
なぜ「Hades II」は圧倒的な支持を得るのか?早期アクセスを通じたユーザーとの対話、リリース後の迅速な軌道修正、そして「Day Zero」から始まる音楽制作など、小規模スタジオが世界を熱狂させるための戦略的決断を深掘りします。少数精鋭のチームが貫く、一切の妥協を許さない開発の真髄とはどのようなものでしょうか?
Supergiant Games(スーパージャイアント・ゲームズ)は2009年の設立以来、「Bastion」(2011年)、「Transistor」(2014年)、「Pyre」(2017年)、そして「Hades」シリーズなどの作品を手がけ、少人数体制を維持しながら高品質なタイトルを開発するインディーゲームスタジオとして知られています。
この度、「Hades II」のPlayStation 5およびXbox Series X|S向け展開、ならびに大規模アップデートの配信に合わせ、クリエイティブ・ディレクターのグレッグ・カサヴィン氏と、オーディオ・ディレクターのダレン・コーブ氏が海外メディアのインタビューに応じました。本稿ではその内容を基に、同スタジオの開発哲学と作品作りの舞台裏に迫ります。
早期アクセスを選んだ戦略的背景
Supergiant Gamesが「Hades」(2018年)で初めて採用した早期アクセスという手法は、単なるアイデアの検証手段に留まらず、複数の動機に基づいて選択されました。カサヴィン氏はその背景について次のように説明しています。
まず、スタジオとして前例のない開発手法に対する純粋な好奇心がありました。次に、作品を迅速に公開することでプレイヤーの反応を早期に確認できるという利点、そしてローグライクというジャンルとの相性の良さです。カサヴィン氏は、「ローグライクゲームはコンテンツ量に明確な基準がなく拡張しやすいため、早期アクセスとの親和性が非常に高いジャンルである」と述べています。
さらに、2018年12月の作品発表と同時に早期アクセスを開始した点にも明確な意図がありました。当時、同スタジオには「完成された状態で作品をリリースする」というイメージが定着していました。そのため、実際に開発途中の作品に触れてもらうことで、従来通りの同スタジオらしいクオリティを感じてほしいという狙いがあったとカサヴィン氏は振り返ります。
続編となる「Hades II」でも同様の手法が採用されましたが、その理由は明確です。前作がスタジオ史上最大の成功を収めた背景には、早期アクセスを通じて得られたプレイヤーからのフィードバックが、開発チーム単独では到達できなかったクオリティへと作品を引き上げた実績があったためです。
反響を反映した結末のブラッシュアップ
同スタジオの早期アクセスに対する姿勢を象徴するのが、正式(1.0)リリース後に行われたエンディングの修正対応です。この対応の経緯からは、スタジオがプレイヤーコミュニティとどのように向き合っているかが明確に示されています。
「Hades II」の正式リリース後、いち早く真のエンディングに到達したのは、早期アクセス期間中から数百時間にわたりプレイを重ねてきたコアユーザー層でした。しかし、その一部から「期待していた内容と異なる」「望んでいた結末ではない」といった意見が寄せられることとなりました。
カサヴィン氏は当時を振り返り、発売直後の週明けにはスタジオ・ディレクターのアミール・ラオ(Amir Rao)氏と、この問題への対応について話し合いを始めていたと述べています。「早期アクセスの全期間を通じてプレイヤーのフィードバックを重視してきた私たちが、正式リリースを迎えたからといって、それを無視することは一貫性に欠けると判断したためです」。
修正作業は数週間に及びました。物語の根幹は維持しつつ、プレイヤーが不満を抱いた具体的な要因を解消する形で調整が進められました。この作業にはオーディオ・ディレクターのダレン・コーブ氏も深く関与し、声優陣を再度スタジオに招いて追加収録を行う工程も含まれていました。
結果として、修正パッチの配信後、早期アクセスからプレイしていたユーザーの多くから肯定的な反応が得られ、新規プレイヤーの評価を損なうこともありませんでした。カサヴィン氏は、物語の結末がどのように受け止められるかを事前に予測することは困難であると認めつつも、「その不確実性と真摯向き合い続けることが、私たちのゲーム開発における基本姿勢です」と結んでいます。
大手各社との強固なパートナーシップ
スタジオ設立当初、「Bastion」を開発していたチームはわずか7名でした。その後、作品を重ねるごとに組織は拡大し、現在は約25名規模となっています。業界全体から見れば依然として小規模な体制ですが、それゆえに任天堂、ソニー、マイクロソフトといったプラットフォームホルダーとの協力関係が、作品の認知拡大において重要な役割を果たしています。
カサヴィン氏は、特に「Hades」のNintendo Switch展開を振り返り、「彼らとの共同作業は非常に有意義な経験でした。作品を新しいオーディエンスへ届ける上で、多大な支援を得られました。私たちのような小規模なスタジオにとって、こうした協力は知名度の向上に直結します」と述べています。
なお、PCとNintendo Switch間でのクロスセーブ(異なるプラットフォーム間でのセーブデータ共有)が実現した背景にも、プラットフォームホルダーとの緊密な関係が影響しています。早期アクセス期間が1年以上に及んだことで、数百時間ものプレイデータを持つユーザーが存在しており、カサヴィン氏は「そのセーブデータを消去するという選択肢は、私たちにはありませんでした」と語ります。任天堂の支持が得られたことで、この機能の実装へと至りました。
一方、PlayStationやXboxとの間におけるクロスセーブについては、各プラットフォーム固有の技術的制約から、現時点での対応は困難な状況にあります。カサヴィン氏は「可能であれば当然実装していましたが、技術的に容易ではないのが実情です」と説明しています。
物語と音楽が共鳴する「最初期」の設計
Supergiant Gamesの作品を特徴づける要素の一つに、音楽と物語の密接な融合があります。コーブ氏は、新プロジェクトの方向性が定まり次第、早期に楽曲の制作に着手すると語ります。「プロジェクトの最初期(Day Zero)から関与しています。世界観やトーンが見えてきた段階で音楽を作り始め、それをプロトタイプに組み込むことで、ゲームに一定の雰囲気を持たせることができます」。
カサヴィン氏も、音楽を早期から組み込む意義を強調しています。「優れた音楽家を起用していても、開発の終盤に音楽を追加する手法では、作品に与えられる影響が限られます。コーブ氏が最初から関わることで、音楽をストーリーや世界観の骨格に深く組み込むことが可能になります」。
「Hades II」では、前作の地中海的なサウンドを踏襲しつつ、今作のテーマである「魔術(ウィッチクラフト)」を表現するため、インダストリアルやシンセサイザーの要素が加えられました。また、オリンポスへの上昇という物語のスケールに合わせ、オーケストラの比重を大幅に高めています。
作曲家のオースティン・ウィントリー(Austin Wintory)氏との共同作業によって制作されたオーケストラ楽曲は、アビイ・ロード・スタジオ(Abbey Road Studios)にて約45分にわたる収録セッションが行われ、20名規模の合唱団や打楽器アンサンブルも参加しました。コーブ氏は「普段は単独で作業することが多いため、ウィントリー氏との共同作業は非常に新鮮な経験でした」と述べており、アビイ・ロードでのフルオーケストラ収録は同氏にとって念願の取り組みであったと振り返っています。
音楽はゲームプレイとも密接に連動しています。敵が出現するとドラムパートが再生され、最後の敵を倒すと消える仕様や、エリアの進行に応じて楽曲が民族音楽風からハードロック調へと段階的に変化する設計などが採用されています。こうした動的な演出により、音楽がプレイヤーの体験に有機的に組み込まれています。
キャラクターの個性を生む執筆と配役
物語面においては、ギリシャ神話を題材としながらも現代的な視点を取り入れたキャラクター造形が評価されています。カサヴィン氏は、執筆の指針として映画「プリンセス・ブライド・ストーリー」を挙げています。「ユーモアと真摯な感情を自然に両立させ、個性的で時に滑稽なキャラクターが共存しているトーンは、私たちが『Hades』で目指したものと非常に近いです」。
最も執筆が困難であったキャラクターについて、カサヴィン氏は「特定の一人を挙げることはできない」としつつ、すべてのキャラクターにそれぞれの難しさがあり、試行錯誤を重ねることで各キャラクターの造形に辿り着いたと振り返っています。
声優のキャスティングにおけるこだわりも一貫しています。プロメテウス役のベン・スター(Ben Starr)氏は、カサヴィン氏が「FINAL FANTASY XVI」のトレーラーで声を聴き、直感的に起用を決定したという経緯があります。また、イカロス役にはエイサ・バターフィールド(Asa Butterfield)氏を起用するなど、主要キャラクターの配役には妥協のない姿勢が貫かれています。
前作「Hades」でコーブ氏が主人公ザグレウスの声を担当することになった背景にも、特有のエピソードがあります。当初、オーディションで理想的な声が見つからず、イメージ共有のための仮収録としてコーブ氏自身が録音を行いました。しかし、その音声に対するチームの評価が高かったため、当初予定していた別の俳優への差し替えを行わず、最終的に正式採用へと至りました。
「一作集中」を貫くスタジオの未来像
PlayStation 5およびXbox向けのリリースと大規模アップデートを終えた現在、スタジオの今後について、カサヴィン氏は「現時点では未定である」と述べています。
Supergiant Gamesが一貫して維持している方針は、「一度に一つのプロジェクトに集中する」という点です。複数のプロジェクトを並行して開発することはせず、目の前の1作品にすべてのリソースを投入する体制をとっており、今回のPlayStation 5・Xbox向け展開もその方針に基づいて進められました。
カサヴィン氏は「複数の次回作を並行して計画するスタジオもありますが、私たちはそうではなく、今後の選択肢を改めて検討している段階です」と説明しています。一方で、設立当初の作品「Bastion」の開発に携わったオリジナルメンバー7名が現在も全員在籍しており、「このチームで可能な限り長くゲーム開発を継続することが、私たちの最も根本的な目標です」と語っています。
おわりに
Supergiant Gamesの開発スタイルは、プレイヤーとの対話、誠実なフィードバックへの対応、そして音楽・物語・ゲームプレイを一体として設計するという哲学に支えられています。早期アクセス期間中に築いたコミュニティとの関係を正式リリース後も維持し、エンディングの修正という決断を迅速に実行した姿勢は、その哲学を具現化したものと言えます。
同スタジオが次に手がける作品が、既存IPの続編となるのか、あるいは全く新しい世界観に基づいたものになるのかは現時点では明らかではありません。しかし、どのような選択を行うにせよ、その開発プロセスと成果に対して、今後も多くのプレイヤーから関心が寄せられると考えられます。
情報元:RPG Site

