド・スクワッド」への転換で苦戦。開発の途中でスタジオの主要メンバーが離脱し、結果として期待された成果を上げることができませんでした。現在は、得意分野であるシングルプレイヤーゲームに回帰し、新たなバットマン作品の開発を計画していますが、完成までには数年を要する見込みです。
今後の見通し
ワーナー・ブラザース・ディスカバリーの最高財務責任者(CFO)であるJBペレット氏は「2025年までに黒字転換を実現する」と述べており、2〜3年での収益回復を目指しています。しかし、エレクトロニック・アーツやテイクツー・インタラクティブとの競争が激化する中、成功への道のりは平坦ではありません。
短期的には、制作タイトルを厳選し、各スタジオの強みを活かした開発体制の構築が急務となっています。また、「ホグワーツ・レガシー」開発時のように、スタジオ間の協力体制を強化することで、開発リソースの効率的な活用を図る必要があります。
長期的には、外部ライセンス供与と自社開発のバランスを取りながら、強力なIPポートフォリオを活かした差別化戦略の確立が求められます。ワーナー・ブラザースゲームズが業界での競争力を取り戻せるかどうかは、これらの取り組みの成否にかかっています。
情報元:Bloomberg