
マイクロソフトが、全従業員の約4%にあたる最大9100人の人員削減を発表。ゲーム部門も例外ではなく、「キャンディークラッシュ」のKingや「Fallout」のZeniMaxも対象です。好業績の裏でリストラを進める背景やフィル・スペンサーCEOが語る成長戦略など、巨大テック企業の決断がゲーム業界に与える影響とは。
マイクロソフト全社で9100人規模の人員削減を発表
マイクロソフトは、全社で最大9,100人規模の人員削減を発表しました。これは同社の全従業員約228,000人の約4%に相当する規模で、今年に入り2度目の大規模な組織再編(事業構造の見直しや効率化を目的とした企業変革)です。この削減は特定の部門に限らず、役職、チーム、地域、勤続年数を問わず広範囲に及びます。中でも、700億ドル規模の買収で傘下に収めたアクティビジョン・ブリザードを含むゲーム部門(Microsoft Gaming)が特に大きな影響を受ける見込みです。
この大規模な人員削減は、同社が直近四半期に647億ドルの売上を記録し、前年同期比15%の成長を達成するなど好調な業績を背景に行われたもので、その対照的な動きが注目されています。通期では2,451億ドルの売上高を達成し、前年同期比16%の成長を遂げ、同社はすべての事業部門で成長を記録していると株主に報告していました。
ゲーム部門への影響:King、ZeniMaxも削減対象に
人員削減の波は、マイクロソフトのゲーム事業の中核を担うスタジオにも及んでいます。世界的に人気のモバイルゲーム「キャンディークラッシュ」を開発・運営するKingでは、従業員の約10%にあたる約200人が削減対象です。また、「Fallout」や「The Elder Scrolls」シリーズで知られるベセスダ・ソフトワークスの親会社であるZeniMax Mediaでも、ロンドンおよび米国メリーランド州ロックビルのマーケティング部門を中心に人員削減が実施されています。
これらのスタジオは、近年の大型買収によってマイクロソフトファミリーに加わったばかりでした。特にKingを傘下に収めるアクティビジョン・ブリザードの買収は、規制当局との厳しい交渉を経て2023年10月に完了したばかり。その直後のリストラは、ゲーム業界に大きな衝撃を与えています。
マイクロソフトのリストラは、ゲーム業界全体にも影響を及ぼす可能性があります。ソニーやNintendoといった競合他社も、コンソール市場の成長鈍化や収益性向上の圧力に直面しており、同様のリストラや戦略見直しを迫られるかもしれません。この動きは、業界全体でのコスト削減や新たなビジネスモデル(例:クラウドゲーミングやサブスクリプションサービス)へのシフトを加速させる可能性があります。
フィル・スペンサーCEOが語る:将来を見据えた戦略
好調な業績が報告される中で、なぜ大規模な人員削減が必要なのでしょうか。マイクロソフト ゲーミングのCEOであるフィル・スペンサー氏は、社内向けのメッセージでその意図を説明しています。
スペンサー氏は、「ゲーム事業の永続的な成功を確実にするため、また戦略的な成長分野に集中するため、一部の事業領域を終了または縮小します」と述べ、今回の決定が将来の成功に向けた「厳しい選択」であることを強調しました。さらに、「経営層を減らすことで、組織の俊敏性と効率性を高める」というマイクロソフト本社の方針に沿った決定であると付け加えています。
スペンサー氏の言葉からは、現在の成功に安住せず、将来の市場変化を見据えて事業構造を再定義しようとする強い意志がうかがえます。同氏は「我々は成長している分野を守り、最も大きな可能性を秘めた領域に注力する」と述べ、最も成長が見込める分野にリソースを集中投下し、企業として期待される収益性を確保する「選択と集中」の戦略を加速させています。
スペンサー氏はさらに、「我々のプラットフォーム、ハードウェア、そしてゲームのロードマップは、かつてなく強力です」と事業の将来性に強い自信を示しつつも、「将来の継続的な成功のために今、選択をしなければならない」と述べ、長期的な視点での戦略的判断であることを強調しました。
繰り返されるリストラと業界の構造変化
マイクロソフトにおける大規模な人員削減は、今回が初めてではありません。2023年には約10,000人、2024年に入ってからも1月にアクティビジョン・ブリザードとXboxで1,900人、5月には複数のゲームスタジオ閉鎖を伴う追加の人員削減、6月にはHoloLensやAzureクラウド部門で1,000人、9月にはXbox部門でさらに650人と、断続的にリストラが繰り返されています。
これらの動きは、同社が「メタバース」のような流行から距離を置き、生成AI(人工知能によるコンテンツ生成や自動化技術)などの新たなテクノロジーに経営資源をシフトさせていることと無関係ではないでしょう。元マイクロソフトCEOのビル・ゲイツ氏が「AIは人間をほとんどの業務で代替する」と発言しているように、AI技術の進化が人員配置に大きな影響を与えている可能性があります。
マイクロソフトは早期からOpenAIに投資し、ChatGPTの成功によってAI競争での地位を確立しましたが、同社のCopilotサービスはOpenAIのChatGPTに対して苦戦を強いられています。GoogleやMetaが自社開発のAIモデルで前進する中、マイクロソフトはOpenAIへの依存度を下げる交渉を進めており、自社AI戦略の再構築が急務です。
また、Xbox部門はアクティビジョン・ブリザード買収後、経営陣から収益性向上への強いプレッシャーを受けていると報じられています。コンソール(家庭用ゲーム機)のハードウェア販売が伸び悩む中、「Sea of Thieves」や「Gears of War」といった主力タイトルをライバル機であるPlayStation 5向けに展開するなど、事業モデルの転換も図られています。
未来への布石か、それとも変革の痛みか
今回の人員削減は、マイクロソフトゲーミング部門において過去18ヶ月間で4度目の大規模リストラとなります。従業員の間では5月から削減の可能性が議論されており、多くのスタッフが削減を予期していた状況でした。
マイクロソフトは、影響を受ける従業員に対し、各国の法律に準拠した退職金、医療保険の継続、再就職支援などを提供するとしています。さらに、削減対象となった従業員がマイクロソフトゲーミング内の他のポジションに応募する際には、優先的に審査を受けられるよう配慮する方針です。このような支援策は、従業員への配慮を示すものであり、企業の社会的責任を果たす姿勢を強調しています。
スペンサー氏は従業員向けメッセージで、「我々の勢いは偶然ではなく、チームによる長年の献身的な努力の結果です」と述べ、削減対象となる従業員の貢献を認めつつも、「今回の決定は、関わった人々の才能、創造性、献身を反映するものではありません」と強調しました。
今回の決定は、巨大テック企業が激しい市場競争と技術革新の波を乗り越えるために不可欠な変革の痛みなのかもしれません。時価総額3兆3,600億ドルを誇る同社が進める「選択と集中」が、ゲーム業界、そしてテクノロジー業界全体の未来にどのような影響を与えるのか、引き続き注視が必要です。