
元セガ・オブ・アメリカ副社長マイク・フィッシャー氏が「Sega-16」のインタビューで、1990年代から2000年代初頭のセガ開発現場を回顧。ソニック誕生の功績をめぐる議論や、「ビリー・ハッチャー」命名時の日米間の認識相違、市場トレンドをめぐる確執など、表舞台では語られなかった貴重な証言を客観的な視点から紐解きます。
フィッシャー氏の経歴
元セガ・オブ・アメリカ エンターテインメントマーケティング担当副社長、マイク・フィッシャー氏は1990年4月にセガ本社(日本)へ入社し、1994年中頃にセガ・オブ・アメリカへ異動、1997年まで在籍しました。その後、ナムコ、スクウェア(現スクウェア・エニックス)、マイクロソフト(Xbox部門)、エピック・ゲームズを経て、2001年から2003年にかけて再びセガ・オブ・アメリカに勤務。
家庭用ゲーム機の黎明期からドリームキャストの撤退期に至るまで、セガの重要な局面に常に居合わせたその数奇な経歴から、業界内では映画の登場人物に例えて「フォレスト・ガンプ」というニックネームで呼ばれることもありました。
ソニック誕生の功績の帰属をめぐる相違
セガを代表するキャラクターである「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」の誕生には、複数のクリエイターが関わっています。フィッシャー氏の証言によると、当時セガ社内では「マリオに対抗できる新しいマスコットキャラクターの考案」を目的とした回覧が全社員に配布され、広くアイデアを募る形でプロジェクトが進められていました。
フィッシャー氏はこの過程を間近で目撃しており、ソニックの開発において以下の3名が中心的な役割を果たしたと説明しています。
- 大島 直人 氏:キャラクターデザインを担当
- 安原 広和 氏:ゲームデザインを担当
- 中 裕司 氏:チームリーダーおよびプログラムを担当
フィッシャー氏が指摘しているのは、その後の「功績の帰属」に関する問題です。中氏がインタビュー等で「ソニックの体色を青にした理由」を自身が決定したかのように語る場面がありましたが、実際にはデザインや配色は一貫して大島氏が担当したものであると、フィッシャー氏は主張しています。
フィッシャー氏は大島氏の人柄を温厚で誠実であると評価する一方、自身が書籍『Console Wars』の執筆取材に協力した動機については、事実を正確に記録として残すためであったと述べています。
また、関連する事例として、Xbox Oneの発表イベントにおけるエピソードが挙げられています。当時、大島氏は過去に手掛けた『Blinx the Time Sweeper(ブリンクス・ザ・タイムスイーパー)』への関与から同イベントに出席していました。同じく招待されていた中氏は、「大島氏が自身の功績を奪おうとしている」と言及し、同一の列への着席を拒む姿勢を示したとされています。フィッシャー氏はこうした一連の対応について、「歴史的な事実を不正確に塗り替えようとする行為」であると強く非難しています。
なお、両者はその後2021年の「バランワンダーワールド」において、ソニックアドベンチャー以来初めて共同で開発に携わっています。
「ビリー・ハッチャー」命名をめぐる経緯
2003年のゲームキューブ向けタイトル「ビリー・ハッチャー アンド・ザ・ジャイアントエッグ」の命名をめぐっても、日米で深刻な認識の相違がありました。
当時、プロデューサーを務めていた中氏は、ゲームタイトルを『Giant Eggs(巨大な卵)』とすることを希望していました。しかし、フィッシャー氏が率いるアメリカ側のチームはこれに難色を示しました。英語圏において「to lay a big egg(大きな卵を産む)」というフレーズには「盛大な失敗をする」という意味が含まれるため、商品名としては不適切であると判断したためです。
この説明を受けても中氏は納得せず、協議が続けられました。折衷案として「卵を孵化させる内容のゲームであり、主役は卵ではなく少年である」という意見が出され、主人公の名を冠した「Billy Hatcher(ビリー・ハッチャー)」という名称が提案されました。最終的に「Billy Hatcher and the Giant Egg」というタイトルで落ち着きましたが、中氏はこの決定にも不満を示していたとされています。
その後、中氏が米国を訪問した際の会議において、フィッシャー氏の強く印象に残る出来事が起こります。中氏は主人公が雄鶏の着ぐるみを着ている設定に着目し、「英語で雄鶏を意味する『Cock』を用いて、『Giant Cock』というタイトルにしてはどうか」と提案したといいます。
しかし、英語圏において「Cock」は男性器を指すスラングでもあり、ネイティブスピーカーに対して誤解や不快感を与えるリスクが極めて高かったため、この提案が受け入れられることはありませんでした。
市場トレンドをめぐる認識の相違
2001年以降、フィッシャー氏はピーター・ムーア氏(当時SOA社長)から、大人のプレイヤー層向けにM指定(17歳以上対象)タイトルの充実を提言する「ゲーマーズ・マニフェスト」の伝達を委ねられていました。これを日本語に翻訳してセガ内部に伝えましたが、日本のクリエイター陣の反応は両極端でした。
名越稔洋氏はこの提言の方向性に理解を示し、後に「龍が如く」シリーズへとつながる大人向けコンテンツの開発に取り組みました。
これに対して中氏は、同提案を「ポルノゲームを作れということか」と解釈し、強く反発したとされています。フィッシャー氏の証言によると、中氏は過去の自身のヒット実績を挙げて激昂し、非常に取り乱した様子であったと伝えられています。
フィッシャー氏は中氏について、キャリアにおいて最も仕事を進めることが困難な人物であったと言及しています。なお、中氏が後にスクウェア・エニックス在籍時のインサイダー取引の罪で、懲役2年6ヶ月(執行猶予4年)および罰金・没収命令を含む有罪判決(2023年)を受けた事実は公知の通りです。
一方で、フィッシャー氏は中氏に関する肯定的な事例として、以下のエピソードを挙げています。ドリームキャスト向けのタイトルをPlayStation向けに無断で移植・販売していた中国の海賊版制作チームの存在が発覚した際、中氏は法的手段による排除ではなく、そのチームを買収して正式な移植作業を担う開発部隊として雇用する判断を下したといいます。ただし、このエピソードについてはフィッシャー氏の伝聞に基づくものです。
現在のセガに対する評価
フィッシャー氏は、現在のセガの動向について一定の期待を示しています。特に、セガ・オブ・アメリカおよびセガ・ヨーロッパのCEOを務める内海州史氏の「過去のIPを懐古的に再利用するだけでは不十分である」という方針を高く評価しています。
同氏が特に注目しているのは、近年大きな成功を収めている「龍が如く」シリーズの進化です。従来のゲーム体験の枠を超えた物語の広がりは、セガの持つ開発の可能性を示す好例であると分析しています。
また「ソニック」ブランドについては、ファン開発者チームが手がけた「Sonic Mania(ソニックマニア)」が公式タイトルを上回る評価を得た事実を挙げ、「新しい才能に自由な挑戦の場を提供することが、今後のソニックの展開において有益ではないか」という見解を示し、「戦略を実行に移すことこそが本質的に難しい。内海氏の備える実行力は現在のセガにとって適切である」と締めくくりました。
情報元:Sega-16


