
中国を代表するゲーム大手NetEaseは、ウィリアム・ディンCEOの主導のもと、収益性重視の経営再編を断行しました。2023年にはゲーム部門で約900名の従業員を削減し、約12のゲームタイトルを見直したほか、海外市場への投資戦略を大幅に変更しています。安定した収益基盤の確立と市場競争力の強化を目指す同社の戦略転換は、業界内外で注目を集めており、特に日本国内のスタジオへの影響が注視されています。
Bloombergの報道によれば、中国のゲーム業界大手NetEaseは、ウィリアム・ディンCEOの主導のもと、急速に変化する経営環境に対応するため、収益性を最重視した大規模な組織再編を断行しました。2023年には、ゲーム部門で約900名の従業員削減および約12のゲームタイトルの開発・運営縮小が実施され、従来の規模拡大戦略から、効率的な資源配分への転換が図られています。これにより、従来の巨額投資と海外展開戦略の見直しが求められる中、NetEaseは収益改善と市場競争力強化に向けた新たなフェーズに突入しました。
背景と経緯
NetEaseは長年にわたり、「Eggy Party」や大ヒット作「Marvel Rivals」など、世界市場で成功を収めてきました。特に「Marvel Rivals」は、既に4000万人以上の登録ユーザーを獲得し、リリースから短期間で2億ドルの売上を達成するなど、近年ではまれに見る大ヒットとなっています。昨年度、同社は総売上高116億ドルを記録するなど大きな実績を上げましたが、最新四半期では売上高が微増に留まり、粗利益が2.6%減少するなど、内部の収益構造の改善が求められている状況です。これを受け、ウィリアム・ディンCEOは短期的な業績回復と中長期的な経営基盤の強化を目指し、従来の投資戦略を再検討する決断に至りました。
経営再編の概要と戦略
今回の再編策では、まず収益に直結しないと判断されたプロジェクトへの注力を停止するため、2023年にゲーム部門で約900名の人員削減が実行されました。また、約12のゲームタイトルが閉鎖または一時休止となり、限られたリソースを収益性の高いプロジェクトへ再配分する狙いがあります。組織体制の刷新として、金融業界でのインターンシップや実務経験を有する20代の若手人材が、重要なゲーム部門の責任者として抜擢されるなど、大胆な人事改革も進められました。さらに、長年にわたり同社の幹部を務め、NetEaseゲームズの社長を歴任していたXiaojun Huiが1年以上前に管理職から退任するなど、経営陣の大幅な入れ替えも実施されています。ウィリアム・ディンCEOは、年間数億ドルの売上が見込めないプロジェクトからの撤退方針を明確に示し、収益性の高いゲームへの注力を強調しています。
海外展開の見直しと投資戦略の転換
2023年初頭以降、NetEaseは海外市場への投資戦略を大きく見直しています。注目すべきは、日本のOuka Studios、カナダのWorlds Untold、米国のJar of Sparksといった、数年前に設立された主要海外スタジオの閉鎖や業務停止が決定された点です。Worlds UntoldとJar of Sparksの閉鎖により影響を受けた従業員は60名未満とされています。例えば、桜花スタジオ(Ouka Studios)は、スクウェア・エニックス向けの新作「聖剣伝説 VISIONS of MANA」の開発中であったにもかかわらず、外部パブリッシャー向けの開発チームが不要と判断され、閉鎖に踏み切られました。また、「龍が如く」シリーズで知られる名越稔洋氏率いる日本のクリエイターチームに対しては、進行中プロジェクト完了までの期限が設定され、それ以降の追加資金提供や開発期間の延長は行われない方針が打ち出されています。なお、最近のアナリスト向け電話会議でディンCEOは、高品質なスタジオや優れたクリエイターへの支援は継続する方針を示しており、選択的な投資戦略への転換を図っています。
労働環境と組織文化の変化
労働環境に関して、一部の情報筋によると、ディンCEOは中国国内のスタッフに対し、昼食や短い休憩を含む勤務体制として午後9時までの勤務を推奨しているとされています。ただし、NetEaseの公式見解では「強制的な勤務時間の設定はなく、各部門が独自のペースで業務を進めている」と説明されています。この点は、効率性の追求と従業員の働き方のバランスの調整という課題を浮き彫りにしており、今後の改善策が注目されるところです。また、一部従業員からは、CEOが頻繁に方針を変更することや、ゲーム評価の基準が一貫性を欠くとの懸念の声も上がっています。
プロジェクト見直しと収益性重視の姿勢
「Marvel Rivals」の開発過程について、情報筋によれば、ディズニーとのキャラクター使用権に関する契約条件と支払いが問題となり、自社オリジナルのヒーローデザインへの転換が検討されたとされています。しかし、NetEaseの広報担当者はこの説明を否定しており、2017年以降、マーベルとは密接なパートナーシップを維持していると述べています。最近では、米国の「Marvel Rivals」クリエイティブチームの一部が組織的な理由により解雇されましたが、中国を拠点とする主要開発チームは継続して活動しているとのことです。
まとめと今後の展望
ウィリアム・ディンCEOが率いるNetEaseは、ゲーム部門での900名の人員削減、海外スタジオの見直し、投資戦略の転換といった一連の施策を通じ、経営の抜本的な見直しを実施しています。この戦略転換は、従来の規模拡大路線から、効率的なリソース配分と安定した経営基盤の確立への大きな方向転換を示しています。
この変革の狙いは、短期的な収益性の向上と、長期的な市場競争力の強化という二重の目標を達成することにあります。Tencent HoldingsやmiHoYoなど、強力なライバル企業がひしめくゲーム業界の中で、NetEaseが新たな体制と戦略でどのように存在感を示していくのか、その動向は業界内外から注目されています。今回の経営再編は、NetEaseの将来を決定づける転換点となるだけでなく、ゲーム業界全体の動向にも大きな影響を与えると見られ、今後の展開が注目されます。
情報元:Bloomberg