
任天堂は、次世代ゲーム機「Switch 2」の米国での予約開始を延期すると4月4日に発表。当初、4月9日に予定されていた予約受付は見送られ、新たな開始日は後日発表される予定。標準モデルの価格は約450ドル(約6万6000円)とされているが、トランプ政権による新たな関税措置が価格戦略に影響を及ぼす可能性が指摘されている。
4月4日、任天堂は米国におけるSwitch 2の予約注文開始を延期すると発表しました。当初4月9日に予定されていた予約受付は、新たな関税措置と市場の状況変化を見極めるため、延期されるとのことです。任天堂の広報担当者はGameSpotに対し、「関税と変化する市場状況がもたらす可能性のある影響を見極めるため、米国でのNintendo Switch 2の予約注文は2025年4月9日には開始いたしません。予約開始の時期については、改めてお知らせいたします。なお、発売日の2025年6月5日に変更はありません」とコメントしています。
この発表に先立つ4月3日、任天堂の広報担当者は関税の影響について「価格変更がある場合は発表する」と述べていました。翌4日の予約注文延期の発表は、関税がSwitch 2の価格に直接的な影響を与える可能性が高いことを示唆しています。現時点では、任天堂が本体価格やセット価格を見直すかどうかは不明ですが、関税の動向によっては価格改定も検討する必要があるかもしれません。
アナリストの見解:関税と価格戦略
業界アナリストの間では、関税が任天堂のビジネスに与える影響について様々な意見が出ています。Niko Partnersのアナリストであるダニエル・アフマド氏は、Switch 2の一部の部品が生産されているベトナムや日本などに対する関税の影響は避けられないと指摘しています。ただし、予約注文の延期発表前日の4月3日の時点では、アフマド氏は任天堂が関税を理由にSwitch 2の価格を引き上げるとは考えていませんでした。しかし、同氏はSwitch 2が2030年まで値下げされる可能性も低いと見ています。
アフマド氏は、「Switch 2の発表前に差し迫った相互関税の脅威により、任天堂は世界の他の地域に対しても価格の引き上げを検討せざるを得なくなるだろう」と述べ、特にベトナムと日本に対する関税が予想以上に高くなる可能性を示唆しています。(日本では、Switch 2の価格はより安価です。)関税措置が実際にどの程度の影響を及ぼすかは不透明であり、今後のトランプ政権の政策動向に左右される可能性もあると指摘されています。
Daniel Ahmad
@ZhugeEX
I think it’s difficult for them to raise it after announcing the price, but they may have no choice if the tariffs are significantly eating into margins.Or maybe Trump reverses the tariffs tomorrow, or maybe increases them again, or maybe… i dunno
ダニエル・アフマド
@ZhugeEX
価格を発表した後で値上げするのは難しいと思うが、関税が利益率を大幅に圧迫しているなら、選択の余地はないかもしれない。あるいは、トランプが明日関税を撤回するか、あるいはまた引き上げるか、あるいは…わからない
MST Financialのアナリスト、デビッド・ギブソン氏は、フィナンシャルタイムズに対し、任天堂が関税の影響を和らげるため、1月にベトナムから米国へ35万台以上のSwitch 2を先行して出荷したと語っています。同氏は、この動きが2月と3月のベトナムから米国への出荷量増加につながると予測しています。
アンペア・アナリシスのピアーズ・ハーディング=ロールズ氏は、任天堂がSwitch 2の価格を変更するのは早くても2026年になると予想しており、価格変更は「発売に大きな支障が出る」可能性があると指摘しています。同氏は、関税が継続する場合、2026年に値上げが検討される可能性に言及しつつも、米国市場の重要性を考慮して任天堂は慎重な姿勢を取ると見ています。ハーディング=ロールズ氏は、ハードウェアの利益率低下を、eショップ事業やゲーム内課金による収益拡大で補う戦略も考えられると分析しています。
また、同氏は、米国の輸入関税がゲーム機業界全体にとって脅威であり、ソニーやマイクロソフトも同様に懸念を持って状況を注視していると指摘。関税が、各社をデジタルコンテンツ重視へと移行させる可能性も示唆しています。
業界団体ESA(かつてE3を主催し、ワシントンD.C.でゲーム業界の利益を代表する団体)は、新たな関税がゲーム業界に「現実的かつ有害な影響」をもたらすと声明を発表しています。ESAの広報担当者は、ゲーム機は部品が複数の国から調達されているため、1台のデバイスに対して「多くの」関税が課される可能性があると述べています。
Circanaのマット・ピスカテラ氏は、関税とビデオゲーム業界への影響に関して、前例のない「混沌とした」状況であると指摘し、現時点では予測が困難であると述べています。「現時点では推測するしかありません。私たちは確かに未知の領域におり、次に何が起こるかは誰にも分かりません」と同氏は語っています。また、ピスカテラ氏は以下のようにも述べています。「私たちは、私たちの生涯でこのようなことが起こったのを見たことがありません。潜在的な影響を測るための最近のベンチマークはなく、次に何が起こるかを本当に知っている人はいません。」同氏は、発表された関税が金融市場に即時の影響を与えていること、そして関税の計算方法や適用方法が不確実であることを強調しています。ピスカテラ氏は、新たな関税や今後の追加関税が、米国市場の消費者向け製品全般、そして任天堂を含むゲーム業界全体に変化をもたらす可能性は十分にあると見ています。
米国内生産の可能性について
ネット上では、任天堂が関税を回避するためにSwitch 2を米国内で生産する可能性についての議論も見られます。トランプ大統領は、米国内の製造業を活性化させる目的で関税を導入していると説明しており、2024年の関税収入は800億ドル(約12兆円)に達しています。
しかし、アフマド氏は米国内での生産体制構築は現実的でないと指摘しています。「任天堂は米国に工場を開設するために数十億ドル(数千億円)を費やす必要があり、完成には4~5年かかるでしょう」と同氏は述べています。さらに、サプライチェーンの再構築や部品の調達(これらは米国外で製造されているため関税の対象となります)にも時間とコストがかかります。
また、米国の労働者には、ベトナムの労働者の10~15倍の賃金を支払う必要があるとも指摘しています。「初期投資、人件費、サプライチェーンのコスト、運営コストなどを合計すると、5年後に450ドル(約6万7500円)よりもはるかに高い価格で米国製のNintendo Switch 2を購入することになるでしょう。皮肉なことに、それらをすべて完了させる頃には、米国は新しい大統領を迎え、相互関税がすべて撤廃される可能性が高い」とアフマド氏は分析しています。
Switch 2が高価格となる要因
Kantan Gamesのアナリスト、セルカン・トト氏は、任天堂がSwitch 2の450ドル(約6万7500円)という価格設定を行う際に、関税の影響をある程度考慮した可能性を示唆しています。同氏は、価格高騰の背景には、世界的なインフレ状況や、ソニーが2024年にPS5 Proを700ドル(約10万5000円)という高価格で米国で販売する決定も影響している可能性があると付け加えています。
ソニーはPS5 Proについて、一般的な消費者向けではなく、最新最高のPlayStation製品を求める層をターゲットとしているため、価格設定における制約は少ないと説明しています。一方、Switch 2はより幅広い層へのアピールを目指しており、最先端のスペックを追求するユーザーだけを対象としているわけではありません。
トト氏は、関税はSwitch 2が高価格となる要因の一つかもしれませんが、根本的な理由はビジネス上の判断であると考えています。「任天堂がこの価格を設定しているのは、それが可能であり、人々が支払うだろうと感じているからだ」と同氏は述べています。
アナリストで教授のヨスト・ヴァン・ドリューネン氏も、Switch 2の450ドル(約6万7500円)という価格は、製造コストの上昇と関税をめぐる不確実性を考慮した結果であると分析しています。ハーディング=ロールズ氏は、現行モデルであるSwitch OLEDが350ドル(約5万2500円)で販売されていることを考慮すれば、450ドル(約6万7500円)という価格は妥当であるとの見解を示しています。
ハーディング=ロールズ氏はさらに、任天堂がNintendo Direct(4月2日に開催)で450ドル(約6万7500円)という価格を明確に示さなかったのは、他の価格帯も検討しており、差し迫った関税の影響を見極めるため、最終決定を直前まで保留しようとした可能性があると推測しています。
ピスカテラ氏は、新たな関税のもう一つの影響として、コンソール市場が引き続き高年齢層や高所得層の消費者にシフトする可能性があると指摘しています。
ゲーム価格の上昇傾向
Switch 2本体だけでなく、対応ゲームの価格も上昇する可能性があります。Switch 2のローンチタイトルとなる「マリオカート ワールド」のダウンロード版は80ドル(約1万2000円)で販売されます。これは、現在のAAAタイトルの標準価格よりも10~20ドル高い水準です。任天堂はこの価格設定について公式な説明や擁護を行っていませんが、ヴァン・ドリューネン氏は、任天堂は綿密な市場調査を行い、マリオカートの熱心なファンであれば、「以前の作品と比較して大幅に拡張された体験に対して、より高い価格を受け入れるだろう」と判断したと分析しています。各オンラインメディアの早期ハンズオン体験によれば、「マリオカート ワールド」は「マリオカート8」から大幅な進化を遂げているようです。
英国の小売業者Gameのニック・アラン氏は、マリオカート ワールドの価格上昇は「高く見える」とThe Game Businessに語りつつも、インフレを考慮すれば、ビデオゲームは30年前の方が実質的には高価だったことを指摘しています。1996年に発売されたN64版「マリオカート64」の価格は60ドル(約9000円)でしたが、現在の価値に換算すると100ドル(約1万5000円)以上になります。アラン氏は、コストの上昇によりビデオゲームは「より高価になる必要がある」と述べ、任天堂が価格改定の先駆けとなるのは「大胆」であるとしながらも、「そうなる必要がある」と認めています。
ピスカテラ氏の視点からは、関税とそれがゲーム価格に与える影響に関して最も可能性の高いシナリオは、価格の上昇です。ただし、その変化は「一貫性や普遍性がないかもしれない」と指摘しています。同氏は、消費者が食料品などの生活必需品の価格上昇に対応するため、基本プレイ無料のライブサービス型ゲームにさらに移行すると予測しています。また、ゲームの物理版はデジタル版よりも高価格になる可能性があり、物理ソフトウェアの販売減少がさらに加速する可能性も示唆しています。
任天堂は過去、競合他社とは異なる戦略を採用してきたことで知られています。例えば、同社はメーカー希望小売価格を下げることに非常に消極的です。「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」のメーカー希望小売価格は依然として60ドル(約9000円)に設定されています。
Switch 2の販売予測
Circanaの予測によると(The Game Business報道)、任天堂は2025年末までに米国で430万台のSwitch 2を販売すると見込まれています。Niko Partnersは、同期間の世界出荷台数を1450万台と予測しています。一方、Ampere Analysisは、2025年の世界販売台数を1300万台、2026年末までに3100万台に増加すると予測しています。
比較として、初代Switchは発売後最初の1年間で世界で1779万台を販売しました。この数字を考慮すると、Switch 2の販売ペースは初代Switchを下回ると予想されており、これは業界専門家の間で以前から指摘されていたことです。
Nintendo Switch 2は2025年6月5日に世界で正式発売される予定です。日本国内では、抽選販売の受付が4月4日(金)から4月16日(水)まで行われ、抽選結果の発表は4月24日(木)の午後以降を予定しています。その後、4月24日から一般予約が開始される予定です。
日本語対応の専用モデルはメーカー希望小売価格49,980円(税込)、人気タイトル『マリオカート ワールド』とのセット版は53,980円(税込)で販売されます。また、多言語対応版はネット販売専用で69,980円(税込)となる予定です。この価格設定は旧モデルや競合製品との比較からも注目を集めており、今後の情報公開にも期待が寄せられています。
※本記事内の日本円価格は、2025年4月5日時点の1ドル=150円のレートで換算したものです。実際の販売価格とは異なる場合があります。
情報元:GAMESPOT