
「Horizon」シリーズの新作MMORPG「Horizon Steel Frontiers」が、なぜPS5ではなくPCとモバイルで登場したのか。その背後にあるソニーのモバイル・GaaS戦略を分析。NCSoftとの提携意図や、異なるゲームエンジンがもたらす技術的課題、想定される課金モデル、そしてSIEが描くIP拡張の未来とは?
長らく噂されてきた「Horizon」シリーズのマルチプレイヤー展開が、ついに現実となりました。ただしサプライズ発表された「Horizon Steel Frontiers」は、多くの予想を覆すものでした。
本作はシリーズ初の本格MMORPGでありながら、開発はゲリラゲームズではなく「リネージュ」などで知られる韓国のNCSoftが担当。さらに対応プラットフォームはPCとモバイルに限定され、PlayStation 5版の存在が示されなかった点が注目を集めています。
この決定は単なるスピンオフ展開にとどまらず、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が自社IPをどのように拡張し、新たな収益モデルを模索しているかを示す象徴的な動きといえるでしょう。
IP解放とグローバル戦略
SIEが自社の人気IPをPCへ展開し、マルチプレイヤー化を推し進めていることはすでに広く知られています。今回の「Horizon Steel Frontiers」発表は、その潮流がモバイル市場へ本格的に踏み出したことを明確に示しました。直前には「ラチェット&クランク」のモバイル向けマルチプレイヤー企画も報じられており、これらの動きは共通する戦略軸に基づいています。
この背景には、成熟したコンソール市場に加え、より多様な層へのリーチを狙うSIEの中長期戦略があります。特にNCSoftとの提携は、巨大なモバイル市場とオンラインRPG文化を持つアジア圏への進出を見据えた布石と考えられます。
またゲリラゲームズ自身も別のマルチプレイヤー版「Horizon」を開発中と報じられており、外部パートナーによる迅速なモバイル展開と、自社開発によるAAA級コンソール体験という二重構造を取っている可能性があります。
MMORPGとしてのゲーム内容
公開映像では、機械獣に支配された大地や、象徴的な「トールネック」といったシリーズを象徴する要素が確認できます。プレイヤーは創造したキャラクターで部族の一員となり、仲間と協力して巨大な機械生物を狩ることになります。
数千人規模でサーバーを共有する設計が示唆されており、PvPや部族間の競争要素が導入されるとの見方もあります。ただし、プレイヤー同士の遭遇形態やPvPシステムの詳細はまだ明らかになっていません。いずれにせよ、協力的な狩猟プレイが中心となり、単独での大型機械討伐は難易度が高いと予想されます。
戦闘テンポはシングルプレイ作品より速く、操作も簡略化されています。これはモバイル環境や多数プレイヤーとの同時進行を想定した最適化の結果と見られます。
映像内では、「モンスターハンター」を想起させるハブエリアの存在も確認できましたが、その機能や交流要素については今後の発表を待つ必要があります。
モバイルファースト設計の期待と懸念
本作には、新たな挑戦ゆえの不明点と懸念もいくつか挙げられます。
第一に、ゲームプレイ全体の構造がまだ不透明なことです。ハブエリアでの活動や、狩猟以外のコンテンツがどのように構成されるかといった設計思想は、現時点で明確になっていません。
第二に、「モバイル向けを前提とした設計」がPC版体験にどう影響するかです。モバイルファーストのタイトルは操作性やシステムの深度が抑えられる傾向があり、PCユーザーが求める重厚なMMORPG体験とのバランスが注目されます。
第三に、キャラクターデザインとビジネスモデルの方向性です。映像では原作の部族的な世界観よりも、スタイリッシュでビジュアル重視のキャラクターが登場しており、これは新規市場への訴求を意識した可能性があります。NCSoftの過去作「リネージュ」シリーズなどに見られるような、キャラクターの成長や外見に関連するアイテムを中心とした課金モデルが導入される可能性も考えられます。この新しいアートスタイルとビジネスモデルが、既存ファンの印象とどのように融合するかは、今後の課題となるでしょう。
PS5版不在の理由と障壁
ファン最大の関心事であるPS5版の不在には、明確な理由が考えられます。
- 技術的な壁:異なるゲームエンジンの障壁:
最大の障壁は、開発エンジンの違いです。ゲリラゲームズの「Horizon」本編は、美麗なグラフィックと広大なオープンワールドを実現するために最適化された独自エンジン「Decimaエンジン」を使用しています。一方、NCSoftは本作の開発に、オンラインマルチプレイの実績が豊富な「Unreal Engine 5」を採用していると見られています。これら異なるエンジン間で、アセットやネットワークアーキテクチャを統合し、PS5に最適化するには膨大な開発コストと時間が必要となります。これが、迅速なコンソール展開を困難にしている最大の技術的要因と考えられます。 - 商業的な壁:段階的な市場投入戦略:
SIEは、まずPC/モバイル市場、特にアジア圏で本作を成功させ、GaaS(ゲーム・アズ・ア・サービス)としての収益基盤を確立することを優先している可能性があります。その上で、市場が成熟した後にPS5版を投入するという、段階的なリリース戦略を描いているとも推測できます。
結論とIP戦略の未来
「Horizon Steel Frontiers」はまだプレアルファ段階ですが、その存在が示す方向性は鮮明です。SIEは、ハードウェアの枠を超えたIP活用を本格化させ、GaaSの主戦場であるPC・モバイル領域への展開を強化しようとしています。
この流れが「God of War」や「Marvels Spider-Man」など、他の主要IPにも波及する可能性も期待されます。SIEが自社のフランチャイズを「ハード中心」から「プラットフォーム横断型」へと転換できるか―その答えの一端が、この新作に託されています。



