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カプコン「REX」の核心 ─ 職人技を守るAIとオープンソースの知られざる戦略

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カプコンの新エンジン「REX」が目指すのは生成AIによる自動化ではなく、クリエイターの試行錯誤時間を守るためのAI支援です。型安全な環境構築や、社外AIに自社規格を学習させる「一部オープンソース化」の深謀遠慮まで、業界の摩擦や反響を踏まえてRE ENGINE次世代化の本質と真の狙いを読み解きます。

株式会社カプコンは、2026年10月2日に東京で開幕した自社技術カンファレンス「CAPCOM Open Conference RE:2026」の基調セッションにおいて、主力ゲームエンジン「RE ENGINE(アールイーエンジン)」の次世代刷新構想である「REX(RE Next Engine)プロジェクト」の詳細を発表しました。約10年にわたり数々のヒット作を支えてきた内製エンジンを段階的にアップデートし、将来的に「AI世代のゲームエンジン」へと進化させる計画です。

当サイトが2026年7月の事前レポートでお伝えした時点では、パストレーシングなどの個別機能の先行導入にとどまり、全体の枠組みは公式に明かされていませんでした。しかし今回の講演により、プロジェクトの根幹をなすアーキテクチャが具体的に示された形です。

海外メディアでは「カプコンがエンジンにAIを統合する」という見出しが先行して拡散されましたが、この取り組みの本質は単なる技術トレンドの追認にとどまりません。その背景には、アクションゲームの命である「職人的なこだわり」を守るために裏方作業へAIを導入するという逆説的な狙いと、自社のデータ規格をあえてオープンソース化することで外部AIを取り込むという、緻密な戦略が存在します。

REX発足の背景 : 職人の時間を奪う「3大課題」

「RE ENGINE」は2014年に開発が始まり、2017年の「バイオハザード7 レジデント イービル」での本格導入以降、「モンスターハンターライズ」や「ストリートファイター6」など30作以上のタイトルに採用されてきました。描画性能と軽快な動作を両立するエンジンとして高く評価されてきた一方、稼働から年月が経つにつれ、制作現場では3つの構造的な課題が顕在化していました。

第1に挙げられるのが、ゲームの大規模化に伴うデータ量の爆発的な増加です。近年の大型タイトルは情報量が膨大になり、わずかな設定変更であってもデータの再読み込みに長い待ち時間が生じるようになっていました。手触りの微調整や当たり判定のミリ秒単位の修正といった、カプコンが得意とする試行錯誤のプロセスが、作業待ちによって圧迫されていたのです。

続く第2の課題は、開発組織の拡大とスタッフ層の多様化です。現在、国内外で2,000人規模のクリエイターが同エンジンを利用しています。プログラマー以外のプランナーやデザイナーも直感的に扱えるよう、複雑化しすぎたツール群をシンプルに再編する必要に迫られていました。

そして第3に、日進月歩で進化するAIツール群との統合です。旧来のエンジン構造にAI機能を後付けする形では、データの連携ミスや処理の重複が避けられません。長期的な運用を見据え、エンジン自体をAI支援ツールと親和性の高いアーキテクチャへ再構築することが求められていました。

これら3つの壁を取り払い、現場のスタッフが創作活動に集中できる時間を取り戻すために立ち上げられたのが「REXプロジェクト」です。

REXの主要モジュール : 段階移行を支える5大技術

7月のレポートでも触れた「開発中のプロジェクトを止めずに段階的に導入する」という方針は、各機能を独立したモジュールとして設計し、順次差し替えていく手法によって具体化されました。作業の待ち時間を削減するため、主に以下の5つの基盤技術が導入されます。

  • RE:Dox(データ共通化技術)
    ゲーム内の多様なデータを標準化する仕組み。形式の異なるデータを統一ルールで扱うことで、読み込みや編集速度を劇的に向上させます。
  • RE:UI(操作画面の最適化フレームワーク)
    開発エディターの表示・動作を軽量化するフレームワーク。多機能化に伴うレスポンスの低下を防ぎ、クリエイターが思考を途切れさせずに作業できる環境を整えます。
  • RE:Log(軽量データ記録システム)
    エラーや挙動の記録方式を刷新したログ基盤。テキスト文章ではなく固有の識別子(ID)で管理することでデータ量を大幅に抑え、検索性の向上や多言語対応を容易にします。
  • RE:Flows(視覚的な開発支援ツール)
    画面上のノードをつなぎ合わせる視覚的な操作でイベントや演出を構築できるツール。作成したロジックは自動的に共通の標準言語へ変換されるため、非プログラマーでも試作が容易になります。
  • RE:Runtime / RE:C++(高速実行基盤)
    大量のキャラクターやオブジェクトが密集する高負荷な場面でも、ハードウェアの性能を最大限に引き出す実行エンジン。人間が管理しやすいコードを、内部で最も処理効率の高い形式へ自動変換します。

また、業界アナリスト(TweakTown等)が指摘するように、カプコンはこれらのモジュールを通じて「AIが一貫してコードを理解・生成・テストできる『型安全(type-safe)』な開発環境」の確立を進めています。型安全とは、プログラム内で扱うデータの形式や規則を厳格に定義し、データの食い違いによる不具合を未然に防ぐ設計のことです。この厳密なルール設定により、AIが誤作動を起こさず正確にコードの補助や検証を行える基盤が整えられています。

「AI世代」の真意 : 職人技を守るための型安全基盤

海外で「AI世代のエンジン」と報じられた際、一部のユーザーからは「キャラクターやグラフィックの制作を生成AI任せにするのではないか」といった懸念の声が上がりました。しかし、カプコンが提示した構想の本質は、ゲームコンテンツそのものをAIで自動生成することではありません。

7月の事前レポートで触れた社内AI「REAssistAI」は、ナレッジの検索・要約を行う支援ツールにとどまっていました。これに対し、今回のREXが掲げる「AI世代」とは、クリエイターのこだわりを支えるため、定型的な負荷作業をAIに委ねる開発インフラの構築を意味しています。

カプコン作品の魅力であるアクションの爽快感や、絶妙な間合い、敵キャラクターの緻密な挙動といった「手触り」は、クリエイターが何度もテストを繰り返し、微調整を重ねることで生まれます。

REXにおいてAIが担うのは、定型的なプログラミングの記述補助や、広大なマップを自動巡回して不具合を洗い出すテストプレイ(QA)の自動化です。長大な待ち時間やバグの発見作業を自動化することで、ゲームの面白さを磨き上げるという人間にしか担えないクリエイティブな工程に、スタッフが専念できる環境を創出することが今回のAI活用の核心です。

堅実な財務規律と高い利益率を維持してきたカプコンにおいて、AIによる定型業務の短縮と人間による品質向上を両立させ、生産性の好循環を生み出す体制づくりが進められています。

オープンソース化の狙いと国内外のリアルな反響

今回のカンファレンスにおいて、発表内容を深く読み解く上で見逃せないのが、自社製エンジンの基盤技術をオープンソース(無償一般公開)として提供した点です。カプコンは発表当日の10月2日、基盤モジュールのひとつである「RE:Dox」のソースコードをGitHub上で即日公開しました(.NET向けの構造化データ処理エンジンとして公開され、標準ライブラリ比で最大約2.8倍の高速化が実証されています)。

社内独自の閉じた規格でツールを運用していると、外部の最新AIモデルがその仕様を学習できず、AIツールの進化を取り入れにくくなります。そこでデータ構造やログ規格を公開して共通規格に近づけることで、「外部のAIツールが、あらかじめカプコンのデータ規格を理解した状態で機能する環境」を整える狙いがあります。急速に進化する外部のAI技術を自社の開発基盤へ無理なく取り込むための、合理的な布石といえます。

The VergeやPC Gamer、業界ビジネス誌大手のGamesIndustry.bizなどは、このオープンソース展開やインフラの刷新を「生成AIのブームに流されない、地に足のついた実用的なエンジニアリング」として肯定的に報じました。

その一方で、この構想が海外へ伝わった際、コミュニティの受け止め方には少なからず温度差も見られました。

任天堂系メディア「Nintendo Life」が当初「AI-generation game engine」と速報した際には、「生成AIでアセットを量産するのか」という誤解が広がり、コメント欄で激しい議論が巻き起こりました。その結果、同メディアが記事内に「Update: as in ‘a game engine for the AI generation’(※AI世代向けのゲームエンジンという意味)」と注記を入れるなど、言葉のニュアンスによる摩擦も生じています。

さらに、Destructoidやスペインの3DJuegosといったメディアからは、ユーザー心理に配慮した慎重論も示されています。「現時点ではテスト自動化などの裏方支援であっても、業界全体で開発費が高騰し続ける中、将来的にはデザイン領域までAIに置き換わっていくのではないか」という警戒感です。世界的なゲームスタジオでの人員削減が報じられる中、制作プロセスの合理化が雇用や作家性に与える影響については、依然として繊細な視線が向けられています。

オープンソース化による先進的な技術戦略が評価される一方で、創作領域へのAI関与に対するユーザーの警戒感も浮き彫りとなりました。

まとめと総括 : 職人技とAIが共存する未来へ

カプコンが打ち出した「REXプロジェクト」は、RE ENGINEが築いた10年間の実績を継承しつつ、次の10年を見据えて開発環境を再構築する取り組みです。7月時点では断片的な情報にとどまっていたその全体像は、5つの独立モジュールによる段階的刷新と、AIとの協調という明確なアーキテクチャとして具体化されました。

その根底にあるのは、「職人技をAIに置き換える」のではなく、「データが巨大化する現代において、クリエイターが試行錯誤する時間を取り戻すためにAIを活用する」という姿勢です。また、型安全な環境整備と「RE:Dox」のオープンソース公開を通じて、社外のAI技術を自社の推進力に変える先見性も示されました。

開発規模の拡大と制作期間の長期化が業界全体の課題となる中、自社製エンジンの強みを守りつつオープン規格とAIを味方につけるカプコンのアプローチは、持続可能なゲーム制作に向けた現実的な回答のひとつといえます。ユーザーコミュニティの繊細な声を受け止めながら、この新エンジンが同社ならではの「手触りの良いゲーム体験」をどのように進化させていくのか、大阪会場での続報を含め、今後の展開が注目されます。

情報元:CAPCOM Open Conference RE:2026

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