
エレクトロニック・アーツ(EA)のオンラインマルチプレイヤーアクションRPG「Anthem」が2026年にサービスを終了します。サーバー停止後はプレイ不可となるため、ファンはオフライン対応を要求。この問題は、購入したデジタルゲームを将来も遊べるかという「所有権」の課題を浮き彫りにしています。
エレクトロニック・アーツ(EA)と開発を手がけたBioWareは、オンラインマルチプレイヤーアクションRPG「Anthem」のサービスを2026年1月12日で終了することを発表しました。2019年のリリースから約7年、大きな期待と共に多くの課題も抱えてきた本作の歴史が、ついに幕を閉じます。
サービス終了の内容と影響
発表によると、サーバーは2026年1月12日まで稼働し、プレイヤーは同日までオンラインプレイが可能です。ただし、ゲーム内通貨の新規購入はすでに停止されており、利用できるのは手持ちの残高のみとなります。
また、「Anthem」は2025年8月15日にEA Playの対象タイトルから外れる予定です。購入済みのユーザーは、その後もサーバー閉鎖までデジタルライブラリからのダウンロードとプレイを継続できます。
EAは公式FAQにて「本作はオンライン専用のため、サーバー停止後はプレイできなくなります」と明記しています。なお、この決定に伴う開発チームの人員削減はないとのことです。
期待と挫折の歩み
「Anthem」は、美しいビジュアルと「ジャベリン」による爽快な飛行体験を特徴とし、発売当初は大きな注目を集めました。しかし、コンテンツ不足、単調なミッション、技術的な問題などが指摘され、評価を伸ばすには至りませんでした。
本作の開発にはBioWareの他プロジェクトからリソースが大幅に割かれ、「Dragon Age」「Mass Effect」といった人気シリーズの続編開発にも影響が及びました。ストーリー主導型RPGを得意とする同社にとって、サービス型ゲームである本作の開発は困難を伴い、「Anthem」はEA傘下で直面した課題を象徴する作品となりました。
一時は「Anthem 2.0」と通称される大規模な改修で再起が期待されましたが、この計画も2021年に中止。その後は大きな更新がないまま運営が続いたものの、ついにサービス終了という判断が下されました。
ファンが求める「オフライン化」と過去の成功事例
今回の発表を受け、ファンからはサービス終了を惜しむ声と共に、サーバー停止後もプレイを可能にする「オフラインモード」の実装を求める切実な声が上がっています。
海外掲示板Redditでは、「オフラインモードかP2P接続(※)を可能にしてほしい」という投稿が多くの支持を集め、「開発チームの努力の結晶が失われ、誰も楽しめなくなるのはやるせない」といった声も上がるなど、コミュニティの深い失望がうかがえます。
EAの公式フォーラムでは、さらに踏み込んだ議論がなされています。あるユーザーは「返金もなく購入したゲームをプレイ不能にすることは、憂慮すべき危険な前例であり、断固反対すべきだ」と述べ、デジタルコンテンツの所有権の問題を鋭く指摘。続けて「購入したゲームは、古くても更新されなくてもプレイできるべきだ」と主張しています。
さらに、具体的な解決策として、他のゲームの成功事例を挙げる声も出ています。同じくEAが販売したドッジボール風対戦ゲーム「Knockout City」は、サービス終了後、ユーザーがプライベートサーバーでプレイを続けられる無料のPC版をリリースしました。この対応はファンから高く評価されており、「Anthem」のコミュニティでも「『Knockout City』のような救済策があれば素晴らしい」と、同様の措置を望む声が上がっているのです。
(※)P2P接続:Peer-to-Peerの略。サーバーを介さず、ユーザー間で直接データをやり取りする通信方式。
オフライン化の実現性と課題
しかし、ファンのこうした要求にEAが応える可能性は低いと見られています。あるRedditユーザーは、「オフラインプレイを適切に実装するには、大規模なアップデートと相当な開発時間が必要」「(コミュニティからの)好感度を得る以外に、企業側の利益はゼロだ」と述べ、商業的な採算が取れない点を指摘します。
また、別のユーザーも「残念ながら、このゲームはオンライン専用として設計されている。誰かがサーバーを自己ホストする方法を見つけない限り、これで終わりだ」と、技術的な壁の高さを指摘しています。
問われるデジタル時代の「所有権」
「Anthem」の一件は、パッケージ販売からダウンロードやサービス型のゲームが主流となった現代において、プレイヤーが持つ「権利」とは何かを問いかけています。これは「Anthem」に限った話ではなく、ゲーム業界全体が直面する課題です。
こうした状況を背景に、「Stop Killing Games(ゲームを殺すな)」と呼ばれる消費者運動は、EUで100万人以上の署名を集めるなど大きな広がりを見せています。反発に直面しながらも、その勢いは衰えていません。
今回の件は、ユーザーがゲームソフトを購入したと思っても、実際にはサービスへの「利用権」を買っているにすぎない、という現実を浮き彫りにしました。サービス終了によって購入した製品の価値が失われることへの懸念は、今後さらに高まるでしょう。
結論
EAは現在のところ、「Anthem」を2026年1月12日のサービス終了後もプレイ可能にする計画を発表していません。これまでの公式発表でもサーバー停止後はアクセス不能になると強調されており、最終的なアップデートが行われる可能性は極めて低いと見てよいでしょう。
今回のサービス終了は、デジタル時代における「所有」の意味を問い、プレイヤーとパブリッシャー(販売元)の関係に新たな議論を投げかけています。「Anthem」の事例は、今後のゲーム業界における消費者権利の保護と、持続可能なデジタルコンテンツのあり方を考える上で、重要な事例となるでしょう。
情報元:TheGamer