ビデオゲーム業界では、労働者の権利を守るための労働組合結成が活発化しています。Bethesda Game StudiosやBlizzard Entertainmentといった大手ゲームスタジオの従業員が相次いで労働組合を立ち上げ、労働環境の改善や、職場におけるより公平な決定権を求める声として、業界全体が注目しています。
2024年、ゲーム業界は大きな転換点を迎えています。Microsoft傘下のBethesdaとBlizzardで新たに設立された労働組合が、その変革の象徴となっています。これまで労働組合化が難しいとされてきたゲーム業界で、労働者の権利向上に向けた動きが本格化しています。
Bethesda Game Studiosの労働組合結成
Bethesda Game Studiosでは、241人のスタッフが労働組合を結成しました。この動きは、Microsoftによる買収後、Bethesdaのスタジオで初めて結成された労働組合となります。Bethesdaのスタッフは、アメリカ通信労働者組合(Communication Workers of America〈以下CWA〉)の下で労働組合を形成し、米国内の複数のBethesdaスタジオが組合化されました。アーティスト、エンジニア、プログラマー、デザイナーなどの職種を含むメンバーが組合認証カードに署名し、大規模な労働組合が誕生しました。
CWAのメンバーであり、シニアシステムデザイナーのMandi Parker氏は、「私たちはBethesda Game Studiosで労働組合を結成し、ビデオゲーム業界全体に広がる運動に参加することを大変喜んでいます。職場に民主主義を導入し、仕事上の発言権を確保することから、すべての労働者が利益を得られることは明らかです。私たちは、公正な契約を獲得し、私たちの団結が労働条件や生活、そして会社全体を積極的に形成するための実際の力の源泉であることを証明するために、具体的な行動に取り組むことを楽しみにしています」と述べています。
Blizzard Entertainmentの労働組合結成
Blizzard Entertainmentでは、500人以上のスタッフがWorld of Warcraft Gamemakers Guild(WoWGG)という労働組合を結成しました。この労働組合はCWAとの提携のもとで形成され、Blizzard社初の全社的な労働組合となりました。QA、アート、サウンド、デザイン、エンジニアリング、プロダクションなど、複数の部門にわたるメンバーが含まれています。
World of Warcraftのシニアプロデューサー、Samuel Cooper氏は次のように語っています。「Blizzardは業界で大きな影響力を持つ有名企業です。私たちは素晴らしいゲームを作り出してきました。長年にわたり成功を収めている大規模なゲームプロジェクトで、開発に関わるすべての部門が一丸となって労働組合を結成できたことは大きな意義があります。デザインやプロダクションだけでなく、エンジニアリングやアート、品質保証部門も含めて、全ての開発者が対等なパートナーとして扱われることが重要です。この動きが業界全体でのパラダイムシフトの始まりとなることを期待しています。」
Cooper氏はさらに、Blizzard社とBethesda社のスタッフ間で労働組合結成に向けて、和やかな競争があったことに触れ、次のように付け加えました。「私たちは、誰が先に労働組合を結成するかを友好的に見守っていました。Bethesdaに先を越されましたが、むしろ嬉しく思います。彼らの成功を心から祝します。」
Microsoftは声明で、「従業員が職場での代表者を選ぶ権利を引き続き支持し、CWAとの誠実な交渉を通じて、団体交渉協定の締結に向けて取り組んでいく」と表明しました。労働組合の次のステップは会社との契約交渉であり、これにより従業員に提供される具体的な保護内容が決定されます。この動きは、ゲーム業界全体に大きな影響を与える可能性があります。
背景と経緯
ゲーム業界における労働組合化の動きは、長年続いてきた労働条件の改善を求める声の高まりから発端を迎えました。特に、Activision Blizzardでの労働環境問題やハラスメント問題が明るみに出たことをきっかけに、労働者たちの間で組合結成の必要性が切実に感じられるようになりました。
2022年、MicrosoftがActivision Blizzardを買収する交渉を進める中、CWAとの間で、労働組合結成に対して中立的な立場を取るという画期的な合意が結ばれたことは、この動きを大きく後押ししました。この合意により、Microsoftは労働組合結成の活動を妨げないことが義務化されたのです。
この取り組みは、当初は元Activision Blizzardの従業員に限定されていましたが、その後、Zenimaxの従業員にも広がりを見せ、その輪はますます拡大の一途を辿りました。その結果、BethesdaとBlizzardで労働組合が設立され、ゲーム業界における労働者組織としては異例の規模にまで成長を遂げました。
労働組合の重要性と課題
労働組合の設立は、ゲーム業界における労働者の権利向上に向けた大きな一歩となりました。しかし、真の試練はこれからです。労働組合が、労働者のためにどれほどの成果を上げられるかが、今後の労働組合化の動きを大きく左右するでしょう。特に、Microsoftとの団体交渉でどのような成果を収めるかが注目されます。
労働組合が目指す主な目標は、賃上げ、退職金制度の改善、ハラスメント対策の強化、医療保険や休暇などの福利厚生の充実です。これらの項目は、初期の労働協定に盛り込まれることが期待されます。しかし、より重要な課題として、レイオフ(人員削減)対策の強化、過重労働の是正、リモートワークの推進などが挙げられます。
特に、レイオフ対策と過重労働の是正は、企業側との交渉が難航することが予想されます。これらの問題は、企業が柔軟な人員配置を行うための制約となるため、労使間の意見対立が避けられない可能性があります。しかし、これらの問題を解決できれば、労働者の働き方や生活の質が大きく改善されるでしょう。
今年初めにMicrosoftがゲーム部門で大規模な人員削減を実施し、5月にはBethesda傘下の複数のスタジオを閉鎖したことを受け、労働者の不安は高まっています。このような状況下で、新たに結成された労働組合は、他の大規模スタジオにとっても重要な先例となることが期待されています。
今後の展望
ゲーム業界における労働組合化の成功は、他の企業にも大きな影響を与えるでしょう。Microsoftとの交渉で労働組合が成果を上げることができれば、他の企業でも労働組合化の動きが加速する可能性が高まります。逆に、十分な成果を上げられなければ、労働組合化の勢いは衰えてしまうかもしれません。
労働組合の成功には、労働者の一体感と継続的な努力が不可欠です。労働者が団結し、自分たちの権利を守るために声を上げ続けることが重要です。そのためには、労働組合が透明性を確保し、労働者の意見を積極的に反映することが求められます。
Microsoft傘下のBethesdaとBlizzardで労働組合が設立されたことは、ゲーム業界における労働者の権利向上に向けた大きな一歩です。しかし、今後の課題も多く残されています。労働組合がどれだけの成果を上げ、労働者の福祉がどれほど改善されるかが、今後の業界全体の動向を左右するでしょう。労働者の働きやすい環境が実現されることを期待しています。
情報元:VG247