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「No Rest for the Wicked」のXbox版が後回し ― その背景にある市場と事情

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「Ori」シリーズで知られるMoon Studiosが、新作「No Rest for the Wicked」でPS5/Switch 2版の開発を優先すると表明。背景には販売台数の差という市場環境や、開発効率化という課題があります。かつてXboxの有力パートナーだった同スタジオの戦略転換は、現代のプラットフォーム戦略の現実を表しています。

戦略転換が示す市場の現実

かつて「Ori」シリーズでMicrosoftのXboxプラットフォームと強固なパートナーシップを築いてきたMoon Studios。同スタジオが、期待の新作アクションRPG「No Rest for the Wicked」でこれまでの流れに逆らう方針を打ち出し、業界に波紋を広げています。

スタジオCEO自らが明かしたところによると、コンソール版のリリースはPlayStation 5(PS5)と任天堂の次世代機が優先され、Xbox版は後回しになる可能性が高いといいます。この決断の背景には、現代のコンソール市場が抱える厳しい現実と、独立系スタジオならではの切実な開発事情があります。

普及台数が示す「選択の理由」

この方針が明らかになったきっかけは、Moon StudiosのCEO、Thomas Mahler氏によるDiscordでの発言でした。「現在の市場状況を鑑みると、当面はPS5、そして可能性としてSwitch 2のみでリリースするかもしれない」と述べ、さらに「Xboxにとって何が合理的か、Microsoftと話し合う必要がある」と続けたのです。

この発言に対し、一部で「Xbox版はキャンセルされるのでは」との憶測が流れましたが、Mahler氏はすぐにX(旧Twitter)で補足しました。「最終的にはすべてのプラットフォームでリリースするつもりだが、おそらく同時にはならないだろう」と述べ、Xbox版の発売自体は否定しませんでした。しかし、その上で「数字を見れば、現時点ではPS5が最も合理的だ」と明言し、PS5を最優先する姿勢を明確にしたのです。

氏が言及した「数字」とは、各プラットフォームの普及台数を指します。PS5の世界販売台数が8,000万台に迫る一方、Xbox Series X/Sはその半分以下と推定されています。リソースが限られる独立系スタジオにとって、より大きな市場を優先するのは、ビジネスとして極めて合理的な判断と言えるでしょう。

開発効率とリソースの最適化

市場規模だけでなく、開発面の課題もXbox版の優先順位に影響しています。「Microsoftへの揺さぶり(shakedown)では」という一部ファンの批判に対し、Mahler氏は海外フォーラムで詳しく反論。「これは陰謀論ではなく常識だ」と述べ、技術的・戦略的な理由を説明しました。

Mahler氏によると、スタジオの最優先事項は、コミュニティからの要望が特に多い協力プレイ(Co-Op)モードの早期実装です。また、アーリーアクセスから正式版への移行を早めることで、コンソール版をリリースする際の制約を避けたいという考えも明かしました。

これらの目標を迅速に達成するには、開発リソースの集中が不可欠です。そこで課題となるのが、Xboxプラットフォーム特有の要件でした。Xbox向けにリリースする場合、高性能なSeries Xと性能の異なるSeries Sの両方に対応し、最適化しなくてはなりません。Mahler氏は、この2モデルへの対応が、PS5/PS5 Proへの移植と比べてより多くの時間とリソースを要すると指摘しています。

氏は「我々は80人を超える独立系スタジオだがリソースは限られており、望む品質でのコンソール移植は簡単ではない」と説明。その上で、まずはユーザー数が最も多いプラットフォームに注力し、その後に他のプラットフォームへの移植を進めるという戦略を明かしました。

変化したMicrosoftとの関係性

今回のMoon Studiosの決定が特に注目される背景には、同スタジオがXboxの成功へ大きく貢献してきた歴史があります。「Ori and the Blind Forest」(2015年)は当時苦戦していたXbox Oneを牽引する代表作となり、続編の「Ori and the Will of the Wisps」もXbox Series X/Sのローンチ期を支える重要な作品でした。両作とも後にNintendo Switchへ移植されましたが、PlayStationプラットフォームではリリースされていません。

こうした歴史を知るファンにとって、新作でPS5を優先するという方針はまさに正反対の展開であり、スタジオとMicrosoftの関係性の変化を象徴する出来事と言えるでしょう。

その背景には、Game Passでの展開やMicrosoftからの資金提供といった、以前のような手厚いサポートがなかった可能性が考えられます。事実、Moon Studiosは2024年3月にパブリッシング権を取得して「完全に独立した」スタジオになったと発表しています。この独立が、市場環境や開発効率をよりシビアに優先する今回の意思決定を後押しした可能性は高いでしょう。

業界全体への影響とMicrosoftの課題

Microsoft自身もこの課題を重く受け止め、2024年秋には開発者向けブログで、Xboxに参入しない理由について業界からのフィードバックを募っています。「もしあなたがビデオゲームを制作しているなら、我々はあなたの声を聞きたい。(中略)もし競合他社の製品を使用しているなら、我々が学ぶべき素晴らしい視点を持っているはずだ」という呼びかけからは、同社のプラットフォームとしての危機感がうかがえます。

この一件は、単なる一作の発売順の問題ではありません。プラットフォーム間の販売台数の差が、サードパーティ、特に独立系スタジオの開発戦略に直接影響を及ぼし始めているという、現代ゲーム業界が抱える構造的な課題を浮き彫りにしているのです。

開発者がどのプラットフォームを選び、リソースを投下するのか。その判断基準が「普及台数」や「開発のしやすさ」という現実的な指標にますます集約される中、各プラットフォームホルダーには、開発者にとって魅力的な環境を提示できるかが、これまで以上に問われています。

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情報元:KOTAKU

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